第一幕 試練と祝福 -2-
「ありがとう、レオン! なら、あなたもきっと素敵なスキルが貰えるわ!」
レオンはその言葉に微笑んだ。
だが、その胸の奥には、小さな不安が広がっていた。
「── レオン・アルスター」
「……!」
レオンは祭壇の前に進み出ると、静かに誓いの言葉を口にした。
「レオン・アルスター。私は誓います。己の力を磨き、仲間と共に歩み、この剣を誰かのために振るうことを」
司祭が手を掲げ、体が温かい光に包まれた。
穏やかな波が内側へと流れ込み、何かが身体の奥に根付く感覚がした。
レオンはゆっくりと目を閉じ、その変化を感じ取ろうとする。
──これが、俺の“力”……。
数秒後、光が消え、静寂が広がる。
「レオン、剣を取れ」
師範の声にレオンは頷いた。
シグルドとレオンが構えを取り、呼吸を整える。
「……来い」
レオンは一歩踏み込み、剣を振るった。
──だが、その一撃は、まるで風が撫でたかのような穏やかな攻撃だった。
「……?」
違和感を覚えながら、もう一度振るう。
だが、今度も手応えを全く感じない。
困惑する村人の声が、レオンの不安を少しづつ煽った。
「……どういうことだ?」
「何が起きてるんだ?」
「レオンの剣技は確かなはずだが……」
師範が眉をひそめ、観察する。
(動きは間違いなくいつものレオンだ。しかし……打撃が明らかに軽い。これじゃ赤子が小突いた方がマシだ……どうなってる?)
何度撃ち込んでも、剣の重みを感じなかった。
動きは素早く確かに大振りで、しかし予想される威力とは反して、全くダメージを感じない。
「……おかしいな。攻撃力が消えるのか? いや、だとしたら、どこが強化スキルだって言うんだ……」
村人たちが不安そうに顔を見合わせる。
「もう一度試せ」
レオンは言われた通りに剣を振るった。
今度は真っ直ぐ踏み込み、確実に刺すつもりで向かった。
シグルドはその素早き一突きも避けてみせた、
──はずだった。
「これは……どういうことだ?」
確実に避けれたはずの軌道だった。
しかしなぜか剣は当たっていた。
「な、何が起きたんだ…!?」
レオン自身も驚きを隠せなかった。
避けられたと思った。これは当たらないと思った。
絶対に当たらないはずが、当たっている。
「やっぱりスキルが関係しているのか……?」
「必中か? だとしても、威力を感じないのは一体……」
誰も答えを出せず、場がざわめき始める。
「一度魔法も試されよ」
司祭が指示し、レオンは魔力を込める。
手のひらに小さな光が生まれる。
──だが、すぐにかき消えた。
「……!」
もう一度試す。
慎重に魔力を流す。
しかし、放とうとした瞬間、魔法が霧散する。
「魔法が発動しない……?」
「いや、魔力自体は確かに流れている」
司祭が目を細め、分析する。
レオンは何度か試すが、魔法はすぐに消えてしまう。
「うぅむ…… 光の属性のようにも感じられる。回復魔法が使えるやもしれん」
司祭が負傷した動物を用意し、レオンに回復魔法を試すよう促す。
レオンは手をかざし、魔力を込める。
──淡い光が傷口に流れ込んだ。
だが、傷は塞がらなかった。
「……治癒ではないのか? 状態異常系か?」
村人たちが再びざわめく。
「確かに魔力は流れているが……通常の治癒魔法とは異なる何かがあるようだ。毒も癒えてはおらぬな」
師範も司祭も考え込む。
「うむ……。どうだ、シグルド」
「いえ、申し訳ございませんが……何も。ここまで何も分からない例は、私も初めてです」
村人たちは困惑し、不安そうな表情を浮かべる。
エリスもまた、心配そうにこちらを見つめていた。
──何かの力が宿ったはずなのに、それが分からない。
「し、司祭様……これは……」
レオンは恐る恐る司祭に尋ねた。
「うむ。……うむ。──まるで分からぬ」
「わ、わからない……? そんな……」
「焦る事でもない。告げたはずだ、試練であり祝福であると。
神は乗り越えられる試練しか与えぬ。
そして“それ”は、必ず祝福である。」
レオンの胸を指し、司祭は落ち着いた声で焦るレオンを諭す。
「……レオンと言ったか。
王都の鑑定士であれば、お主のスキルもはっきりしよう。
しかし決して、安易な道では無い。」
「王都の、鑑定士……」
「“スキル鑑定士”は、特殊な技術を持つ者だ。
スキルの本質を見極め、どのような能力なのかを解析する。
だが、鑑定ができるのは王都の“鑑定士ギルド”のみ……」
「そこに行けば、俺のスキルが分かる……って事ですか?」
「左様。お主には、覚悟があるかな?」