99.争奪戦
「倒したんですよね?」
復活した魔王竜は、みんなの力と、シアンタの特技・魔竜討滅斬によって葬られた。
倒したかどうか心配しているボナ子ちゃんと私たちの目の前には、かつて魔王竜だった者の死骸が転がっている。
「やった。倒したんだ。みんなの力で。でも、ボクがトドメをさせたなんて不思議だ」
シアンタは疲れ切ったのか、倒れ、空を見上げている。
『不思議がることはねぇよ。オマエは聖竜剣士なんだ』
「アハハ。アンガトラマー、ボクを誉めているの? 変なの」
私も疲れきっている。みんなも同じだ。
「それにしても、ずいぶん派手にやりましたわね」
「広場はもちろん、周囲の森林も修復に時間がかかりそうですね」
エリーとルティアさんの言うとおり、広場も森も大打撃だ。
魔王竜の衝撃波で壊された森なんて、新たに植樹するくらいなら、ほかの用途を探したほうがいいかも。
「魔王竜、やっつけちまったぞ。騎士団が来る前に」
「待て。シアンタは聖竜剣士だと聞いた。ならば、あるいは。いや、それにしたって」
「信じられないが、目の前で倒されたら否定もできない」
結局逃げなかったギルド職員たちは戸惑いを隠せていない。
「怖かった。本当に怖かった」
復活した魔物の一体、タイラントタウラスの相手をしていたプエルタさんは、途中から逃げの一手で走りまわっていたそうだ。まだ震えが止まっていない。
それでも倒せたんだ。街を守ることができた。
ずっと街の人たちを不安にさせ、ダンジョンの深奥から魔物を強化させてきた魔王竜は、今日、討ち取られたんだ。
安心している私たちの傍らで、ひとつの陰が魔王竜の死骸の上に飛び乗った。
「そうだよね。戦いはまだ終わってない」
そう言いながら、私は死骸の上に立つ陰を見上げる。
鈍色の竜魔人・スイルツだ。
「よくも魔王竜さまを倒してくれたな冒険者。しかし魔王竜石さえあれば、魔王竜さまは何度でも蘇る。80年前に肉体を失っても、今の世に現れたように!」
竜魔人は槍で魔王竜の肉体を刺す。
「隙だらけなのだよ冒険者ども。ここかっ!」
槍を引き抜き、穴のあいた肉塊に手を突っ込んでいる。
引き抜いた手には、かつて深奥で見かけた魔王竜石が怪しく光っていた。
「魔物の魔石ってのは、魔物を倒したパーティのモノだぜ」
「なにっ!?」
それを奪い取ったのは……いつのまにか魔王竜の肉塊の上に登っていたキコアだ。
「魔石を奪い取る隙を伺っていたみたいだけどさ。それ、俺も同じだ。魔王竜の魔石、こんな高価な物から目をそむける冒険者はいねぇよ」
さすが魔石に目がないキコアだと思った。
「ガキの冒険者が!」
竜魔人は魔王竜石を鷲掴みにするキコアを襲おうとするも。
「ほれっ。エリー、受け取れ」
キコアはエリーに魔王竜石をパスする。
「えっ、あっ、もう! 疲れているといいますのに」
エリーはパスを受け取る。
それを目にした竜魔人はエリーめがけて、魔王竜の肉塊から飛び降りた。
「それを渡せ、小娘!」
「そんな口のききかたをする殿方には渡せませんわ。こういうのは専門家に」
エリーに投げられた魔王竜石。その先はシアンタだ。
竜魔人は槍の刃先をシアンタへ向けながら突進していく。
「オマエには、もっといいモノをあげるよ。ボクの一撃だ」
ガキィィン! という金属音。竜魔人の槍と聖竜剣が交差した。
「え? シアンタさん?」
「この中で一番すばしっこいのは、ルティアでしょ」
いつの間にパスしたのか。
ルティアさんは魔王竜石を抱えていた。
「小娘ども、舐めやがって!」
竜魔人はルティアさんに矛先を変える。
どうする。この状況。
魔力は……この場にいる聖竜たちのおかげか、回復を続けている。
魔力はゼロの状態から、8まで戻っている。
「ボクがルティアを守る!」
シアンタが竜魔人に立ち塞がる。聖竜剣と槍が火花を散らす。
キコアとエリーが加勢するけれど、魔王竜との戦いの直後だ。みんなの動きが鈍い。
「硬い竜魔人だな。マジリルの槍じゃなきゃ、折れているぜ」
「魔王竜なみに拳が弾き返されますわ」
鈍色の竜魔人は硬いのだ。
『コイツ、もしかして鋼鉄の魔竜の血を得たのか?』
聖竜剣が叫ぶ。
竜魔人は、何らかの特徴を持つ魔竜の血を体内に取り入れている。魔竜の特徴を反映させているんだ。
深層での戦いでは、竜魔人に振り下ろした剣が折れてしまった。
長期戦は不利だ。
「なにか状況を打破できる力は。教えてグアンロン」
『ならば、この異竜と魔法はどうだ』
魔王竜との戦いで解禁された恐竜×魔法は6種類。そのうち5種類は不明のままだ。
グアンロンがステータス画面から選んでくれる。
その恐竜はセイスモサウルス。
四層歩行で首が長く、尻尾もすごく長い。なんとなくダトウサウルスに似ている気もするけれど、ステータス画面に描かれている大きさは、頭から尻尾までならダトウサウルスの2倍はある。
魔法のほうは……この魔法、ここで使って大丈夫かな。
「みんな十分離れて。『セイスモサウルス×地震』!」
『ガオオオン! 解禁された恐竜×魔法を選ばれました!』
竜魔人を見据えながら、右手を地面に添える。すると。
ガタガタガタっ!
