第12話【決意】
第三階層へと続く重い扉の前。
冷気が漏れ出し、奥からは獣の唸り声にも似た低音が響いていた。
俺たち四人は足を止め、自然と円を組んで向き合った。
「……ここが、ボス部屋か」
ショウが肩を回し、緊張をほぐすように風を纏わせる。
軽口を叩くように笑ったが、その目は真剣だった。
「その前に説明しておきます」
リナが口を開く。
「ダンジョン攻略には《帰還石》が用意されています。これは全員が戦闘不能と判断された場合かボスを討伐した後に使用することで発動可能です」
「戦闘不能か……全員意識を失っていたらどうなる?」
俺が問い返すと、リナはこくりと頷いた。
「その場合は自動的に発動し、全員がダンジョン外に転移します。訓練用ダンジョンだからこその安全策です。……ですが、意識があるなら自分で発動しなければなりません」
「なるほどな。便利なものだけど、結局“全滅寸前”まで行けばそれで終わりってわけか」
ショウが苦笑し、剣を軽く振った。
エリカが俺にだけ聞こえるように小声で口を開いた。
「このままじゃ……勝てない」
紅い瞳に宿るのは強がりではなく、切迫した焦りだった。
「……あんたなら、わかるでしょ。魔力も限界。炎だけじゃ押し切れない。だから――力を使って欲しい」
俺は一瞬だけ目を細め、すぐに視線を逸らした。
仲間たちに聞かれぬよう、低く返す。
「……目立たないように上手くやる。お前を“本物”に見せかける形でな」
エリカは一瞬だけ息を詰め、やがてわずかに微笑んだ。
「……ありがと」
そのやり取りを終えると、彼女は皆の方へ振り返った。
わざと声を張り上げる。
「残りの魔力をすべて使って、本気を出すわ!」
その宣言は、決意を示すものであり――同時に俺との秘密の取引を覆い隠す“演技”でもあった。
「おおっ! やっとエリカの本気が見れるってわけか!」
ショウが満面の笑みで拳を叩き合わせる。
その声は緊張を和らげ、場を勢いづける。
リナは冷静に言葉を添えた。
「……短期決戦しかありません。魔力の残存量を考えれば、長期戦は危険です。エリカさんが前衛で突破口を開き、ショウさんが風で援護。私が防御と回復を担当します」
「じゃあ俺は……後ろで支援役、だな」
俺は自然にそう言いながら、内心で決意を固めた。
――バレないように、けれど確実に“力”を使う。
ショウが拳を突き上げた。
「よし! やるしかねぇだろ!」
エリカは胸を張り、紅い髪を揺らす。
「フレイムハートの名に懸けて、この戦い……必ず勝つ!」
その声に、俺もリナも小さく頷いた。
冷気が漂う扉が、重々しく開かれていく。
闇の奥からは巨大な影の気配――。
いよいよ、俺たちの試練が始まろうとしていた。




