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4話 理想と現実

 夜の山で晩御飯を食べた次の日の朝……


「ふぁあ……」


 スマホから目覚ましとして設定されていたゲーム音楽が流れ、私はゆっくり目を覚ました。


 木目の見える天井、緑色の土壁、ベッド以上にフカフカの布団、その下には畳が敷かれている。


 少し離れたところには立派な造りのタンスや机、そして私の大事な生活用品が入った大きなスポーツバッグが置かれている。


「あ、そっか……今日から鉄次さんの家に泊まることになったんだった……」


 昨日。空の旅を終えた私は鉄次さんと共に家に帰り、自分の荷物がある自室とお風呂場を案内された。


「風呂ができてるぞ。この風呂は人間用だから、小乃実が好きに使ってくれ」


 私は鉄次さんのお言葉に甘えてすぐにお風呂に入り、寝る支度を整えるとすぐさま布団に潜り込み、あっという間に寝てしまったのだった。


「……顔洗ってこよ」


 私は急いで身支度を整えて私服に着替えると、テレビの音がする居間へと移動した。


 障子をそっと開けると、ラフなシャツとジーパン姿でテレビを眺めている鉄次さんを発見。


「おっ、小乃実おはよう」


 鉄次さんはすぐさま私に気づき、明るい笑顔で挨拶をしてきた。


「鉄次さん、おはようございます!」


「元気がいいな。昨日はよく眠れたか?」


「はい! おかげさまで!」


「ははは、それは良かった」


 昨日、久しぶりに会った時のような、どことなくぎこちない雰囲気はどこにもない。


「そうだ、朝食の準備が出来てるが、折角だし外で食うか? 外に食事ができるスペースを作ってあるんだ」


「いいですね! なんだか外食みたいで楽しそうです!」


「よし、じゃあ外に移動するか」


 鉄次さんと一緒に外に移動し、家の中庭に到着した。


 中庭も非常によく手入れされていた。


 まさに絵に描いたような見事な庭園。苔むした岩や見事な松の木、手入れされた植え込みなどなど、とにかく広くて綺麗な庭だった。

 中央にはゴーレムに囲まれた大きな木製テーブルが置かれており、テーブルの上には豪華な朝食が置かれていた。


「本当に外食みたい……!」


「気分転換にいいだろ。さあ、冷めないうちに頂くとするか」


 私達はテーブルに着席し、いただきますの挨拶をしてからすぐさま朝食を頂いた。


 昨日の焼きおにぎりも最高だったけど、今日の朝食も本当に最高だった。


 ふっくらして味のある白身魚、出汁のきいた卵焼き、ほうれん草のおひたしに大根の漬け物、そして粒が立った真っ白なご飯。

 シンプルながらも、実に素晴らしい食事だった。


「ご馳走様でした!」


 私はあっという間に朝食を食べ終えた。


「すごく美味しかったです!」


「それは良かった。小乃実も外で食べるのが好きなんだな」


「鉄次さんも好きですか? 外で食事するの」


「大好きだ。昔はしょっちゅう外泊してた」


「へぇ……」


 鉄次さん、昔は結構ワイルドな生活してたのかな。


「……さてと、そろそろ動くとするか。小乃実、腹ごしらえに魔法で遊ぶか? 楽しく遊びながら魔法の修行をするんだ」


「遊びながら……それなら私でも楽しく魔法の修行ができそうですね」


 私の返事に何か思うところがあったのか、鉄次さんは表情を少し曇らせた。


「小乃実……なんか昔と違って魔法に乗り気じゃないな。昔は魔法に熱心で、将来は魔法使いになるって言ってたろ」


「いやぁ、そうなんですけれども……理想と現実のギャップで魔法への意欲が削がれてしまって……」


「魔法あるあるだな……」


 鉄次さんへの慣れが戻った私は、嘘をつかずに本音で鉄次さんとやり取りする。

 どちらにしても、鉄次さんには嘘はあまり通用しないから、変に嘘はつかない方がいい気がするけど。


「幼い頃は魔法で何でもできると思ってても、本格的に魔法の勉強していくうちに、実際はそんな自由な物じゃないって知って失望するんだよな」


「はい、そんな感じです……鉄次さんの言う通り、魔法を学べば何でもできると思ってました」


 私はテーブルの上を片付けてくれるゴーレムを少し手助けしながら、鉄次さんの話に答える。


「魔法に憧れるきっかけは、お父さんがやってたファンタジーゲームでしたね。ピカピカ光る巨大な炎を出したり、羽を生やして空を自由に飛んだりして……そのゲームに影響された私は魔法使いに憧れて、魔法使いになるためにとにかく魔法の勉強をしましたとも」


「ゲームの魔法は派手でいいよな」


「はい。頑張って一人前の魔法使いになって、将来は妖怪退治をするんだって思ってました……でも、現実はそんな単純じゃなくて……」


 夢を目指して勉強するたびに、私の理想は崩れていった。


「魔法は、自分が思っているより難しいと分かったんです。炎を出す魔法を勉強しましたが、炎以前に小さな火を出す魔法そのものがすっごく難しくて……火を出せたとしても、その火を綺麗に飛ばすのはまた別の技術が必要で……」


「魔法競技で綺麗な炎を簡単そうに飛ばす魔法使いはすごいって分かるよな」


「はい……箒無しで空を飛ぶのも大変で、そもそも食べたとしても箒に乗るより遥かに遅くて……まあとにかく、色々と現実が見えてきてしまって……」


「人が空を飛ぶには、やっぱり道具は外せないよな」


「妖怪退治に関しては……現代の世の中では妖怪の発生対策が徹底的にされていて、妖怪は全く出てこないとか……時折、怪異や呪いが発生することはあるそうですが、それらが発生するのは非常に珍しいことで……」


「昔ならまだ妖怪や呪いによる被害はあっただろうが、それでも思ったほど居なかったらしいからな……二百年生きる俺でも、悪い妖怪にはそんなに出会ってないな」


「あー、昔は沢山妖怪がいたとか言われてましたけど、実際は人の創作が殆どだったんですよね。歴史で知りました」


「そうだ。実際は災害や事故だとか、人による被害だったりしたんだ」


 文明開花が起こる前の世は、それはもう色んな妖怪がわんさかいて、人に対して日夜悪さをしていたと思われていた。今でもそう思い込んでいる人はそれなりにいるだろう。

 でも実際は、妖怪の殆どは創作物。妖怪として特に有名なカッパは、残念ながら創作物とされている。


「まあ、ゲームみたいな事件はそうそう起こらないけども……それでも現実は平和が一番だよな」


「そうですね……まあそんなこんなで、私は昔ほど魔法に興味がなくて……あ、空を飛ぶのは好きですよ」


「好きな魔法があるのか、いいな。じゃあ今日は空を飛ぶ魔法で遊ぶとするか!」


「いいですね! 私の箒はここに届いてますか?」


「荷物と一緒に来てるぞ。よし小乃実、身支度を整えたら玄関先に集合してくれ」


「分かりました!」


 魔法の現実を知って落胆はしたけど、それでも魔法を使うのは今も好き。

 これからも色々と魔法における現実を知っていくかもしれないけど、それでも未来の私は変わらず魔法好きだといいな。

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