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アン&ドロシー 六章

ぜひ、一読を

「これ、私?…って、そんなはずない。私、海になんて行ったことないもの…。じゃあ、私にそっくりなこの女の人は誰なの?」


 写真を見ながらアンは訳が分からずにいると、タイミングよくジョーがリビングに戻ってきた。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど…。」


 アンが尋ねると、ジョーは再び話しかけられたことが嬉しいようでにっこり微笑む。


「何だい?」


「この写真に写っているのは誰?」


 アンが写真立てを差し出すと、ジョーはそれを見た途端に表情を曇らせる。

そこに写っていたのは、妻・アンの若き日の姿だった。


 すると、ジョーの脳裏にフラッシュバックのように、妻・アンの最期の場面が蘇る。

 助けを呼んでくれと必死になって頼む妻を目の前にしながら、自分は若いクローンを救うために救急車を呼ばず妻を見殺しにした。

 写真を見つめるジョーの目は悲しみに満ちていた。だが次の瞬間、その表情は悲しみから苦しみへと変わる。


「うっう…」


 胸を両手でおさえながらうなり声を上げると、そのまま両膝を床についた。


「どうしたの?」


 アンが尋ねると、ジョーは苦しそうに震える声でこう答えた。


「胸が……カバンに薬が…」


「カバン?」


 ジョーの視線の先、数メートル向こうに黒皮のカバンがある。

 アンは急いでカバンを取りに行くと、その場でファスナーを開けて中身を床にひっくり返した。

 すると、書類や本などが散乱する中に薬の瓶を見つける。


「これだわ。」


アンは薬の瓶を持ってジョーのもとへ戻ると、フタを開けて中の錠剤を手渡した。

 ジョーはそれを震えた手で口に入れるとゴクリッと飲みこんでからゆっくりソファーに横になった。




 10分後。

 ソファーに横たわっていたジョーはゆっくり起き上がると胸に手を当てる。


「心臓のほうは、どうやら落ち着いてきたようだ。」


 ジョーは安堵の表情を浮かべていた。


「そう、良かったわね。」


 テーブルを挟んで向かいのソファーに座るアンは短く返事をした。


「そういえば、さっきの君の質問にまだ答えていなかったね。あの写真に写っている君にそっくりな女性は誰なのかという質問だったが…」


「誰なの?」


「あれは私の妻だ。」


「奥さん?」


 アンは思ってもいなかった返答に戸惑いの声を上げる。


「写真の妻は今の君と同じくらいの年齢だから、撮ったのはもう三十年近く前になる。当時はまだ恋人同士で、デートで海に行った時に波打ち際ではしゃぐ彼女があまりに綺麗で、思わず持っていたカメラのシャッターを押したんだ。」


 ジョーは当時のことを思い出すように言った。


「奥さんは今どうしているの?」


「妻はもういない。先月、亡くなったよ。」


「えっ…?」


「妻は病気で、命を救える唯一の手段が彼女のクローンを作り、その臓器を妻に移植することだった。そしてそのクローンとして生まれてきたのが、君だよアン。」


 その言葉にアンは大きく目を見開く。


「私がクローン!?」


 アンはそれだけ言うと絶句したように固まる。

 急に自分がクローン人間だと言われてもそんなこと信じられないし、すんなりと受け入れられるわけがない。


 だが、ジョーが嘘を言っているようには見えなかった。

 それにそういった事実があるのならば、自分が生まれてからずっとあの施設で暮らし、外の世界に出してもらえなかったことも理解できる。


「私が、あなたの奥さんに移植する臓器を作るために生まれてきたクローン…」


 

読んでくれてありがとう。

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