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9.エオラプトル×俊敏性強化(小)

 食事のあとは就寝だ。

 私の部屋はフィリナちゃんが父親と使っていたため、ほかの部屋よりちょっと広い。もともとは母親も含め、親子三人で使っていた部屋だという。

 部屋を抜け出すと、お祖父さんが眠っているのを確認して外へ出た。伯父は自室にこもっているから気付かれてはいない。


 いつもの広場にやって来る。村の外で一人で生きることを迫られたら。冒険者という生き方を選ぶのなら強くなる必要がある。でも私は強くない。

 どうにかしなくちゃ。


 ステータスオープンして、左右の画面を睨む。

 右の画面には恐竜のイラストがある。画面右の『→』の表示を押せば画面が切り替わる。全部で4枚。それらには多くの恐竜が描きこまれてある。

 この前かぞえてみたら80匹もいた。全部違う種類だ。一枚目の画面だけは二体の恐竜が描かれていて、ほかの画面には多くの恐竜が描かれている。


「どうして、こんなに恐竜がいるんだろう」


 そもそも、どんな恐竜を選んだところで、魔法と組み合わせても30秒しか使えないんだから。ゴブリンすら倒せないし。


「恐竜なんて一匹でいいのに」


 私は魔竜に殺された身だ。大きな爬虫類のイラストをたくさん見せられても嬉しいワケがない。

迫力のない恐竜一匹が描かれていれば、それでいのだ。

 たとえば小さくて可愛いヤツとか。そんな恐竜、いないけど。


「この恐竜なんて比較的小さくて可愛いほうか」


 そう感じたイラストに手を触れると恐竜の名前が浮かぶ。


『コンプソグナトゥス』


 可愛くない名前だ。恐竜ってこんなネーミングばかりだよね。○○サウルスに□□ドン、ほかにも馴染みのないカタカナの名前。


「そう言えば、恐竜の名前って、みんな意味があるんだっけ」


 元の世界で父が生きていた頃、父は私に恐竜図鑑を見せながら説明してくれたのだ。

図鑑には恐竜のイラストと共に名称が載っている。その名称の下にはカッコ書きで、名称の意味が書いてあった。

 そのときの私は、恐竜なんかに興味がなかったので、名称も名称の意味も頭には入らず、父の説明も聞き流していた。

 母も恐竜の名称に詳しかった。意味も知っていた。夫婦そろって恐竜が好きだったのだ。


「そんなこと思い出している場合じゃないよね」


 強くなりたい。でも方法がわからない。

 ステータス画面に映る別の恐竜のイラストに触れる。名称も出てくる。だけど私には意味がわからない。

 一枚目の画面には二匹の恐竜。そのうちの一匹に触れると『エオラプトル』という名前が浮かぶ。


「変な名前。エオラプ、トル? エオラ、プトル? エオ、ラプトル?」


 ラプトル……ラプターと同じ意味かな。どこかで聞いたような。

 ああ、たしか高校生の頃、クラスメイトの男子がスマホでシューティングゲームをしていて。戦闘機が出てくるゲームだった。そこにラプターっていう戦闘機があったんだ。

 一回だけ遊ばせてもらったけれど、私が操るラプターは、すぐに敵の攻撃を受けて墜落した。つまらないゲームだと思った。


 そうそう、ラプターだ。たしか英語で猛禽類。もうひとつの意味は略奪者だっけ。

 するとエオラプトルは略奪者なのか。エオの意味は分からないけれど。


「略奪者ってことは泥棒だよね。早いのかな」


 今度は左の画面、特技の魔法を見てみる。

こちらも先日、種類をかぞえてみたら80種類あった。その中から


『俊敏性強化(小)』

『俊敏性強化(中)』

『俊敏性強化(大)』が目にとまる。


 ゴブリンの動きも素早い。明日はこれらを試してみようか。

 今からエオラプトルと俊敏性強化の組み合わせを試してみよう。

 今日は午前中の畑仕事で『腕力強化』を恐竜と組み合わせて5回使った。

 午後のゴブリン退治では魔法と恐竜を組み合わせて3回使った。


「今日はあと二回か」


 俊敏性強化は(小)(中)(大)の3種類。最初は(小)からだ。

 右はエオラプトルを選択。選択肢『選び続ける』に決めて、左から俊敏性強化(小)を選択して、選択肢『これに決める』を選んだ。

 その瞬間。


『ピンポンピンポン! 初回特典ふたつのうち、ひとつの恐竜×魔法を選ばれました!』


「ええっ!?」


 あたりを見回す。ピンポンってなに? 明らかに電子音だった。この村の音じゃない。それと女の人の声が聞こえた。

 あたりは夜の静寂に包まれている。真っ暗な夜の村だ。月明りのおかげでなんとか見えるくらいだ。私以外に人はいない、と思う。

 思い出した。さっきの声は神様のものだった。


「考えても仕方ない。どのくらい速くなっているか試そう」


 貴重な30秒間を無駄には出来ない。

 走ってみた。


「え?」


 速い。足がとても速く動いて、あっという間に広場の端まで来てしまった。

 それに身体まで軽く感じる。いろいろ動いてみる。側転、反復横とび、エア走り高跳び。どれも凄い速さと高さだ。

 それだけじゃない。30秒をとっくに越えているのに効果が持続している。

 魔法を終了するよう念じてみると効果は消えた。


「次はどのくらい持続するか試してみよう」


 エオラプトル×俊敏性強化(小)! 

