第17話【月下の検証】
夜の訓練場。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、月明かりが石畳を白く照らしていた。
リナには俺の能力の検証と特訓を兼ねて時間をもらうことになった。
「……じゃあ、始めますね」
リナが静かに水の宝珠を掲げる。透き通るような魔力の波が夜気に広がった。
「――《アクア・ジャベリン》」
鋭い水槍が彼女の掌から生み出され、音もなく宙を走った。
俺はその光景を凝視する。だが――
……白い本は現れない。
「……反応しない?」
思わず声に出すと、リナも目を細めた。
「やはり、距離が原因かもしれません。もっと近づいて試してみましょう」
彼女が数歩進み、再び魔法を放つ。
中距離――まだ本は沈黙を保ったまま。
さらに近づく。
今度は俺の肌に冷たい気配が触れるほどの距離。
「――《アクア・ジャベリン》」
その瞬間、白い本がぼんやりと浮かび上がり、ページが淡く光を帯びた。
――《アクア・ジャベリン:模倣完了》
胸の奥に水の冷たさが流れ込んでくる。
リナにも模倣が成立したことが伝わったようで、小さく頷いた。
「……やっぱり、この距離でなら模倣が発動しましたね」
「つまり……視覚だけじゃなく、魔力の波を受け取れる距離が条件ってことか」
「ええ。近距離戦では危険ですが、その代わり模倣は確実。逆に遠距離では安全ですが、あなたは力を得られない」
なるほど……万能じゃない、ということか。
俺は内心で安堵と不安を同時に覚えていた。
「……条件があるなら逆に好都合かもしれないな。どこで誰の魔法でも模倣できたら、それこそ怪しまれる」
「けれど戦場では……距離を選ぶ余裕はないかもしれません」
リナの瞳は真剣で、静かに俺を射抜いていた。
――俺の力は万能じゃない。
だからこそ、制御し、条件を理解して使いこなさなきゃならない。
俺は小さく息を吐き、次の提案をする。
「次は威力を試してみたい。リナと同じ魔力で発動して、どれくらい差が出るか確かめたい」
「そうですね。同時にぶつけて検証しましょう」
「――《アクア・ジャベリン》!」
「――《アクア・ジャベリン》!」
互いの水槍がぶつかり合い、鋭い衝撃音を響かせる。
しかし拮抗することもなく、俺の水槍がリナのそれをあっさり打ち砕いた。
「……やっぱり模倣した魔法は、元の使い手よりも強くなるのか」
思わず呟いた俺の手を、リナが見上げて取った。
「大丈夫ですか?」
「こっちの台詞だ。無理させてないか?」
緊張が解けたのか、リナが小さく息を吐いた。
「変ですね。みんなの前では落ち着いているのに、今のユウマさんは少し焦って見えました」
「俺だって人間だ。焦るときはある」
「ふふ……意外です」
リナの口元が、ほんのわずかに綻んだ。
その笑みを見たのは初めてかもしれない。
「リナは……怖くないのか? 俺みたいな、よく分からない力を隠してる奴と一緒にいるの」
一瞬、彼女は目を伏せた。
だがすぐに、揺るぎない声で答える。
「……怖いですよ。でも、それ以上に――見極めたいんです。あなたの力が脅威か、希望か」
その言葉に、胸がざわめいた。
怖いと言いながらも、俺を突き放さない。
彼女の真っ直ぐさに、不思議と安心感を覚える。
「お互い、面倒なもんを背負ってるな」
「……そうですね」
リナは微笑んだが、その瞳の奥には哀しげな光が宿っていた。
こうして俺とリナの特訓は続いた。
距離と条件を変えながら、模倣の限界を探る夜。
ただの検証のはずなのに、不思議と心の距離まで少し縮まった気がしていた。
――この力は制御できる。
条件を理解すれば、使いこなせる。
そして次に待つのは……クラス全体を巻き込む衝突だ。
月明かりの下でそう思い定めたとき、胸の奥に静かな決意が灯っていた。
最近エリカさんの影が薄い気が…




