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98.VS『死』の魔王竜(3)

 散っていった聖竜の魂が魔王竜の力を抑え込んでくれた。魔王竜の身体の表面はボロボロと欠け始めている。


「行こう!」


『行くぞ!』


 聖竜剣を構えたシアンタが魔王竜の懐に飛び込む。


『ぬぅ。体が重いぞ。聖竜どもめ』


「魔王竜さま……うぅっ!」


 竜魔人は加勢しようとしたものの、暴れ回る魔王竜の巻き添えを食ってしまった。

 そんな見境のない魔王竜に、シアンタはしっかりと応戦している。


『弱き者の分際でぇ!』


 魔王竜は前足で地面を蹴る。衝撃と土砂で私は吹き飛ばされた。


『消えろ人間! 死に絶えろ!』


 倒れてなんかいられない。


「たしかに私たちは弱いよ。私なんて、生まれ変わる前も、今でも。だからって何が悪いの。強くなくちゃ生きる資格はないの? 弱くても生きていたって良いじゃん。私たちの生きる権利、存在の是非、オマエに有無は言わせたくない!」


 立ち上がって、気付く。これは? 魔力が回復しているの?


「グアンロンのおかげ?」


『違うぞ。我にはもう、たいした力は残されていない。聖竜が味方してくれているのだ』


 グアンロンも驚いている。消費した魔力が、どんどん回復していく。


「これなら!」


 どんな恐竜×魔法も使える。

 シアンタが戦っている状況だ。ここはダトウサウルス×付与術で。


「あ、いいこと思いついた」


 『ブルカノドン×火炎』は消費魔力を何倍にもして放つことができた。付与術も何倍にも上げて使うことは可能なはずだ。魔力ならあるんだ。試してみよう。

 ダトウサウルス×付与術!

 さっき魔王竜の攻撃を受けたあと、神様のアナウンスがあった。消費魔力を低減すると言っていたな。

 現在の消費魔力は1だ。


「じゃあ10倍で!」


 みんなの様子は。まずはキコア。


「力が戻ってくる。そんで溢れてきやがる。なんだか自分でもヤバい気がしてきたな。フィリナ、何しやがった」


「いつもの付与術を10倍にしてみたんだ」


「俺の身体で勝手なことするなよ! なんだか夢の中にいるみたいで、何でもできそうだぞ。ま、化け物相手にしているんだ。頭おかしいほうが丁度いいか」


「フィリナさん!」


 次はルティアさんだ。


「憑依しているミックが、心の中で雄叫びをあげています。もはや妖精猫の声ではありません。これは……」


 ルティアさんが背後の存在に気付く。

 傷を負ったギルド職員たちが街のほうへと逃げていくところだった。


「いい所にいましたね。キコアさん」


「おう!」


 二人はギルド職員の下に駆けた。


「武器をお借りします。この大剣はカタマンタイトですか」


「貸すのはいいが、キミの体型では……え?」


 ルティアさんは、ギルド職員が手にしていた大きな剣を、片手でひょいっと持ち上げた。


「オッサン、槍を借りるぞ。あ、これは魔法金属のマジリルだ。もらうぞ」


「ええ?」


「さっさと逃げろよ」


 キコアが別のギルド職員からマジリル製の槍を取りあげる。

 そんな二人にオーガキングとサイクロプスが迫る。


「今なら倒せそうな気がするんだよな」


「オーガキング。相変わらず邪魔ですね」


 二人は二体の魔物と戦い始めた。


 一方シアンタは。


「うおおおっ!」


『グアっ!』


 聖竜剣で魔王竜の翼の片方を斬り落とした。


「これで空は飛べないね」


『こうなれば』


 戦いを続けながら、魔王竜の視線が泳ぐ。

 何を探している? 竜魔人のスイルツかな。

 スイルツはあちらで魔王竜とシアンタの戦いを伺っている。

 何を企んでいるのか分からないけれど、私はスイルツのもとへ駆ける。先回りだ。


『見つけたぞ』


 魔王竜の視線が一点に固定される。

 その先には、まだこの場から逃げきっていないリナンとボナ子ちゃんがいた。

 先ほどのギルド職員たちは、エリーを担いでいなかった。

 リナンたちは動けないエリーと一緒なんだ。早く動けなくて当然だったんだ。


『少しでも人間を殺してやる!』


 しまった。魔王竜が探していたのは仲間であるスイルツじゃない。リナンたちだ。

 魔王竜はリナンたちに標的を変えると、猛然と迫っていった。


『絶望しろ! 小さき者よ』


 ここからでは間にあわない。逃げて! 


