アン&ドロシー 12章
前回までのあらすじ
恋人であるクローンのジョー(19)を救出しようとしたアン(19)でしたが、救出作戦は失敗に終わります。再びオリジナルのジョー(47)に囚われの身となったアンは…
どれくらい眠っていたのだろう?
アンは目を覚ますと、ジョーの自宅リビングのソファーで仰向けになっていた。
壁のアンティーク時計は午後7時を差しているが、それをぼんやりと見つめながら次の瞬間ハッとする。
これまでの経緯を思い出して、アンはすぐに起き上がると、向かいのソファーでは47歳のジョーがバスローブ姿で座っていた。
「ようやく目を覚ましたか。さっきは手荒な真似をしてすまなかったな。」
ジョーはテーブルに置かれたボトルからグラスにワインを注ぐと、それを持って一口飲んだ。
「彼は?」
「私のクローンなら施設に戻したよ。明日、私への心臓移植があるからね。」
「そんな…。お願い、彼の心臓を奪わないで。」
「それはできない。」
「どうして?彼の心臓は彼のものでしょう。」
「いいや、彼の心臓は私のDNAから生まれ、私の金でここまで育てた。だから私のものだよ。」
「それは違う。確かに私たちは、誰かのクローンとして生まれてきたのかもしれない。でも私たちの命は、誰かにあげるためにあるんじゃない。私たち自身が生きるためにあるのよ!」
ジョーは、ゆっくり立ち上がるとアンの横に来て座る。
「いいかい、アン。彼が明日死ぬことは、クローンとして生まれてきた彼の宿命なんだ。だから、もう彼のことは忘れなさい。…で、その代わりといっては何だが、どうだろう。彼と同じDNAを持つこの私を愛するというわけにはいかないか?」
ジョーはアンの右肩に後ろからそっと手を回す。
「もし私と一緒に生きてくれるなら、私の莫大な財産はいずれお前のものになる。お前にとっても悪い話ではないだろう。」
「やめて!」
アンはジョーの手を払いのけると立ち上がる。
「あなたのことなんて、愛せるわけがないでしょう!」
アンはそう言うと、テーブルにあるワインボトルの上部を握り、一度高く振り上げてからテーブルの角に思い切り叩きつけた。
ガシャン!という大きな音とともに、ボトルの底が割れて破片や中のワインが周辺に飛び散る。
「何をするんだ!」
ジョーは声を荒げると、顔に飛んだワインをバスローブの袖で拭き取った。
「どうしても彼の心臓を奪うというのなら、私がこれであなたを刺し殺すしかないわ。」
アンはワインボトルの割れて尖った先端をジョーに向ける。
「私を殺すだと…? はっはっは、なかなか面白い冗談を言うじゃないか。」
「冗談じゃないわ。私は本気よ!」
「やれるものならやってみろ。的はここだ、外すんじゃないぞ。」
ジョーは自分の胸の真ん中を親指で指して挑発するが、アンは持っているボトルの鋭く尖った先端が小刻みに震えていた。
「ほう、ワインボトルの先端がナイフのように尖っているじゃないか。ワインボトルは割ってもなかなか鋭利にはならないものなのだが、それだけの鋭さがあれば私を殺せるかもしれないぞ。だがそんなに震えた手で、私を殺すことなんてできるかな。」
「できるわ。あなたを殺して彼を助ける。」
アンは震えた声で言い返す。
「ならば、その先端を俺の胸に刺してみろ!」
ジョーはワインで酔いが回っているせいなのか、再び挑発してくる。
アンも強がるようにジョーを睨み返すが、それとは裏腹にワインボトルを握る右手の震えは段々と大きくなっていた。
「ほらほら、どうした?そんなんじゃ、私は殺せないぞ。このままだと、クローンの心臓は俺がもらうことになるがそれでもいいのか?」
ジョーは笑みを浮かべ三度挑発をすると、それでスイッチが入ったのかアンは顔つきが変わる。
両手でボトルを強く握りしめると、ジョーの胸の中心を目がけてアンは突っ込んでいった。
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