傘売りおじさん
傘を差したにこやかな顔つきのおじさんが街を歩いている。
散歩をしているのではない、
このおじさんはこの辺りじゃあちょっとした有名人。
おじさんは晴れの日でもいつも傘を差している。
少しおかしなおじさんだ。という訳ではなく彼は傘売りなのだ。
腕にいくつもの傘を持ってそれを売り歩いている。
おじさんの傘は評判で羽のように軽いが、風が吹いても飛んでいかず、
どんなに乱暴に扱っても穴一つ開かないし骨組みが歪んだりすることは決してしないのだ。
今日は雨の日、
街を歩いているおじさんを見た人たちは傘を買おうとおじさんの周りに集まる。
おじいさんは、いつものにこやかな顔で集まった人たちに傘を売ってゆく。
一つの傘を売るごとにおじいさんは
「本当は雨の日だけじゃなくて晴れの日も差すのもいいのだよ、私みたいにね」
と一人一人に言う。
しかし、おじさんの傘は晴れの日に差すような日傘ではないのは誰が見ても明らか。
みんな「今度気が向いたらやってみますよ」と言うだけで
実際に晴れの日におじさんの傘を差しているのはおじさんただ一人なのだ。
晴れの日に誰も傘を差していないのを見るとおじさんは少し悲しそうな顔をする。
そして、少しずつ日は過ぎてゆく。
雨の日、晴れの日、晴れの日、雨の日、晴れの日。
そして、ある雨の日。
いつもの様におじさんの周りに集まった人たち。
しかし、おじさんの表情は少しだけ焦っている様な顔をしている。
そして傘を買おうとした一人がおじさんに声をかけると、
おじさんは、いつもの売った後に一人一人にかける言葉じゃなく傘を買おうと集まった人たち全員に向かって
「明日は晴れの日です。しかし、雨が降ります。絶対に傘を……私の傘を明日は差してください」
と言った。
傘を買った人たちは少し不思議に思ったが、
しばらくするとおじさんの言葉を忘れてしまった。
そして次の日。
傘売りおじさんが涙を流しながら街を歩いている
核が打ち込まれ、放射能の雨が降り、誰もいなくなってしまった街を。
お久しぶりです。
今回もショートショートですが
いかがでしたでしょうか?
人の言う事は聞き流したりせずにしっかりと聞く方が良いものです。
自分が痛い目を見ることになりますから・・・
それでは、また。
次の作品でお会いしましょう。