第10話【疑問】
「なぁ、リナ。さっきのスライムやゴブリン……倒したあと、跡形もなく消えてたよな。あれってどういう仕組みなんだ?」
俺は歩きながら疑問を口にした。暗い通路に水滴が落ちる音だけが響いている。
リナは水の宝珠を撫でながら、静かに答えた。
「ここは訓練用ダンジョンですが、通常のダンジョンと変わらず魔物はすべて“ダンジョンコア”から生まれます。討伐されると魔力に還り、コアへ戻るので死体は残らないんです」
「……じゃあ、いくらでも復活するってことか?」
「はい。ただし訓練用の場合は、ボスを討伐してもコアは破壊しません。だから繰り返し攻略できるんです。学園が管理しているのもそのためです」
彼女は表情を引き締めた。
「ですが、すべてのダンジョンがこうではありません。危険度の高い迷宮では“逆流”が起こる可能性があります。魔物がコアの制御を越えてあふれ出すんです。そうなれば村や街が一つ、容易に飲み込まれてしまうでしょう」
「逆流……」
背筋が冷たくなる。俺の育った村が、そんな脅威に晒されたらと思うとぞっとした。
リナは一度息をつき、俺を正面から見た。
「ユウマさん。……確認したいのですが、あなたはどんな魔法が使えるんですか?」
「え?」
「第二階層からは強敵が増えます。連携を強めるため、チーム全員の力を把握しておきたいんです」
その声音は理性的で柔らかかった。けれど、瞳の奥にはわずかな疑念が宿っているように感じられた。
俺はほんの一瞬迷ったが、すぐに肩をすくめて答えた。
「……炎が少し使える程度だ。せいぜいファイアボールくらい。エリカの下位互換ってところだな」
あえて自分を低く見せる。俺の望みは目立たず、平凡でいることだからだ。
リナはしばし俺を見つめ、やがて小さく頷いた。
「……分かりました。次からは役割分担を意識して進みましょう」
彼女はそれ以上は何も言わなかった。
だが――その瞳にはまだ、わずかな探る色が残っている気がした。
==リナSIDE==
(……あのとき、私は確かに見た)
入学試験の魔力測定。
ユウマ・イチノセが水晶球に触れた瞬間――ありえないはずの破壊音が響き、測定器は粉々に砕け散った。
後ろの列にいた私は、その光景をはっきり目にしていた。
だが試験官たちは「機器の故障」として処理し、すぐに次へ進めてしまった。
(……故障? そんなもの、ありえるはずがない)
四大一族の血を引き、幼い頃から数々の測定を受けてきた私にはわかる。
あの水晶球は、王国が誇る精緻な魔導具。
“魔力量”そのものが規格外でなければ、決して壊れることはない。
それなのに、誰も疑問に思わず、話題にもしなかった。
――ただ一人、私を除いて。
(ユウマ・イチノセ。あなたは一体……何者なの?)
そして今、彼は自分を「炎が少し使える程度」と卑下してみせた。
水のことには一切触れず、まるで意図的に隠しているように。
模擬戦で見た炎と水の二属性、そして測定器破壊。
点と点が線になりかけている。
けれど今はまだ、その線を口に出すべきではない。
(……真実は、私が見極める)
彼の背を追いながら、私は胸の奥でそう静かに誓った。
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仕事中に執筆すればストック復活できることに気づきました。