「これが死の魔王竜。ダンジョンの深奥に巣食う者」


 そう言うリナンは動かない。傷ついたエリーがいるから動けないんだ。

 そんなエリーは……いない? 

 リナンの表情は絶望なんてしていなかった。


「私がいますわ!」


 輝いたエリーが魔王竜の側面に走り込んできたのだ。


「行きますわ! 全力放出!」


 エリーの渾身の鉄拳が魔王竜の右前脚に直撃した。


『キサマ、一発目と同じ個所を!』


 魔王竜の右前脚は崩壊。魔王竜は転倒し、転げ回る。


「エリー、どうして」


 重傷を負っていたはずなのに。


「はい。いきなり身体が光ったんです」


 リナンが解説してくれる。


「意識が戻ったのでポーションを飲ませたら、みるみる回復していって。あれはポーションの回復速度を越えた現象です」


「おかげで、こうして特技の二発目を使えましたわ」


 エリーは腰に手を当て、胸を張る。

 付与術は意識を失ったエリーでも対象となったようだ。

 そんな付与術は今回10倍。

 10倍にしたから、回復力も大幅に強化されたのかな。付与術の新しい使いかた。それとも聖竜のおかげなのかもしれない。


「えぇぇい!」


「うりゃぁぁ!」


 ルティアさんとキコアの掛け声に目を向ければ、オーガキングとサイクロプスを撃破していた。


「みんな!」


 シアンタも駆けてくる。

 魔王竜は体勢を立て直し、こちらを睨む。


『ぬぐぐ。まだだ! ワシを守れ、魔物よ!』


 復活した魔物のうち、未だ健在のタイラントタウラスが魔王竜の正面に現れた。

 タイラントタウラスは襲いかかって来る。

 合わせてシアンタが動き出す。


「ボクがみんなを守る。兄さんと父さんを守る。ボクが世界を守るんだ!」


「そんなシアンタを、私が守る!」


 魔力は依然として回復中だ。ダトウサウルス×付与術、10倍で継続させる。


「私も守ります!」


 フィリナさんがシアンタと並走する。


「俺だって!」


「私もですわ!」


 キコアとエリーがシアンタに追いつく。


「みんな行くよ!」


 四人はタイラントタウラスを斬り伏せ、殴りとばした。

 勢いそのままに魔王竜へ突っ込んでいく。


『良かったなシアンタ。仲間がいっぱいだ』


 聖竜剣が言う。


『懐かしいな、この空気。80年ぶりか』


 そんな聖竜剣に魔王竜が反応した。


『その声。思い出したぞ。かつてワシが殺した聖竜か』


『80年ぶりだな魔王竜。俺様は勇者聖竜アンガトラマー。テメぇの天敵の聖竜、今は聖竜剣士シアンタの相棒だ。よぉ魔王竜。久しぶりの戦いだ。けどよ、とりあえず、また消えとけよ!』


『ワシは、もう二度と!』


 魔王竜は口を大きく開けた。衝撃波が来る。


『消え去るのは人間のほうだ!』


 させないんだから!


「仲間を守るために力を貸して恐竜! 街を守るために力を貸して魔法! 私はみんなを守りたい。だから力を貸して! 恐竜×魔法!」


 恐竜×魔法×聖竜!

 ダトウサウルス×付与術×みんな!

 消費魔力は、全部!


 パァァァ!


 眩しい光がシアンタたちから解き放たれる。


「エリー!」


「不思議ですわね。フィリナさんが考えていること、なんとなく分かりますわ!」


 エリーはルティアさんとキコアを担ぐと、全力で魔王竜へブン投げた。

 投げられた二人はシアンタを追い越して、衝撃波を放つ直前の、口を開けている魔王竜へ。

 直前で着地すると、魔王竜の下顎めがけて大剣と槍を振り上げる。


『ギグェ!?』


 下顎を殴られ、天を仰ぐ魔王竜。

 目標を逸らされた衝撃波が空へと発射された。


「隙は作ったぜシアンタ!」


「信じていますよ」


 キコアとルティアさんは魔王竜から離れる。

 そこへ聖竜剣を構えたシアンタが魔王竜めがけて駆けこんでいった。


『こんな小娘に。たった一人の聖竜剣士に。年端の行かない子供に。このワシが。魔王竜が』


「小娘でも、一人の聖竜剣士でも、年端の行かない子供でも。代えのきかない私の友だちなんだ。行って! シアンタ!」


 私の願いを小さな背中に受けて、彼女は聖竜剣を振り下ろす。


「これが本当の! 魔竜討滅斬だぁぁぁ!」


 火花が散る聖竜剣から、光る大波が放出される。

 それらが地面を這い、魔王竜を飲みこんでいった。


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