第14話【瞳無き影】
光が弾け、景色が歪んだ。
次の瞬間、俺たちはダンジョン入口前の広場に立っていた。
――《帰還石》の発動だ。
石造りの門を背に、冷気も怪物の咆哮も消えている。
まるで夢だったかのように。
「……本当に、戻ってきた……」
リナが小さく息を吐いた。
彼女の手はまだ宝珠を強く握りしめ、震えを抑え込んでいる。
隣では、エリカが荒く肩で息をしていた。
その紅の瞳にはまだ戦いの余熱が残っている。
ショウは――地面に仰向けに倒れたまま、まだ意識を失っていた。
しばらくして、呻き声が聞こえた。
「……う、うう……ここは……?」
ショウが目を覚まし、上体を起こす。
辺りを見回した彼の顔に、安堵と困惑が入り混じる。
「俺たち……勝ったのか……? あれからどうやって……」
問いかけに、一瞬の沈黙。
リナが言葉を探す前に、エリカが口を開いた。
「――私の渾身の魔法で仕留めたのよ」
短く、しかし強い響きを持つ声だった。
紅の髪を揺らし、堂々と前を見据えている。
「……そっか……さすがだな、フレイムハート」
ショウは納得したように笑い、再び地面に体を預けた。
その笑みに疑念はなく、純粋な信頼が宿っていた。
俺は小さく息を吐いた。
――これでいい。俺たちにとっては、それが一番無難だ。
そこへ、冷ややかでありながら凛とした声が響く。
「帰還を確認した。全員、よく無事にボスを倒し生還したな」
セシリア教官が広場へと歩み寄ってきた。
白銀の髪が夕陽を反射し、冷たい光を放つ。
満身創痍の俺たちを見てセシリアが怪訝そうに言葉を放つ。
「報告しなさい。――何があった?」
俺は息を呑む。
隠すべきか、それとも……。
けれど、あの怪物を黙っていても無意味だろう。
俺は正直に語った。
「ボスは、普通のミノタウロスじゃなかった。眼窩に瞳がなく……まるで、魂を抜かれたみたいな……」
その瞬間――
「――今、なんて言った?」
背後から鋭い声が突き刺さった。
振り向けば、次に入場するはずのチームが控えている。
その中で、漆黒の髪を揺らした少女が一歩前へ出ていた。
ユリナ・ダークネスト。
彼女の紅紫の瞳が、怒りに燃えるように揺れていた。
「瞳の……ない、ミノタウロス……?」
その言葉を繰り返す声は、低く震えている。
だが次の瞬間には、感情を爆発させた。
「ふざけないで……!!」
広場の空気が凍り付く。
彼女の放つ殺気が、まるで刃のように周囲を突き刺した。
「……どうして……あんな“モノ”がここに……!?」
握り締めた拳が白くなるほど強張っている。
俺は息を呑んだ。
――これはただの反応じゃない。
まるで、あの怪物と“繋がり”があるかのような……。
「……お前、名前は?」
唐突な問いに、俺はわずかに息を詰めた。
セシリア教官も視線を向けている。逃げ道はない。
「……ユウマ。ユウマ・イチノセだ」
ユリナの瞳が細まり、その名を心に刻むように呟いた。
「……ユウマ・イチノセ、ね。弱者のクラスの凡人なんて、眼中になかったけど……」
唇が冷たく歪み、吐き捨てるように続ける。
「――その名前、覚えたわ」
その声音はまるで呪詛。
敵意か、警戒か、それとも別の感情か。
だが確かに、俺の存在は彼女の中に刻み込まれた。
広場の空気が一段と張り詰め、セシリアの鋭い眼差しが俺とユリナを交互に射抜いた。
――その日を境に、俺とユリナの間に避けられない「接点」が生まれたのだ。
Sクラス ユリナ・ダークネストの登場です。
果たして敵か味方か…




