第22話【紅紫の瞳】
ユリナの紅紫の瞳が妖しく輝き、闇の奔流が視界を満たした。
「偶然……そうよね。さっきの抵抗は偶然のはず」
自分に言い聞かせるように囁き、彼女は再び俺の瞳を覗き込む。
胸を抉るような恐怖が押し寄せ、心臓を鷲掴みにされた錯覚に息が止まる。
――だが、また弾けた。
恐怖は確かに流れ込んでくるのに、その根幹だけが炎に焼かれて霧散していく。
「……っ」
ユリナの眉が寄る。
彼女は間を置かずに二度、三度と視線を突き立ててきた。
恐怖。幻影。脳裏に揺らぐ影の群れ。
それでも俺は必死に睨み返し、闇を焼き払い続けた。
観客席からはどよめきが漏れる。
模倣の正体までは誰にも分からない。ただ、確かにユウマが“視線”に抗っていることだけは伝わった。
――分かる。
俺の中に流れ込んだ情報で、彼女の能力の本質を理解した。
ユリナの瞳は、相手の“魂”を揺らし、恐怖を植え付ける。
その一瞬の隙を、闇の魔力で制圧して戦闘不能に追い込む。
だから彼女の勝利には派手さがなく、ただ相手が倒れるだけに見える。
得体が知れないと言われる所以は、まさにそこにあった。
けれど俺の《神鏡の眼》は、その“入口”だけを映し返している。
恐怖を植え付ける視線の部分までは模倣できる。だが――その後の“闇の制圧”は俺には使えない。
だから完全には再現できない。
「……なるほどな」
荒い息を吐きながらも、思わず口角が上がる。
「お前の力も完璧じゃないってことか」
ユリナの表情がわずかに揺らいだ。
紅紫の瞳に、初めて明確な“警戒”が宿る。
「……面白いじゃない」
彼女の声は低く、だが確かな熱を帯びていた。
「あなた、私にとって――“初めての例外”みたいね」
互いの視線が交錯する。
その瞬間、俺も悟っていた。
――この女は俺の天敵。
そして、俺もまた彼女にとっての異物。
宿命的な関係は、ここで決定的に刻まれた。
ちょっと短いですがキリがいいので。
ユリナ戦を区切りとして1章としようと思います。




