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89.VS漆黒の竜魔人(3)

 ボナ子ちゃん救出作戦開始!

 まずは剣と槍、格闘技の冒険者たちに、竜魔人バイオンへ向かってもらった。

 竜魔人バイオンは筋肉を発射する。冒険者たちは、それを必死に避ける。


「私たちも行きます!」


 ルティアさん、キコア、魔力を使い果たした魔法士冒険者たちも一斉に盾を手にして竜魔人バイオンに駆ける。


「動ける者で一斉に来おったか。だが、それで我に辿り着けるかな」


 竜魔人バイオンは相変わらず溢れる筋肉を周囲に向けて発射している。


「それでも、やっぱり水平方向しか撃てないみたいだね」


 そんな状況を、私は『アーケオプテリクス×飛翔』の力で宙を舞い、見下ろしている。

 みんなが、あからさまに突っ込んでいくおかげで、竜魔人バイオンはこちらに気付いていない。


「本当に宙を舞っているんだ。フィリナ、スゴイ!」


 肩を組み、腰に手をまわして、持ち上げる形で一緒に宙を舞うシアンタは歓声を上げた。



☆☆☆



 作戦は、こうだ。 

 竜魔人バイオンに、上空から一撃を加えたい。

『アーケオプテリクス×飛翔』の力だけでは、竜魔人バイオンに強烈な一撃を加えることはできない。

 そこで上空にシアンタを連れていく。

 竜魔人バイオンの注意はルティアさんやプエルタさんに引きつけてもらう。

 その隙に上空から一撃を加えて、バイオンを戦闘不能にするのだ。

 そうすれば瓦礫の中のボナ子ちゃんを救出できる。


「どうしてボクなのさ。ボクは特技を使えないんだよ!」


 作戦を伝えたとき、当初シアンタは渋っていた。


「ルティアが行けばいいじゃないか。ルティアは特技、まだ使えるでしょ?」


「私の特技は妖精憑依ポゼッション。長時間、行使できる面、強烈な一撃を加えることには不向きな特技です」


「だったら、エリー」


「私はもう、使ってしまいましたわ」


 ルティアさんとエリーに拒否されてしまい、シアンタは俯いてしまった。


「シアンタ。特技は使えなくてもいい。この中で天職を持っている丈夫な身体の持ち主で、剣の達人なら、それでいいんだよ」


 私はシアンタの正面に立ち、肩を叩く。


「だったら、ほかの冒険者に頼ってよ」


「だって剣術をまともに習ったことがあるの、この中でシアンタだけだと思う。それに大人の人って重いから、つれていけない」


「だからって、Aランク冒険者を倒すなんて。フィリナたちは魔竜と戦って生き延びたんだよね。ボクはね、そんな強敵、戦ったこともないんだから」


「だからなんですの?」


 エリーだ。既に特技を使っているせいで、フラフラだ。


「五大武侯の孫娘とあろう者が、助けを待っている子供を前に、怖気づくんじゃありませんわ。そんなことでは守れる者も守れない。あとになって後悔しても知りませんわよ」


「エリーまで……」


 シアンタは聖竜剣から手を離した。

 床に落ちる聖竜剣。シアンタは再び視線を落とす。


「ボクは。ボクはね。バナバザール侯爵のパーティーでお祖父さんに捕まったとき、少し安心したんだ。これでようやくダンジョンから離れられるって。もう戦わなくていいって。アンガトラマーの言うとおりだよ。ボクが魔王竜の魂を無効化するなんて、妄想だったんだ」


「今の言葉、撤回して」


「え?」


 シアンタは顔を上げた。

 私はシアンタが二度と俯かないよう、しっかりと視線を捉える。


「私はそんな子を剣術の先生にしたんじゃない。そんな子を貴族相手に、ダンジョンの深層まで連れていくって宣誓したんじゃない。女の子だけど家を継ぎたい。みんなにアッと言わせたい。そんな子を応援したかったんだ!」


 今、シアンタは周囲の反対の中にいる。

 家長のお祖父さんはシアンタのダンジョン攻略は無理だと思っている。彼女の家は名誉侯爵家。従者の一人もシアンタにはついて来なかった。

 周囲は敵とは言わないけれど、味方はいない。


 そんな状況、私は耐えられない。かつての私は、私を嫌う人たちに折れてしまった。

 その人たちの前から消えることを選んだ。消える前に死んだのだけれど。


 シアンタは一人でも戦える胆力の持ち主だ。

 そんな彼女の夢を、強力な魔物や竜魔人が拒むなんて許せない。


「シアンタさん」


 ルティアさんは優しい顔でシアンタに向き合った。


「あなたがダンジョンの深層を目指す理由。それは自分の力を証明することのほかに、病弱なお兄様を矢面に立たせたくない。そんな想いがあったのではないですか?」


「そ、それは……」


「その優しさを、強さを、ほかの皆さんにも分けてほしいんです」


 シアンタは口元をギュッと閉じる。震えている。


「瓦礫の中のボナ子はもっと震えていると思うぜ」


 キコアだ。


「ボナ子、転移魔法の特技が使えるみたいだけれど、冒険者はまだ早い感じだ。いいよな、天職と特技。俺にはない。何なんだろうな。シアンタ、特技を使えないこと、悩んでいたみたいだけど、気にすんなって。俺なんて天職と特技、両方ないぞ」