 今度は神様の声は聞こえない。

 時計もないのでカウントしながら飛び跳ねてみる。

 垂直跳びもかなりの高さだ。平屋建ての家の高さまで跳べる。

 そんな高さから落ちればケガするはずだ。でも足にはなんの痛みもない。動きについていけるよう、身体まで強化されているみたいだ。

 一分経過すると効果は消えた。


「やった。この力があれば、ゴブリンだって」


 ステータス画面に描かれた恐竜は80種類。魔法の種類も80種類。恐竜と魔法。正しい組み合わせがあるんだ。恐竜の数には意味があったんだ。


「……あっ」


 この二週間、柵の補強作業で魔力が枯れるまで腕力強化の魔法を使ってきた。そのおかげで自分の中の魔力の残存量を感じ取れるようになっていた。

 一日の魔法の使用回数は10回が限度。今日はすでに10回の魔法を使った。


「でも、まだ使えるような気がする」


 もしかして、恐竜と魔法を正しく組み合わせれば、燃費も良くなるのかな。


「エオラプトル×俊敏性強化(小)!」


 力がみなぎってくる。まだまだ使える。今度は全力で走ってみる。

 広場から誰もいない村道を駆け抜ける。速い。きっと人間が出せる速度じゃない。

 一分も経たないうちに村の境界線である柵が見えてくる。

 もうすぐ一分経つ。魔法の効果が消える前にステータスをオープン。走りながらエオラプトル、俊敏性強化(小)を選択。


「このまま、いっけぇぇぇ!」


 走り幅跳びの要領でジャンプ。

柵を越え、その先にある丸太の柵まで飛び越えて着地……失敗。

地面をごろごろと転がりまわる。でも痛くない。身体も強化されているんだ。


「あはははは。すごい。魔法の力、異竜戦士すごい」


 これならゴブリンを倒せる。冒険者にもなれそう。一人でも生きていけるかもしれない。

 転がり終わり、夜空を見上げる形で、私は笑うことができた。



☆☆☆



 朝になった。魔力は回復している。

『エオラプトル×俊敏性強化(小)』は、あれからもう一回使うことができた。

 昨日までは恐竜と魔法を組み合わせて、一日10回も使えば魔力は尽きた。魔力の総量を100とすれば一回の使用量は10だ。

 昨晩、エオラプトルを選ぶ前は二回使える状態だった。魔力は20残っていたのだ。

 『エオラプトル×俊敏性強化(小)』なら5回も使えた。この組み合わせなら消費する魔力は4のようだ。燃費だっていいのだ。


 今日は早起きをして、朝食前に広場に行って、恐竜と魔法の組み合わせを試してみた。

 エオラプトルと腕力強化。エオラプトルと火炎の魔法。

 どれも効果は30秒。ほかの恐竜を選んだときと変わらない。エオラプトルが凄いワケではないみたい。

 続いて俊敏性強化(小)とほかの恐竜で組み合わせてみても、エオラプトルの組み合わせほど速くもなく、高くも跳べず、効果は30秒だった。

 エオラプトルと俊敏性強化(中)も組み合わせてみた。こちらも昨晩のような素早い動きをすることはできなかったのだ。


 組み合わせが重要なんだ。でも……。


「あと恐竜が79種類。魔法も79種類って」


 79×79=6241通りだ。

 神様は言っていた。


『初回特典ふたつのうち、ひとつの恐竜×魔法を選ばれました!』


 もうひとつ、正しい組み合わせがあるはずなんだ。でもほかの組み合わせはハズレなんだ。

 それに初回特典って。このあと特典は増えるのだろうか。

 なんだか不安になるけれど、それ以上に『エオラプトル×俊敏性強化(小)』は心強い。


 朝食のあとは畑仕事だ。魔力の残りは60。ゴブリンとの戦いのために畑仕事では魔法は使わない。

 午後。そっと村を抜けだして森へ。今日も村から剣とナイフを持ち出した。

 体感時間で二時間ほど歩けば……。


「いたっ!」


 昨日のゴブリンたちだ。6匹。頭をケガしているゴブリンもいる。1匹は今日も木の枝に座っている。


「ギャギャギャ!?」


 こちらに気付いて警戒してくる。


「今日こそオマエたちに勝ってやるんだから!」


 エオラプトル×俊敏性強化(小)!

 腰の剣を引き抜く。剣が軽く感じられる。重くない。これなら!

 素早くゴブリンの一体に距離を詰める。対応できないゴブリンは何事かという表情で私を見ていた。


「えいっ!」


 剣をゴブリンに振り下ろす。


「ギャギャギャァァァ!」


 ゴブリンは頭から出血して転がりまわった。

 次は……木の上のヤツ!

 魔法の力で強化された跳躍で、枝に座ったゴブリンを斬り落とした。枝まで切れた。

 ほかのゴブリンたちは危険を感じたのか、逃げ始める。


「逃がすかぁ!」


 逃げる一匹を斬り伏せる。

 さらに一匹に追いついて正面から剣を振り下ろす。もう一匹は走りながら、すれ違いざまに斬り倒す。


「あと一匹。そこだ!」


 懐からナイフを取り出して投げつける。ナイフがゴブリンの背中に刺さり、怯んだところを追いかけて行って剣を突き刺した。


「やったぁ! ゴブリンに勝てた! ……あれ」


 振り返れば、5匹のゴブリンが血を流しながらも、まだ生きていた。


「一撃じゃ無理か。私、剣道知らないし」


 そのあと6匹とも、何回か剣を突き刺してトドメをさした。

 村の害獣ゴブリン。森の果物を人より先に取ってしまい、魚釣りを終えた村人から魚を掠め取る魔獣ゴブリン。フィリナちゃんが村のために倒そうとしていたゴブリン。


「こっちも生きていくために必死なんだから」


 この森にはたくさんのゴブリンが住んでいるそうだ。

 まずは6匹。フィリナちゃんが果たそうとしていた夢に一歩近づいた。


おはようございます。

第10話は本日12時ごろ投稿予定です。

引き続きお楽しみください。

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