2話 白熱バトル
私の名前は「古乃小乃実」。魔法使いの家庭に生まれた魔力持ちの魔法使い見習い。
今年から魔法学校に通うため、春休みから学校に近い祖父母の家で暮らす予定だった。
だけど、色んな勘違いが重なった結果、近所の山に住む付喪神の家に泊まることなってしまいました。
「小乃実、とりあえず家に上がってくれ」
「お邪魔しまーす……」
鉄次さんに促され、私は少し緊張しつつも鉄次さんの家に入った。
木のいい香りが出迎える広い玄関で靴を脱ぎ、鉄次さんが出してくれたスリッパに履き替える。
「本当に申し訳ない……」
私がスリッパを履いたところで、唐突に鉄次さんが謝罪する。
「俺が事前に小乃実の親父さんに連絡してれば、もう少しどうにかなってただろうにな……」
「あ、そんな気に病まなくて大丈夫ですよ。そもそも鉄次さんとは昔から知ってる仲でしたし、むしろこの状況はラッキーとも言えますしね」
「ラッキー?」
「はい。腕のいい魔法使いの、しかも付喪神の家に泊まることなんて滅多にない経験ですから。それに、魔法について色々と教えてくれそうですし、私としてはラッキーだなって思ってますよ」
「たくましいな……俺としても、そう言ってくれるのはありがたいな」
お互いに少し遠慮しながらも綺麗で広い廊下を歩き、やがてこれまた綺麗な部屋に到着した。
「とりあえず手始めに部屋の案内をしよう。ここは居間だ」
「綺麗な和室だ……」
い草の独特な匂いがする、畳張りの大きな和室だ。中央には大きなローテーブルが置かれていて、近くには座布団が積まれている。
奥には大画面のテレビまで置かれている。このテレビで映画を見たら迫力満点できっと楽しいだろう。
「ここで食事をしたり、あとはテレビを見たりするための部屋だな」
「かなり広いですね…………あっ!?」
テレビの方に目を向けると、私にとって非常に馴染みのある物体を発見した。
「ゲーム!?」
テレビと繋いで遊ぶタイプのゲーム、つまりテレビゲームが置かれていた。
奥の棚には結構な量のゲームパッケージが収納されている。有名なものからマイナーなゲームまであってジャンルも幅広いけど、基本的にアクション系を嗜んでいるみたい。
「おう、趣味でやってるんだ。俺が持ってるのは意外だったか?」
「はい、鉄次さんは昔の人と聞いてたので、ゲームなんて一切興味が無いものだと……あっ! しかも隣にあるのって最近発売された最新ゲーム機「カセット2」じゃないですか!?」
「小乃実、やけに詳しいな」
「それなりにゲーム好きなので! それにしてもこのゲーム機って確か、現在は品薄で中々手に入らないものなのでは……?」
「公式ホームページの抽選に応募して、無事に当選したんだ」
「公式の抽選で!?」
鉄次さんの話に私はこれまた驚いた。
「確か公式の抽選に参加するには、それなりの条件をクリアしてないと応募できなかった筈……鉄次さんってもしかして、結構ゲームするタイプなんですか?」
「かなりやるぞ。遠くにいる付喪神仲間と通信対戦して遊んでるからな」
「他の付喪神も最新ゲーム機持ってるんですね……」
かなり意外だった。大昔の人はゲームを毛嫌いするものだと思ってたけど、そんなことはないみたい。人の性格にもよるかもしれないけど。
「新しい物好きで楽しいことが好きな奴が主に入手してる感じだな。そうだ小乃実、折角だからこのゲーム機で遊んでみるか?」
「いいんですか!?」
「勿論だ。ほら、コントローラー」
「うわっ! ありがとうございます!」
鉄次さんは最新式のコントローラーを気前よく私に手渡してくれた。
旧式コントローラーが棚にあるのに、わざわざ新しい方のコントローラーを貸してくれるなんて……!
