アン&ドロシー 11話
前回までのあらすじ
明日の移植手術で心臓を取られ殺されることになっているジョーを救おうと、アンはジョーを連れて警察署へ行くのだが、全く取り合ってもらえない。
そこへ二人を追ってきた49歳のジョーが現れるのだった。
「お願い、助けて。このままだと彼は心臓を奪われてしまうの!」
アンも一緒になって訴える。
すると、このままでは警察管がこの2人に説得されるかもしれないと思ったのだろう。47歳のジョーはボディーガードに「やれ。」という指示を目で出した。
ボディーガードは黙って頷くと、足音を立てずに二人の背後へ一歩また一歩と忍び寄る。
その黒い影が迫っていることを気配で感じた二人が、後ろに振り向こうとしたその時だった。
ボディーガードは一瞬の内にアンの左腕を掴むと、そのまま力ずくで引っ張り連れていこうとする。
「きゃあっ、やめて!離して!」
アンは激しく腕を振ってその手を解こうとするが解けない。
「さあ、行きましょう。」
ボディーガードは、強引にアンを連れていこうとしているのとは対照的な落ち着いた口調で言った。
「ちょっと乱暴はやめて下さい。」
警察官の声にもボディーガードは従わずに、アンの腕を掴んだまま離さない。
「アンから手を離せ!」
そう声を上げたのと同時に、19歳のジョーはボディーガードに向かい殴り掛かる。
だが、ボディーガードは19歳のジョーのパンチを左手で軽々と受け止めると、強烈な蹴りをジョーの腹部に食らわせた。
「ぐっ!」
19歳のジョーは声を上げると、腹を抑えながらその場に崩れ落ちた。
「きゃああっ!」
アンは悲鳴を上げるが、19歳のジョーはうずくまったまま動かない。
どうやら気絶したようだ。
アンは倒れたジョーに近寄ろうとするが、ボディーガードに左腕を掴まれているので近づくことができない。
「離して!離して!」
アンはなんとか掴まれた腕を引き抜こうと必死に抵抗を続けるが、どうにもならない。
すると、ボディーガードは力ずくでアンを引き寄せると、首の後ろを平手で一撃した。
「うっ!」
アンは短い声とともにその場に崩れ落ちると、気を失い動かなくなった。
「よくやった。あとは二人を車に運んでおけ。」
47歳のジョーの言葉にボディーガードは頷くと、右の肩に19歳のジョーを左の肩にアンを担いで、そのまま建物の出入口に向かって歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。」
受付の警察官が頼りない声で呼び止めると、ボディーガードは立ち止まり、指示を仰ぐように47歳のジョーを見つめた。
一方の警察官も47歳のジョーに問いかける。
「これは一体どういうことなのかを説明してください。」
そう言うと、警察官はようやく受付カウンターを出た。
これまでは、ボディーガードが怖くて身動きとれなかったが、さすがに気絶させられた二人がこのまま連れ去られるのを、警察官として黙って見過ごすわけにはいかなかったのだろう。
すると、説明を求められた47歳のジョーはこんな話を始める。
「実はこの若い男は、19歳になる私の息子でして…。」
「息子?…そう言われてみれば、確かに似ていますね。」
警察官は二人の顔を見比べながら頷く。
「身内の恥をさらすようで少し言いにくいのですが、息子は心に病を抱えており現在入院させております。そして、その入院先で息子が知り合ったのがこのアンという少女で、二人はすぐに仲良くなったのですが、彼女には妄想癖がありまして…」
「妄想癖…ですか?」
「彼女は、彼女自身や私の息子はクローン人間だと訳の分からない妄想を膨らませ、『ここにいたらあなたは、心臓を取られて殺されてしまう。』と言って息子をあおると、2人で病院から脱走してしまったんです。」
「なるほど、そういうことだったんですか。納得しましたが、一応確認のためにあなたの名前と連絡先を教えてもらえますか。」
すると47歳のジョーは、ジャケットの内ポケットから名刺を一枚取り出すと、警察官に渡した。
名刺には、ジャックのフルネームの他に会社社長の肩書や連絡先が記されてある。
「では、これで失礼致します。お騒がせして申し訳ありませんでした。」
47歳のジョーは一礼すると、19歳の2人を両肩に乗せたボディーガードを引き連れて行こうとした。
だが、その時だった。
「うぐっ…」
47歳のジョーは胸を両手で抑えると、その場にしゃがみこみ苦悶に満ちた顔をする。
「大丈夫ですか。」
ボディーガードがすぐに声をかける。
「どうされました?」
続けざまに警察官も声をかける。
「心臓の発作が……薬を飲めば、大丈夫だ…。」
47歳のジョーはジャケットのポケットから小さな瓶を取り出すと、中から薬を一錠手のひらに出しそれを口に運んだ。
ゴクリと飲み込むと、そこへ警察官がやってきて水の入った紙コップを差し出す。
「どうぞ。」
47歳のジョーは紙コップをまだ震えが残る手で受け取ると、水をゆっくりと飲み干した。
そんな47歳のジョーを、警察官は労わるような目で見つめる。
まだ若いのにこれほどまで心臓を悪くするなんて、きっとこれは息子のことで悩み苦しんだ心労がたたってのことなのだろう。などと思っているに違いない。
47歳のジョーは少し落ち着いたのか、ゆっくりと立ち上がると、警察官に空になった紙コップを返した。
「どうもお世話をおかけしました。それでは失礼します。」
「大丈夫ですか。まだ少し休まれたほうがいいのでは…?」
警察官は心配そうに聞いた。
「いえ、もう大丈夫です。ありがとうございました。」
47歳のジョーは再び一礼すると、19歳の2人を両肩に乗せたボディーガードを連れて警察署を後にした。
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