Go to 異世界キャンペーン (チートアイテム付き)
日々の労働に耐えぬき、己の欲望を満たすためにひたすら食べる。決してホワイトとは言えない会社に勤めている私、水谷氷夜にとってドカ食いは至福の時間である。そう思っていたのに。
「水谷さんの容態が急変しています!」
看護師さんたちが慌てている光景にも慣れてしまった。入院をしてはや2週間、食べ過ぎが原因で生死の境目をさまよっている私は大好きだった食事も摂れないほどに体が限界を迎えているらしい。社会人になってから5年。深夜に爆盛りラーメンを食べる生活を続けていたツケがこんなにも早く来るとは正直思わなかった。こんなことになるならいっそ死んだ方がいいのにな。賢明に駆け寄る看護師さんとは裏腹にネガティブなことばかり考えてしまい自己嫌悪に陥ってしまう。今日も生き延びてしまった…そう考えていると、意識がなくなるように眠りについてしまった。
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「起きてください… 起きてくださいってば」
「うるさいなー。休日にまで電話かけてくんなよー」
「お仕事の電話ではありません… 起きてください…」
「だああああ!うるさいってば!!」
しつこいモーニングコールで目が覚める。するとどうだろう、ここは見慣れてしまった病室ではなかった。辺り一面を覆い尽くす純白の中に、異分子である私が放り込まれたような、そんな不思議空間に女神が立っていた。
「よくぞ目を覚ましてくれました。お体はどうですか?」
「どうも何もどちらさまですか…って、私普通に立ててんじゃん!」
さっきまで寝たきり状態だった私が2本の足をしっかり地面につけて会話をしている。体に痛みはなく、飛び跳ねてみてもなんら問題はない。コレが死後の世界というやつだろうか。目の前にいる人なんか聖なるオーラ的なの放ってるし、天国行き確定したってことかな。
「数日前からあなたが三途の川を行き来しているのを眺めていました。はっきり言って食べ過ぎですよ?」
「だってまぁそんくらいしか楽しみってなかったしー…」
「特になんですか、あの異様に卵がトッピングされたラーメンは…あんなの毎日食べてたらそりゃあ死にかけますよ」
「あ、死にかけなんですね私。というか、あのラーメンの卵は昔に比べると数が減ってて…」
「そんなことは誤差ですよね!?それに加えて休日には食べ放題に行き、深夜遅くまでネットサーフィン。働いているとはいえ自堕落がすぎます!」
「ぐう…」
「ぐうの音を本当に出す人間を初めて見ましたよ。全くもう…本題に入りますね」
「はーい。これって、話題の異世界転生ってやつですか!」
「厳密に言うと、異世界転移ですね。あなたの体や記憶はそのままで異世界に行ってもらいます。そのままと言っても、死にかけていた体ではなく、あくまで健康にした状態とはなりますが」
「めちゃめちゃお得じゃん!それでー、チートアイテムとかないんですか?」
「チートアイテム…神器のことですね。そちらにございますよ」
異世界転生モノのお約束とも言えるチートアイテム。とんでもなく強い武器だったり、止めようのない理不尽なスキルだったり、それが私の手に入るのかとワクワクが止まらない。興奮の冷めない中で女神の手の先を見ると、そこには雪の妖精みたいなお姫様がいた。肩にかかるくらいの美しいベビーブルー色の髪にルビーのように綺麗な赤いお目々。うっわかわいすぎる。身長も私より小さいし、この娘がチョロチョロ歩いてるの絶対かわいいやつじゃん。え、この娘が本当に神器なの?こんなか弱そうな娘、私が守護るべき尊い存在なのでは??
「ごきげんようマスター。私は万物生成AIのαです。これからあなたとともに冒険をし、魔王を討ち取りましょう」
「ああああああああ!!!!!!かわいい!!!!名前がRTAの適当につけたやつみたいになってるし、魔王討伐なんて聞いてないけどまあいっか!!」
「…気持ちの悪いマスターですね。マスターが望むのであれば、名前の変更も可能ですがどうしましょう」
え、なにこの蔑むような目は。てか魔王討伐なんて聞いてないんですけど。あと万物生成AIって何?なんでも作れちゃうすごい娘ってこと??まあいったんおいといて、この娘に似合うかわいい名前がいいな。やっつけでつけられたみたいな名前じゃかわいそうだもん。
「じゃあ…雪姫ちゃん!冬に降る雪にお姫様の姫で雪姫ちゃんね!」
「姫という字は発音上の観点から必要性がなさそうですが、それでいいです。改めまして、私は万物生成AIの雪姫です。よろしくお願いします」
「かっったいな~!!!ひよちゃんは雪姫ちゃんのかわいい笑顔が見たいなぁ~」
「自分で自分のことをちゃん付けするのは一般的に痛い人物であると見なされてしないますし、私はそう見ています」
うん。やっぱりSっ気があるな。Sっ気美少女AI (ちょっとロリっぽい) 連れ回す成人女性の絵面がとんでもないことになりそうだけども、とりあえず異世界が楽しみになってきたな。
「それではこちらが異世界への入り口です。詳しい説明は、またその子から。魔王討伐、がんばってくださいね」
女神に見守られながら謎の純白空間を後にする。私たちの冒険はこれからだ!
初投稿です。氷夜と雪姫のドタバタ異世界攻略をお楽しみください。