「そうだ、折角なら二人で遊んでみるか? スーパーカートなら対戦もできるぞ」
「対戦いいですね! 是非やりましょう! 鉄次さん、ちょっと待っててください!」
「ん?」
私はコントローラーを鉄次さんに手渡すと、自分が持ってきたリュックの中を探って自分のゲーム機を取り出して見せた。
そう、このゲーム機も勿論、最新式の「カセット2」だ。
「うおっ!? 小乃実も持ってたのか!?」
私のゲーム機に、今度は鉄次さんが驚いた。
「私も公式の抽選で当選して購入した、自分のカセット2を持ってるので! もちろん自分のコントローラーもあります!」
「小乃実も結構ゲームやるんだな……! よし、じゃあ早速お互いのゲーム機で走るとするか! 小乃実、テレビ使うか?」
「お気遣いなく! 私はカセット2を直接見て操作するので大丈夫です!」
「分かった!」
私達は急いでゲーム機を起動させると、すぐさま通信バトルを開始した。
「うわっ! 鉄次さんと全然差が埋まらない!」
「買ったその日から毎日走り込んでるからな! ショートカットはSNSの力も借りてほとんど把握済みだ!」
「くぅ……鉄次さんネタバレ気にしない人だったんですね……! でもこっちだって負けませんよ!」
私がゲームをやりこんでいる事を理解した鉄次さんは、私と本気で戦ってくれた。
なんというか、仲のいい兄弟がいるとこんな感じになるのかなって思った。鉄次さんはとにかく、私に遠慮せず全力でゲームを遊んでくれた。
ゲームを続けること数時間後……
お互いにゲームに熱中してしまい、気がつけばもう夕暮れ。辺りはすっかり暗くなっていた。
「あ、もうこんな時間……」
「あっという間に晩だな……そろそろ晩飯の時間だ」
鉄次さんは呆気に取られながら外を見つめる。
「なんというか……小乃実が来てくれたというのに、まだ魔法使いらしいことしてやれてないな……よく考えたら部屋の案内も途中だった……」
鉄次さんはやるべきことが出来なかったようで、少し落ち込んでいる様子だ。
「いえいえ! ゲームは白熱しましたし、私は十分満足しましたよ」
「そんなわけにいくか。この家に来てもらったからには、それなりのおもてなしをしないと俺の気がすまない」
「鉄次さん律儀ですね」
(鉄次さんって、昔からこんな感じだったなぁ……)
鉄次さんは世間で「性格が変に固い」と言われているけど、きっとこういうところを指して言われてるんだろうな。
「部屋の詳しい案内は明日やるとして、そうだなぁ…………よし、晩飯前に山の上を飛ぼう!」
「あ、箒で空飛ぶんですか。魔法使い体験あるあるですね。魔法撃ち体験と並んで必ずあるやつ」
「まあベタではあるな。だが、この大自然広がる山を箒で飛ぶのは最高に楽しいぞ」
「それは間違いなさそうですね!」
観光名所でもよく見かける飛行体験だ。大自然の中を箒で飛ぶのは絶対に楽しいはず。
「よし決まりだな! 小乃実、荷物を木坊主に預けて外に行くんだ!」
「はいっ!」
木坊主や石坊主はゴーレムの和名。世間ではゴーレムと呼ばれているけど、お年を召した人はゴーレムを木坊主と呼びがち。
居間から出た私は、廊下でスタンバイしていた丸みを帯びた木製ゴーレムにリュックを預けた。
ゴーレムは私の荷物をしっかり持つと、廊下の奥へと歩き去って行った。とても可愛らしい。
「よし、荷物を預けてきたな」
鉄次さんはいつのまにか謎の包みを抱えていた。もしかして晩御飯なのだろうか。
「鉄次さん、それは?」
中身が何となく分かった気がするけど、とりあえず質問してみる。
「ふふふ……これは旅のお楽しみだ」
これは完全に晩御飯だ。間違いない。
「さて小乃実、早速外に出るぞ!」
「はい!」