第11話【第二階層の試練】
第二階層。
空気はさらに重く、湿った匂いの中に獣臭が濃く混じっていた。通路の壁には苔がびっしりと張り付き、じわりと水滴が垂れている。
「気を引き締めろ。ここからは数も強さも一段上がるぞ!」
ショウが風を纏い、先頭を歩きながら声を張る。
その言葉の通り、通路の先には牙をむき出しにした魔物の群れ――牙猪や大きな狼型の魔物が複数待ち構えていた。
「――《ウィンド・ストーム》!」
「――《ファイア・ランス》!」
ショウとエリカが同時に詠唱。
風渦と炎槍が絡み合い、轟音と共に炎の刃となって敵を切り裂いた。
牙猪は一瞬で焼き斬られ、狼型も炎に包まれて消滅する。
「おおっ……!」
その場に立ち会った俺でさえ、思わず息を呑んだ。
炎と風の相乗効果――二人の連携が確かに威力を倍増させていたのだ。
「どうよ! 俺たち、なかなかのコンビだろ!」
ショウがにやりと笑う。
「……ふん、当然よ」
エリカは素っ気なく答えながらも、わずかに頬が紅潮していた。
――けれど、俺の目は別のことに気づいていた。
魔物の数が多いせいで、二人の魔力の消費が激しい。
額にはうっすら汗が浮かび、息も荒くなり始めている。
……この調子だと、長くは持たないな
俺はふと、脇から迫ってきた狼型へ右手をかざした。
「――《ファイア・ボール》」
掌から小さな炎弾が放たれ、魔物の顔面を直撃する。
爆ぜる炎は確かに敵を倒したが、その威力はエリカの半分ほど。
しかし込めた魔力はわずかで、消費はエリカの十分の一程度に抑えていた。
……これなら、ただの下位互換に見えるはずだ
「おっ、ユウマもやるじゃねぇか!」
ショウが振り返って笑う。
「……まぁ、多少はな」
俺は肩をすくめて答えた。
だが――リナの瞳が一瞬だけ俺を射抜いた。
その静かな視線は、まるで「効率の異常さ」に気づいているかのようで。
俺は何も気づかないふりをして背を向け、再び後衛に回った。
前衛を押し返すショウの風の渦を凝視した瞬間、視界に白い本が浮かび上がる。
ページが開かれ、赤い文字が刻まれた。
――《ウィンド・ストーム:模倣完了》――
胸の奥に風が駆け抜けるような感覚。
理解する。これで俺も“風”を使える。
……また一つ、増えちまったな
だが、それを表には出さない。
俺の望みは平凡であること。強さなんて、誰にも知られたくはない。
「よし、片付いたな!」
ショウが息を切らしながらも勝ち誇った声をあげる。
「まだ二階層に入ったばかりです。油断しないでください」
リナが冷静に告げると、エリカも短く息をつきながら頷いた。
魔力を削られ、消耗し始める二人。
この先の戦いが、さらに過酷になることは間違いなかった。
俺は胸中でそっと呟く。
――極力目立ちたくないが、この先仲間が窮地に陥ることがあった場合、
その時俺はどうするのか……。
暗い通路の奥で、何か巨大な影が蠢いた。
重い足音がかすかに響き、第三階層の気配を告げていた。




