アン&ドロシー第15章
アンがそこまで話すと、再び刑事が話を始める。
「実はオリジナルのアンが使っていたオリジナルのジョーの愛称が『ジェイ』だったらしいんだ。だから、君が言った『ジェイ』という言葉が、オリジナルのジョーの幻覚症状を引き起こすきっかけになったのかもしれない。ところで、オリジナルのアンがオリジナルのジョーを『ジェイ』と呼んでいたことを、君はどうして知っていたの?」
刑事は不思議そうにアンに聞いた。
「あの男が奥さんに何と呼ばれていたかなんて知らないわ。」
そう言うとアンは、隣りにいる19歳のジョーの肩に手を置いた。
「私は彼を愛称で呼んだのよ。首を絞められて薄れゆく意識の中で、脳裏に彼の顔が浮かんできて、それで思わず『ジェイ』と呼んだんだと思う。JOEの頭文字をとって、昔からそう呼んでいるの。」
「そういうことだったのか。しかし2組のジョーとアンは、これまで過ごしてきた環境はまるで違うのに、同じようにカップルになってさらに同じ愛称で呼んでいるなんて、遺伝子の力って本当にすごいね。」
刑事がそう言うと、アンはあからさまに嫌な顔をした。
「確かに私たちはあの2人のクローンよ。同じ遺伝子を持って生まれてきた。でも育った環境もまるで違えば、物事の感じ方や考え方も違う。全く別の人間なのよ。」
アンは今までに見せたことのない強い口調で反論した。
「僕もアンと全く同じ意見だよ。人格を形成するのは、遺伝子だけじゃないからね。」
ジョーもアンに同調する。
「そうなんだね。変なことを言ってごめん。」
2人からの思わぬ反論に、刑事は即座に謝罪した。
どうやらこの2人は、オリジナルの2人と同じ人間だと見られることをとても嫌っているらしい。
だがそれならばと、刑事は以前から気になっていたことを、ここぞとばかりに聞くことにした。
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