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94.復活

「抜けた!」


 聖竜石のグアンロンが即興で作ってくれた深奥への最短経路。

 それは急こう配の滑り台だった。

 私とシアンタ、聖竜石と聖竜剣は滑り台を使って深奥へと辿り着く。


「お尻痛い。シアンタ、大丈夫?」


「うん」


 たくさん泣いて、目を腫らしたシアンタが答える。かつてのような元気はないけれど、ちゃんとついてきてくれた。


 深奥はこれまでのダンジョン内部とは違い、足下は岩盤になっていて、周囲は岩肌が露出している。まるで大きな洞窟みたいだ。


『魔王竜のニオイで充満していやがるな。おい、アレを見ろ!』


 シアンタの背中の聖竜剣が、何かを察知したみたいだ。

 見回せば……いた。

 鈍色の竜魔人がいる。

 さらに不気味に光る石のようなものが、竜魔人の前に浮いている。大きさは1メートル弱。トゲトゲが生えている多面体だ。

 あれが魔王竜の魂、魔王竜石なんだろうか。


『間にあったか。魔王竜石を砕いてくれ』


 手にした聖竜石が、多面体を魔王竜石だと断言する。


「竜魔人!」


 私たちは駆ける。


「ここまで来たか。復活まで、あと少しだというのに!」


 そう言う竜魔人の足下には壺が散乱していた。何が入っていたんだろう。


『邪魔者がやってきたか。ここまで力をつけてもらえれば上々だ。少し早いが復活するとしようか』


 なに、この声。空気が震えた気がした。

 周囲の岩盤や岩肌がビシビシときしんでいる。


『魔王竜の声だ。ビビるな。俺様がついてる。さっさと砕くぞ』


 聖竜剣が応援してくれる。


『聖竜か。相変わらず邪魔してくれるか。ならば』


 目の前に白い転移陣が現れる。そこから出てきたのはオーガリーダーだった。


『この地に巣食う魔物を転移させた。これで少しは時間が稼げるだろう』


「さすが魔王竜さま。こんな力まであるとは」


 竜魔人は大きな袋から壺を取り出すと、中身を魔王竜石にかけた。

 赤い液体だ。魔王竜石は、それを飲み込むかのように吸収していく。


「何をしているの?」


『あれは……そうか。魔竜の血だ。魔竜の血を捧げ、魔王竜の力を回復させているのだ。そうやって復活させる気だ』


 聖竜石の言うことが本当なら、竜魔人はどこからか手に入れた魔竜の血で、魔王竜を復活させようとしているんだ。


「させない……きゃあっ」


 早く駆けつけようとする私たちの前に、転移陣から現れたオーガリーダーが棍棒を振りかざして襲ってきた。


「うおおおっ!」


 聖竜剣を手にしたシアンタが棍棒を受け止める。


「フィリナ、行って! 竜魔人のこと詳しいんだよね」


「わかった!」


 シアンタがオーガリーダーと戦い始める。


「手を貸してアンガトラマー! みんなのために。みんなを守りたいから!」


『オマエは相棒だ。手も翼も牙も貸してやる。今は剣だけどな』


 シアンタは大丈夫だろうか。ううん、もう大丈夫だ。

 私は再び竜魔人と魔王竜石へ駆けた。


「スイルツ! どうして魔王竜の復活なんか」


「ふんっ」


 竜魔人は答えない。


『我も最後の力を貸そう。フィリナの魔法世界に納めるのだ』


 聖竜石が語りかけてくる。

 それにしても魔法? 納める? そうか。


「パンファギア×収納!」


 現れた魔法空間に聖竜石を投げ込み、さらに魔法空間から剣を引き抜く。


『これでフィリナも一時的に聖竜剣士だ』


 聖竜剣士(仮)!

 続いてアギリサウルス×俊敏性強化(中)で竜魔人に斬りかかる。


「ええい!」


 ガチン!