 キコアは床に落とされ、黙り続ける聖竜剣を拾いあげ、シアンタに差し出した。


「ほら、シアンタの得物だ。これでバイオン倒してこいよ。俺には鋼鉄の槍があるから使えねぇ。エリーにはナックル、ルティアは妖精の力がある。フィリナには……剣と魔法か?」


「恐竜と魔法だよ」


 私が答えると、一瞬、キコアの表情に『?』マークが浮かんだように見えた。

この世界には恐竜という言葉はないようだ。


「ボクは……ボクは」


 シアンタは思いつめた面持ちで、聖竜剣を握りしめた。



☆☆☆



 そして今、私はシアンタと共に、竜魔人バイオンの頭上めがけて、宙を移動中だ。

 この広間は天井だって高い。10メートルの高さを移動中。

 ほかの恐竜×魔法と同じなら、持続時間はわずか一分。

 そのあいだに竜魔人バイオンの真上に移動する。やれないことはない。


 下を見れば、ルティアさんたちが必死に竜魔人バイオンに近づこうとしている。

 相手は筋肉を砲弾のように、周囲に発射している。

 狙いをつけて発射しているわけではなさそうだ。

 それでも敵の筋肉は発射された矢先から、どんどん発達して、連続発射してくる。


 いつ自分めがけて筋肉弾が飛んでくるか分からない状況で、みんな注意を引きつけてくれている。


「ボナ子のため、仲間のため、みんなのため! ボクはできる。ボクは聖竜剣士なんだ!」


『おう! たしかにオマエは聖竜剣士だ。一応な!』


 肩を組み、共に宙を舞うシアンタが自分を鼓舞する。

 彼女の右手の聖竜剣も、彼なりに応援しているようだ。


「そろそろ敵の頭上だよ」


 見下ろせば竜魔人バイオンがルティアさんたちに筋肉砲弾を撃ち続けているところだった。

 ここから降下して、シアンタと聖竜剣の一撃を相手にぶつける。

 殺すんじゃない。大きなダメージを与えて、もとのバイオンの姿に戻すんだ。


「街のため、兄さんのため、自分のため! 怖がるな、ボク!」


「シアンタ、そろそろ準備は良い? 敵に向かうよ!」


 そんな敵、竜魔人バイオンは、この瞬間、私たちを見上げた。

 気付かれた!


「ほう。空を飛ぶ魔法士がいたか。油断大敵とはこういうことだな。フハハァ!」


 敵は左腕で力こぶを作った。上腕二頭筋が山のように盛り上がる。

 それを右手で掴んで引き千切ると、こちらに向かって投げてきたのだ。


「我の筋肉砲は、その筋肉密度ゆえに対空攻撃には不向きだが、こうして投げつければ、上空からの強襲にも対応できる。むぅぅ、我に隙なし!」


 そんなのズルイ!

