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アン&ドロシー 第七章

ぜひ、一読を

「私が、あなたの奥さんに移植する臓器を作るために生まれてきたクローン…?」


 アンは戸惑い気味にジョーに聞き返す。


「そうだ。だが私は、君を一目見てあまりの美しさに命を奪えなくなってしまい、代わりに妻を見殺しにしてしまった…。その罪悪感もあって、もともと悪かった心臓を、この1カ月間でさらに悪化させてしまったよ。それで、近日中に心臓の移植手術を受けるのだが…。」


 ジョーはそこまで話すとゆっくりと立ち上がる。

 歩いて棚の前まで行くと伏せてあるいくつかの写真立ての中から一つ手に取りアンに手渡した。


「この写真の男を見たことはないか?」


 写真には、海岸でピースサインをしている一人の若い男が写っているが、アンはそれを見て驚愕した。


 写真に写っている男は、アンの恋人に瓜二つだったのだ。

 だが、これはアンの恋人ではない。

 アンと同様に施設から出たことのない彼に、海で撮った写真などあるはずがなかった。


「これは?」


 アンは平然を装いながら聞いた。


「それは私の19歳の頃の写真だ。」


「えっ…!?」


 アンはさらなる衝撃に頭が真っ白になった。先ほどから何度も驚き過ぎて、もう何が何だかわからない。


「改めて聞くが、この写真の私にそっくりな人物を施設にいた時に見なかったか?」


 その問いかけにアンは何と答えていいかわからず黙っていると、ジョーは話を続ける。


「実は20年前、妻のクローンを作った時に医師から、私のクローンも作っておいてはどうかと勧められたんだ。それ以前に受けていた健康診断の結果、心臓にわずかながら不整脈があることがわかってね。若いうちは大丈夫だが、歳をとってから心臓に問題が出てくるかもしれないから、そうなれば長くは生きられないと言われたよ。今のうちに移植用のクローンを作っておいた方がいいと言われて、それで妻のクローンを作るのと一緒に、私のクローンも作ることにしたんだ。」


 アンはあまりの衝撃にもう声も出なかった。

 全身が寒くなったようにわなわなと震えたが、そんなアンには気づかずジョーはさらに話を続ける。


「だが私自身、自分のクローンにはまだ会ったことがなくてね。もう1人の自分がいると考えたら、何だか不気味で会う気がしないんだ。クローンの年齢は19だから、その写真の19歳の私と瓜二つに育っているはずだが、施設にいた時に見かけたことはないか?」


「いいえ、知らないわ。」


 アンはとっさに嘘をついた。


「あの施設では、依頼人がクローンの名前を自由に決められるのだが、私は面倒くさかったので、私と妻のクローンにそのまま私たちと同じ名前をつけたんだ。だから、私と同じように『ジョー』と呼ばれているはずなのだが…」


「さあ…そんな名前聞いたことないわ。施設内で男女の居住エリアは別々で、会うことができないようになっているから…。」


「そうか。」


 ジョーは少しがっかりしたように再びソファーに腰を下ろす。

 一方のアンは、表面上は平静を装っているが内心ではかなり動揺していた。

 自分の愛する恋人がこの男のクローンだったなんて…。信じられないし信じたくもない。

 だが、おそらくこれは事実だ。


「あなたがやる手術は、クローンの心臓を移植するんでしょう?」


「そうだ。」


「手術日はいつなの?」


「明後日だ。」


 アンはその衝撃に目を丸くさせたまま頬はひきつったようになり、さすがに今度ばかりは動揺が顔に出る。

 だが、すぐに何事もなかったような平然とした顔を取り戻すと、必死になって考える。


このままでは、恋人であるジョーのクローンが殺されてしまう。何とかそれを阻止しなければならないが、一体どうしたらいいのか。


 アンは少しの間考えると、おもむろに立ち上がり向かいのソファーにいるジョーの右隣に座った。

 アンのほうから近づいてきたことがよほど嬉しかったのか、ジョーは目を細める。


「ねえ、ひとつお願いがあるの。」


 アンはジョーを見つめながら言った。


「何だい?」


「施設にいるあなたのクローンに、一度だけでいいから外の世界を見せてあげてほしいの。」


「これからすぐに死んでしまう人間に、そんなことをして何になる?」


「すぐに死んでしまうからこそ、最後にいい思いをさせてあげたいの。」


「最後にいい思い?」


「ええ。私は生まれてからずっとあの施設で暮らしてきて、外の世界がどうなっているのかを一度見てみたいとずっと思っていた。それは、あの施設にいる他のクローンもみんな同じだと思う。だからお願い。一度でいいから、あなたのクローンに外の世界を見せてあげて。彼はあなたの身代わりで死ぬのよ。」


そう言われて、ジョーは腕を組んで考える。


「確かに君の言う通りだ。私に命をくれるのだから、それくらいのことはしてあげないといけないな…。よし、では明日にでも施設にいる私のクローンをドライブに連れていくように、運転手に話をしておこう。」


「ありがとう。」


 アンはうれしそうに微笑んだ。







読んでくれてありがとう

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