大きな揺れが一帯を襲った。まるで地面から何かが突き上げてくるような衝撃だ。
私の右手から竜魔人の足下にかけて、地面に大きな亀裂が走る。
「なんだ、これは!」
竜魔人の周囲は、地面が割れ、一部が隆起し、一部が沈む。
さらに竜魔人の直下から、巨大なナイフのような形状の地盤が天を突き刺すかのように生えてきた。
「おわぁぁっ!」
鋭い地盤に身体を持ち上げられ、落下していく竜魔人。
そろそろいいかな。地震停止。消費魔力は4。
「収まった。フィリナ、さっきの地震、魔法なのかよ」
「急いで距離を取ったから、よかったけど」
キコアとシアンタが睨みつけてくる。ごめんね。
「ただでさえ魔王竜が広場を壊してしまったのに」
「はい。広場の下にはダンジョンが広がっています。冒険者は無事でしょうか」
しまった。エリーとリナンの言うとおりだ。冒険者は無事だと信じたい。
「おのれ。これしきでは諦めんぞ。魔王竜石をあの方のもとに持っていく。冒険者への復讐のためにも」
地震の魔法でデコボコになった場所から竜魔人が飛び出してきた。
「この程度では、やられん!」
「きゃあっ!」
魔王竜石を持っていたルティアさんが、竜魔人の不意打ちで魔王竜石を落としてしまった。
転がる魔王竜石。ちょうど私のほうへ転がって来る。
それでも、ちょっと距離がある。
「魔王竜さま! 理想の世界を!」
転がり続ける魔王竜石に手を伸ばす竜魔人。させない!
『フィリナよ、我に策がある』
魔王竜石へ走る私にグアンロンが呼びかけてくる。
『この異竜と魔法を選ぶのだ』
言われた通りの恐竜と魔法を選択。この魔法は?
魔王竜石に追いつく。足下で怪しく光る。そこへ竜魔人が迫ってきた。
「よこせぇ!」
「やだ! アパトサウルス×幻惑!」
『ガオオオン! 解禁された恐竜×魔法を選ばれました!』
アパトサウルスは4足歩行で首が長くて尻尾も長い。ステータス画面に表示されるイラストは、ダトウサウルスよりも大きくてセイスモサウルスよりも小さめだ。
……大きさ以外で、何が違うの? ほとんど間違い探しのレベルで似た者同士だ。ステータス画面に名前が表示されなくちゃ、全然わからないよ。
恐竜×魔法の力を手に込めながら、竜魔人を押し返す。竜魔人は一瞬だけ光る。
「魔王竜石を、よこせぇ!」
けれど、この力は戦闘用じゃない。たいして押し返せなかった。
迫り続ける竜魔人。魔王竜石を拾っている時間はない。
私は、足下にある それを蹴りとばした。
それは、さきほど私が『セイスモサウルス×地震』で発生させた、地面の亀裂の中に落ちていった。
亀裂を覗けば、ずいぶん下のほうで、それは引っ掛かっている。
手を伸ばしても届かない距離。人が降りて回収しようにも、厄介な幅と深さだ。
「くそぉっ! なんてことを!」
竜魔人がこちらにやってきたので、素早く距離を取った。
亀裂の底を覗きこむ竜魔人は大層に悔しそうだ。
「面倒なことを。皆殺しにしてから回収してやる。この場にいる人数なら、寸刻もかからん」
竜魔人は私に槍を向けた。
どうしよう。今の恐竜×魔法で魔力はゼロ。聖竜の力を感じるものの、魔力の回復まで、まだ時間がかかる。
みんなも疲弊している。再びピンチだ。
そのとき。
「何が起きている!」
ギルド支部長の声だ。
街へと続く道。馬に跨ったギルド支部長がやってきたのだ。今日に限っては、上半身裸の丸出しの筋肉が頼もしい。
彼だけじゃない。多くの冒険者がやってきてくれた。何十人もいる。人数分の馬が用意できなかったのか、あとからあとへと走ってやってくる。
馬に乗った人たちの中には、この広場に魔王竜が現れることを最初に信じ、ギルドへ駆けていってくれた冒険者たちの姿もあった。
「シアンタ! みんなを連れて来たぜ!」
「なんてことだ。広場がメチャクチャだ」
「魔王竜だって? どこだ、どこにいやがる!」
武装した冒険者、新たなギルド職員が広場になだれ込んでくる。
「あなたたち、ボロボロじゃないの」
かつて、この広場で戦ったCランク冒険者の男性もいた。
「え? 鎧を着た化け物がいるわ。たしか竜魔人ってヤツよね。イヤぁぁ! 竜魔人!」
男性は私と向かい合う竜魔人に気付き、大声を上げる。きっとみんなに注意を促すためだ。
とっくに馬から降りていたギルド支部長は、腰の剣を抜くと竜魔人に怒鳴った。
「竜魔人。キサマには聞きたいことが山ほどある。その前に、まずはその娘から離れろ!」
同時に、この場にいる冒険者全員が一斉に武器を構える。
「この数……ええぃっ。こんなときまで冒険者! 気にくわん連中だ!」
竜魔人は跳躍。物凄い速さで広場から逃げていく。
「逃がすな。職員は追いかけろ!」
支部長はギルド職員に指示をする。
続いて私たちに向き直った。
シアンタが支部長へ駆けていく。
「ありがとう。信じてくれたんだね」
「当然だ。広場で轟音が何度も響いたのだ。否が応でも信じるしかないだろう。ところで魔王竜は」
「ボクたちが倒したんだよ」
「はぁ?」
困惑した表情の支部長に私も駆け寄った。
「あの、お願いがあります」
「なんだ?」
「竜魔人を罠に嵌めます。手伝ってもらえませんか」




