プロローグ【封筒が届いた日】
鳥の声と澄んだ川のせせらぎで目を覚ます。
ここは自然豊かな村――畑を耕し、狩りをして暮らす、人々が互いに助け合って生きる場所だ。
便利な魔導具も、華やかな魔法も存在しない。
「魔法なんてものは遠い世界の話」――村人たちは皆そう信じて疑わなかった。
俺、ユウマ・イチノセはそこで生まれ育った。
いや、正しく言うなら「拾われて育てられた」だ。
俺は孤児で、出生も親も分からない。だが、両親代わりとなってくれた人と、年の離れた妹のおかげで、村の子として何不自由なく生きてこられた。
「兄さま、今日も畑手伝う?」
妹の声が聞こえる。朝の光に照らされた彼女の無邪気な笑顔を見ると、胸が少しだけ温かくなる。
「いや、今日は父さんと森に狩りだ」
「えぇ〜、兄さまは畑の方が似合うのに!」
何気ない会話。それが俺の日常だ。
……けれど俺は知っていた。
自分がこの村の誰とも違う存在であることを。
前世の記憶は一切ない。だが俺は転生者であり、幼い頃から“何かを映す眼”――《神鏡の眼》の存在を知っていた。
とはいえ、この村では誰も魔法を使えない。俺も力を試したことはなく、ただ心の奥で「普通でいたい」と願いながら生きてきた。
その日、村に一通の封筒が届いた。
郵便を受け取った父が、手にしたまま固まっていた。
「ユウマ……これを見てみろ」
差し出されたのは、質素な茶色の封筒。だが王都の紋章が押されている。
俺が手に取った瞬間――
封筒が淡く光を帯び、表面の色が溶けるように変化していく。
簡素だった封筒は、赤と金の紋章に飾られた格式高い封書へと姿を変えた。
封は勝手に開き、中から一枚の羊皮紙が浮かび上がる。
そこに記されていたのは――
『魔力適性あり。王都学園入学試験の受験資格を与える』
一瞬、空気が凍った。
次の瞬間、両親が息をのんで顔を見合わせ、妹が目を輝かせる。
「兄さま、すごい! 魔法使いなんだ!」
「ユウマ……お前、本当に……!」
騒ぎを聞きつけて、近所の人々も集まってくる。
「イチノセの子が?」「この村に魔力持ちが?」「まさか……!」
魔法など一人も使えないはずの村で、奇跡のような出来事。
皆が口々に俺を讃え、「村の誇りだ!」と肩を叩いてきた。
……だが俺は、心の奥でため息をついていた。
(やっぱり……こうなっちゃったか)
隠しておきたかった。
目立たず、家族とこの村で静かに生きていければ、それでよかった。
だが、封筒は抗えない運命を告げている。
そして一か月後。
王都に聳え立つ学園の門前に、俺は立っていた。
石造りの巨大な校舎、整然と並ぶ制服姿の受験生たち。
俺のような田舎者は浮いている。
「目立たず、無難に……それだけでいい」
そう小さくつぶやく。
だが、このときの俺はまだ知らなかった。
この入学試験こそが――俺の運命を大きく狂わせる始まりだということを。
初投稿です。
地道に頑張りますのでよろしくお願いいたします。




