第1話【入学試験】
王都学園の試験会場は、人で溢れかえっていた。
広い講堂に並べられた椅子、その上で緊張に身を固める受験生たち。
村育ちの俺は場違い感でいっぱいだった。
「それでは――魔力量測定を開始する」
試験官の声が響く。受験生が一人ずつ壇上へ上がり、水晶球に手をかざす。
光が強いほど魔力量が多い。Sクラス入りする者は、ここで強い輝きを見せるそうだ。
頼む……弱めで出てくれよ
順番が回ってきた俺は、水晶球にそっと触れる。
すると――
バキィンッ!
嫌な音とともに、水晶がひび割れ、粉々に砕け散った。
講堂にどよめきが走る。
「な、なんだ今のは……!」
「測定器が……壊れた!?」
……おいおい、目立つなっての!
俺は必死にしらを切った。
「す、すみません! 田舎育ちなので力の加減が分からなくて……」
試験官たちは困惑しつつも「誤作動かもしれない」と判断し、次の試験へ移ることになった。
続いては、魔法実技試験。
魔力量測定にて一定値を超えたものが参加でき、五人一組にて各自が得意な魔法を披露する。
順番を待つ中、同じ組の女性が挨拶をしてきた。
「フレイムハート家、エリカよ、どこの田舎出身か知らないけど邪魔だけはしないでよね」
「ユウマ・イチノセだ。フレイムハート家ってのは有名なのか」
田舎育ちゆえ王都の情報には疎く、有名なのかもわからない。
「あんた四大一族のフレイムハート家を知らないっていうの」
どうやら王都には四大一族っていうのがあるらしい。
「次の組、準備しなさい」
もう少し詳しく聞きたかったが。試験官から準備するよう声がかかってしまった。
広い訓練場に、五人一組の受験生が並ぶ。
俺の隣には、先ほどの赤髪の少女――エリカ・フレイムハートも立っていた。
開始前に各自名前を述べていく。
「エリカ・フレイムハートです」
彼女が名乗った瞬間、ざわめきが広がった。
さすが四大一族。その名は皆が知っているようだ。
「ユウマ・イチノセです」
先ほどとは異なり、俺の名乗りには誰も反応は示さない。
「では、始め!」
試験官の合図で、周囲の四人が一斉に魔法を放つ。
炎、氷、風、雷――それぞれが自分の得意を披露していく。
……やばい、俺はどうすればいい?
《神鏡の眼》はまだ一度も使ったことがない。
俺はただの田舎者、魔法なんて発動できる自信はなかった。
迷いと焦りで動けずにいると――
「――燃えろ、ファイアボール!」
隣のエリカが魔法を放った。
小さな炎弾が空へ舞い上がる。……だが威力は控えめで、観客席からは失笑が漏れる。
「やっぱり落ちこぼれか」「名門も形無しだな」
エリカの肩が震える。
……まずいな
その瞬間、俺の視界に白い本が浮かび上がった。
ページが勝手に開き、赤い文字が刻まれる。
――《炎弾:模倣完了》――
次の瞬間、胸の奥に熱が宿った。
理解する。――これが俺の《神鏡の眼》。
熱に導かれるままに思わず手を突き出した――
――ドォンッ!!!
轟音とともに、巨大な火球が放たれた。
訓練場を揺らすほどの爆炎。
他の受験生の魔法はかき消され、ただ一つ、俺の炎だけが会場を支配する。
観客席がどよめいた。
「な、なんだあの火力は……!」
「フレイムハートの娘が、覚醒したのか!?」
視線が一斉にエリカへと注がれる。
ワンテンポ遅れて俺が放ったことなど、誰も気にしていない。
「えっ……わ、私……?」
エリカは戸惑いながらも、唇を震わせていた。
俺は慌てて口を開く。
「さ、さすが! 四大一族のフレイムハートさんの魔法だ! 俺のファイアボールなんて飲み込まれて消えてしまった!」
試験官たちは互いに顔を見合わせ、頷いた。
「さすが名門の血筋……これほどの力を隠していたとは」
……こうして、俺は何とか平凡を装った。
だがその代償として、エリカは実力以上のSクラス認定を受けることになるのだった。