 敵は腹筋、背筋、太もも……あらゆる筋肉を千切っては投げ、千切っては投げてくる。

 こちらは避けるのに必死だ。


「このままじゃ撃墜される」


 なにか、良い方法は。私はシアンタに抱きついた。

 先ほどまでお互いに肩を組み、二人三脚のような形で宙を舞っていた。これでは被弾率が高くなってしまう。

 それならば、正面から抱きついた形のほうが、敵の攻撃を受けにくい。

 敵の攻撃を避けるため、激しい空中機動を取る。ほっぺだって、くっつく。


「シアンタ、まだ12歳だっけ。初めての彼氏ができる前に、抱きついてゴメン」


「はぁ? こんなときに何言ってんのさ。フィリナなんて11歳だよね?」


 本当の私は昨年、20歳で死にました。

 敵の攻撃を掻い潜る。もうすぐ一分経過する。

『アーケオプテリクス×飛翔』を継続。消費魔力は4。残りの魔力は4。


 反撃の糸口がつかめない。

このまま宙を舞い続けたところで、いつか魔力は尽きてしまう。


「皆さん、このままでは作戦が水の泡に。注意を引きつけて下さい」


「わかってら!」


 ルティアさんの号令で、キコアと冒険者たちが敵に突っ込む。


「この身体に眠る魔力よ。あと一回、仲間と仲間を助ける者のために私に応えたまえ! ああ、お願いですから出てきて下さい。風魔法ゼフィロス!」


 プエルタさんだ。力みきった表情の彼女の右手から竜巻が発生。竜魔人バイオンに向けて発射された。魔力残量がゼロに近いところを、引き絞ってくれたんだろうか。

 彼女の風魔法は敵に直撃。敵が手にしていた筋肉弾が足下に落ちる。

 今だ! 竜魔人の直上に移動。成功だ。


「フィリナ、ボクをこのまま落として!」


「シアンタ?」


「この高さから飛び降りれば、特技を使えないボクだって、体重をかけて、勢いに乗れば強烈な一撃を喰わえることができる。少しくらい相手の迎撃を受けたって、真上から落ちれば勝手に敵まで辿り着く」


 シアンタは強い眼差しを私に向けた。


「ボクは聖竜剣士だ。フィリナまで危険な目に遭うことはないよ。ボクがバイオンを倒すから!」


 姿勢を二人三脚の形に戻す。


「シアンタを一人では戦わせない。ダトウサウルス×付与術!」


 神様のアナウンスでは『既存の恐竜×魔法の消費魔力を低減させる』と言っていた。

『ダトウサウルス×付与術』。消費魔力は2まで半減していることを感じる。残り魔力は2。


 私たちはバイオンの頭上めがけて落下中だ。

 恐竜×魔法を『アーケオプテリクス×飛翔』から『ダトウサウルス×付与術』に切り替えたのだから、もう宙は舞えない。

 付与術の効果でルティアさん、キコアが輝く。


「ええいっ!」


「うおお!」


 二人は一気に敵に近づき、敵の左右の両方向から剣と槍を振りきった。


「こんなモノ!」


 竜魔人は二人の刃を受け止めてしまう。


「そう来ると思ったぜ」


「今です!」


 キコアとルティアさんは私とシアンタ……ではなく、リナンと負傷者たちのほうへ視線を向けた。彼女たちは当然だけれど、作戦には参加していない。

 そんな彼女たちの中で、さきほどまでフラフラだったお嬢様が、輝きを放ちながら立ち上がった。


「力みなぎる! フィリナさんの魔法、受け取りましたわ」


 全力放出のあと、文字どおり全力を使い果たしていたエリーが、付与術の力で動けるようになったのだ。


「借りますわよ!」


 負傷者として横たわる強面さんが持つ硬魔法金属カタマンタイトの大剣。

これを手にしたエリーは、まるで槍投げのような姿勢で大剣の柄を持つと、竜魔人に狙いを定める。


「あなたの筋肉。私の好みではありませんの。これは特技ほどではありませんが、抗議のひとつとして受け取って下さいましね。でぇぇい!」


 大きな剣が、まるで矢のような勢いで竜魔人に向かう。


「キコアさん! 敵の腕を掴んで下さい!」


「踏ん張りどころだな!」


 ルティアさん、キコアが武器から手を離し、それぞれが竜魔人の左右の腕を掴む。

 女の子といえども、付与術で強化された握力だ。そう簡単には振りほどけない。逃げられない。


「グゴォっ!?」


 エリーが飛ばしたカタマンタイトの大剣が竜魔人に直撃した。突き刺さってはいない。厚い筋肉に防がれてしまった。

 それでも、こちらが攻撃を加える隙ができた。


「あとは任せます」


「スゲぇ衝撃だった。腕が抜けるかと思ったぜ」


 竜魔人の腕を掴んでいたルティアさんとキコアが離脱する。


「シアンタ。二人で行こう!」


 竜魔人に向け、私たちは落下する。

 このあと、アギリサウルス×俊敏性強化(中)の力で自分自身を強化する気でいた。

 シアンタの右手には聖竜剣、私の左手には剣がある。

 これらで竜魔人に攻撃を加えようと考えていた。


「あっ……」


 シアンタの身体が輝いていたのだ。これはダトウサウルス×付与術の恩恵がシアンタにもたらされたということだ。

 シアンタが仲間になった。でもなんで、このタイミングで。


 そういえば宙を舞いながら抱きついて、ほっぺもくっついていたんだった。

 それとも私が心の底からシアンタを応援したいと願ったから?

 そんなシアンタは自身の輝きに気がつかないのか、竜魔人を見下ろしたままだ。


「今なら特技、使える気がする!」


『おう! 今のオマエなら使える気がするぞ』


「いくよ! アンガトラマー! フィリナ!」


 そういうことなら、ダトウサウルス×付与術を継続! 残りの魔力ゼロ!

 迫る竜魔人。落下の勢いそのままに剣を振り下ろす。


「くらえ!」


「ボクたちの特技! 魔竜討滅斬!」


「グハァァァ!」


 シアンタの剣が漆黒の竜魔人を斬り裂いた。


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