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星空

《1章》

 暗闇に満ちたドーム状の天井には、満天の綺羅星が輝いている。

 プラネタリウムを楽しめるラウンジの一角。

 僕は、ひっそりとペアシートの端っこに腰を下ろしていた。


「綺麗ね」


 隣に座る女性が呟いた。

 僕は何も答えず、再び人口の星々を眺めていく。

 日常の喧騒や悩みがちっぽけに感じるほど、夜空のスケールに圧倒されてしまう。


「去年、また一緒に来ようって約束したね」

「……」

「私の誕生日だからって、あなたが妙に張り切ってたのが懐かしい」


 僕は、あなた、ではない。

 何もしない人だ。


「プラネタリウムなんて柄にもないくせに、偶然チケットを貰ったとか、もう少しスマートに誘ってくれれば良かったのに」


 女性は、星空に語りかけている。


「ほんとに……どうしてこうなっちゃったんだろう。私があなたに求めすぎたの? あなたが私に愛想を尽かしたの?」


 嗚咽交じりに、俯き加減の女性が視界に入った。

 詳しい事情は知らない。


 別れた経緯を知りたいかと言えば、嘘になる。

 僕の仕事は、ただ話を聞くだけである。

けれど。


「――さん。僕もこの景色はすごく綺麗だと感じます。一年ぶりにまた眺められて、良かったですか?」

「……」

「この夜空は色あせない美しさを誇っています。恋人との約束は叶わず、つらい記憶かもしれません。それでも――さんの心に響いたということは」


 出過ぎた真似をしたと自覚しつつ。


「きっと――さんの思い出も、色あせない美しい思い出なんですよ」

「……っ!」


 女性がパッと振り向いた。


「……はい……はいっ! 大事な思い出でした……っ」


 暗がりであまり表情を窺えないものの、小刻みに震えていた。


「ほんとに、星が綺麗だ」


 僕は天井を見上げることなく、失礼ながら女性の頬をまじまじと見つめた。

 徐にキラリと瞬いた、一筋の光星を眺めていく。


「こんなに近くで流れ星が流れるなら、次は願いが叶いますよ」

「ふふ、あの人よりよっぽどロマンチストね。傷心の女をどうするつもり?」


 しばらくの間、女性は笑顔のまますすり泣いていた。


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