「え……!」


 竜魔人の身体は硬かったのだ。

 剣が折れて飛んで行き、私は急いで竜魔人から距離を取る。


「邪魔をしないでもらいたいな。さて魔王竜さま。時間がないゆえ、残りの魔竜の血、すべてを」


『遠慮なく奉仕しろ』


 竜魔人は大きな袋から壺を次々と引きだすと、魔王竜石に盛大にぶちまけた。


「最後は私の血も」


 竜魔人は器用に左腕だけ人間のものに戻すと、剣で腕を斬りつけて、自分の血を魔王竜石にかけていた。


『人と魔竜の血か。我の力にさせてもらうぞ。ムンっ!』


 辺り一帯が揺れる。


「地震?」


『違う。魔王竜が復活するのだ。遅かったか』


 どこからか聞こえる聖竜石の声がするやいなや。

 岩壁や足下の岩盤に亀裂が入った。

 竜魔人は槍を手に持つと、岩盤や岩壁を砕いていく。

 むき出しになった地面から、土砂が舞いあがり、魔王竜石の周囲に集まっていく。


「魔王竜って、こんなことができるの?」


『深奥は80年の歳月をかけ、魔王竜の力で満たされる空間となった。これくらいの芸当、出来ても不思議ではない』


 魂だけなのに、どれだけの魔力があるというんだろう。

 魔王竜石のもとに集まった土砂の中から、ブヨブヨとしたものが浮き出てくる。


「なにあれ?」


『80年前に朽ちた魔王竜の肉片。それを再生させ、集め、吸収して復活を果たす気だ』


「そんなこと、させない!」


 もう一度、パンファギア×収納。魔法空間から剣と槍を取り出す


「魔王竜さまには近づけさせない!」


 鈍色の竜魔人が立ち塞がった。

 相手は硬い。普通の剣と槍じゃ倒せない。どうすれば。

 そのとき、強い光が一帯を照らした。


『ハハハハ! ワシはついに肉体を取り戻したぞ』


 魔王竜石が浮いていた場所に目を向ける。

 そこには、魔竜よりも一回りも二回りも大きな黒い竜が立っていたのだ。

 巨大な牙にコウモリのような翼。大木のような四本の足。

 その点は魔竜と大差がない。100体キメラに比べれば小さい。けれど気迫が全然違う。きっと力だって。


 全体から溢れ出る見えない力は何だろう。うしろに押されそうになる。

 正直、怖くて目を逸らしたい。


『80年ぶりの肉体だ。手始めに地上に出て、こんな場所に閉じ込めた人間どもに復讐してやろう!』


「お供します。魔王竜さま」


 鈍色の竜魔人は魔王竜の背中に飛び乗る。


『グルアァァ!』


 魔王竜は頭上の天井に向かって吠えた。


 ゴゴゴゴ……。


 天井がボロボロと落ちてくる。その影響で一帯の天井にヒビが入り、いたるところで落盤事故が発生している。


「なんてデタラメな力なの」


『深奥は魔王竜の力で満たされてしまったのだ。魔王竜の領地のようなモノ。油断するな』


 油断しなくても、命の危険がある状況だよ!

 私の頭上からも、砂や小石が雨のように降り注いできた。

 見上げれば、みるみると天井にヒビが走っていく。

 あっという間に天井が落下してくる。


「あぶないっ!」


 シアンタだった。走ってきたシアンタが私を抱えて、崩落から守ってくれたのだ。


「フィリナ、大丈夫?」


「ありがとう。でも……」


 魔王竜の頭上の岩、土砂は落ち切ったのか、吹き抜けのようにぽっかりと空いてしまっていた。


「上階が見えます。この調子で地上に向かいましょう」


『フハハハハ!』


 竜魔人を乗せた魔王竜は羽ばたくと、ぽっかりと空いた頭上に向かって飛び立った。

 一帯を騒がせていた揺れがなくなる。

 辺りは落盤事故の瓦礫でいっぱいだ。

 その中でシアンタは埃まみれになりながらも、無事でいてくれた。


「シアンタ、オーガリーダーは?」


「そこだよ」


 そこには落石で頭を潰されたオーガリーダーが横たわっていた。

 それにしても、どうしよう。このままでは魔王竜が地上に出てしまう。

 魔王竜はダンジョンの中を縦に突っ切るのだろうか。

 ダンジョンの中では多くの冒険者が活動中だ。危ない。


『フィリナよ。手を地面に置くのだ』


 聖竜石の言うとおり手の平を地面にくっつける。


「どうするの?」


『先回りをする』


 すると足下に転移陣が広がった。

 転移陣の光が私とシアンタを包みこんでいった。


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