見習い魔剣士の探検
「もちろんございますよ」
「マジですか?」
魔剣士候補になってしまった私とその相棒の雪姫ちゃん。魔法どころか剣すらも使えない私はわらにもすがる思いでエリックさんを訪れた。エリックさん曰く、冒険者支援の一貫としてそれぞれの役職に合わせた訓練をしてくれる場所があるとのこと。その場所を聞き、訓練場があるという施設、マホーメルカドーへと向かっていた。
「なんか初めて聞いた気がしない場所だね、メルカドーって」
「訓練場に加えて食品や日用品、冒険者向けの品物の取り扱いもしているみたいですよ」
「やっぱり知ってる場所かも」
訓練場があるのは2階にある”冒険者のフロア”。1階の"生活のフロア"とは異なり、人の気配がほとんどない。そのせいもあってか、稽古をつけてくれる先生が常駐しているのではなく、月に何度か来てくれる方式になっているそうな。今日はたまたま魔剣士担当の先生が来てくれているみたいでラッキーだ。冒険用具を横目に足を進めていくと、道場の前へとたどり着いた。「頼もー!」とか言うのかなと悩む間もなく、1人の女性に声をかけられた。
「お前さんが新しい魔剣士だね?」
「は、はい!よろしくお願いいたします!」
私より年上かなといった感じで、なんかオーラがすごい女性。おそらくこの人が魔剣士の先生なのだろう。歴戦の?みたいな、確実に凄腕の人物であることが素人目に見ても伝わってくる。
「私が聞いてたのは1人だったけども…そっちのお嬢さんも魔剣士であってるかい?」
「いいえ。私はマスターの神器ですので、見学だけということになります」
「ほう神器ねぇ…イマドキのは随分とかわいらしいじゃないか。着いてきな」
この人、神器のことを知ってる!?もっと驚くのかと思ってたけども… 案内されるがままに入ったのは、フィットネススタジオのような鏡張りの部屋。技の動きとかを確認するのかな。
「アタシはエリサ。ちょっと前まで魔剣士やってたけど、引退して今は若いのを育ててる」
「私が氷夜で、こっちのかわいいのが雪姫です!よろしくお願いします!」
「よろしくお願いいたします」
「見たところ、剣も触ったことなさそうなか弱いお嬢さんだけども、ほんとに大丈夫かい?」
「根性には自信があるので!」
「こっちに来てからたくさん泣き言聞きましたけどね」
「そこ、静かに」
「ははっ。愉快でいいコンビじゃないか。じゃあまずはそこに置いてある剣を持ってもらおうかな」
「持つだけなんて楽勝ですよっと… 」
あれ?全然持ち上がらない。入院生活で力が弱くなったとかじゃなくて、純粋に剣が重すぎる。たしかに今までの人生で剣なんて持ったことないけれど、大きすぎるってものでもなさそうだし、おかしいな… もしかして私は魔剣士以前に剣士にすら向いてない!? せっかくきた異世界だし、こんなとこで躓いてる場合じゃない!!
「マスター、とんでもない形相ですよ」
「こっちは頑張ってんのよ!!フヌヌヌ…」
「まあ、持てなくても仕方ないよ。だってそれ超高級品だもん」
一昔前のアニメみたいに、頭から床に転げ落ちた。そんなもん最初から持たすなー!!
「最終的にはこれを扱えるくらいにはならないとね。魔王は倒せないと思うよ」
「はぁ…はぁ… もっと初心者向けのはないんですか!?」
「ホレ。こいつなら持てるだろうに」
「ちっさ!!」
もうただの包丁と変わらない長さじゃん。普通に持てるし振り回せるけども、こんなので戦えるの??リーチ短すぎて接近されたらワンパンされそうなんですけど。
「まあそいつは魔剣士に慣れるための練習用だから。ところで、最初のやつがべらぼうに重かったのには理由があるのだけど、そっちのお嬢ちゃん、答えられるかい?」
「当然です。高級品にふさわしい高価な金属が使用されているからです」
「う~ん、間違いではないだろうけど、決定的な正解ってわけでもないね」
あ、ちょっと顔赤くなってる。実際、私も高級な素材を使ってるからだと思ったけど… 重い方で殴った方がパワーはありそうだけど、魔剣士にパワーってあんまり重要そうじゃなくない?
「お手上げです!教えてください!」
「潔いね。答えは簡単… より多くの魔力を流し込めるようにしてあるからさ。より強力な魔法を使うとなると、より多くの魔力を消費するのは当たり前。だから容器となる剣もそれに耐えられるように大きく重くなってるのさ」
「ですがそこまで高級ソードは大きくないのでは?」
「高級ソードて… こいつは高級だから例外なのさ。またキミらがレベルアップしたら教えるさ。とりあえず今はその小さな剣で我慢してくださいな」
結局、高級ソードは謎に包まれたままだ。包丁を素振りしてみるけどイメージが湧いてこない。長い剣ならファンタジーだけど、包丁振り回すのはギリ現代日本の不審者でしょ。まあ愚痴ばっか言ってても仕方ないからこいつでドデカい冒険始めますか。包丁振り回して最後に刺すってのであってるかな?蝶のように舞い蜂のように刺す感じでやってみよう。
「あの娘はいったい何をしているんだい?」
「さあ?短剣を貰って楽しくなっているのではないでしょうか。しばらく放っておきましょう」
雪姫ちゃんと先生がなんか話してるのが気になるけれど、今は集中しなくちゃ!ただでさえ魔力がハナクソレベルなんだから、せめて俊敏に動けるようになってカバーしないと。想定するのはでっかいドラゴン。口から吐いてくるビームを華麗なステップで躱して懐に潜り込む。そのまま弱点を狙って…
「今だ!短剣ガリバー!!」
ガリバーに突き刺されたドラゴンはその場に倒れ込み動かなくなった。こうして私はなんなく怪物を退治し、村の英雄に…
「はいそこまで!熱心なのはいいことだけど色々と問題がありますなあ」
「はあ… はあ… 私の英雄譚のどこに問題が…」
「バカなこと言ってないでちゃんと話を聴いてくださいね」
「まあツッコンだらキリがないって感じではあるけども… とりあえず今日は終わりにしよっか」
「そんなぁ!まだ私戦えます!!」
「ええ… 戦いじゃなくて、ご飯食べに行かない?相当お腹空いてそうだし」
「行きます!私行きまぁぁす!!」
視界の端でドン引いてる雪姫ちゃんが見えた気がしたけどまあいっか!ご飯とっても楽しみだな~!




