88.VS漆黒の竜魔人(2)
漆黒の竜魔人バイオンは暴走状態だ。私たちの声が届かず、誰に対しても攻撃を仕掛けてくる。
この場から消えたスイルツは、バイオンが魔竜の血の力に飲み込まれたと言っていた。
そんなバイオンの傍らには瓦礫の山。中にはボナ子ちゃんが取り残されている。
ボナ子ちゃんの救出作戦が始まった。
「皆さん、ありがとうございます。でも、どうやって」
プエルタさんがお礼を言いながらも溜息をついた。
竜魔人バイオンに辿り着こうにも、あり余った筋肉を弾丸のように飛ばしてくるため、容易には近づけないのだ。
竜魔人となったマルネスとマスカードのことを思い出してみる。
二人は風の魔竜の血を得たことで、風を操っていた。
けれど無敵というワケでもない。強烈な一撃を加えれば勝てたのだ。
バイオンにも一撃を加えることができれば勝機はある。
そのためにも、バイオンに辿り着かないと。
「飛び出す筋肉ですが、どうも水平方向にしか飛ばないのかもしれませんね」
そういえば。ルティアさんの言うとおり、これまで発射された筋肉弾は上空に向けて発射されていなかった。
「それって、単純に俺たちが床の上を走って、挑みに行ったからじゃねえか?」
キコアの言うとおり、跳躍して上空から攻撃した者はいない。
エリーは、竜魔人バイオンが私たちを迎撃する際に発射した筋肉の塊を見ていた。
バイオンから放たれた筋肉の塊は、そこかしこに転がっている。
「えいぅぅっ!」
筋肉の塊を持ち上げるエリー。素手である。気持ち悪くないのかな。
「たしかに重いですわ。こんなもの、空高く打ち上げるなんて通常では無理かと思います。私だって投げられませんもの」
そうなんだ。
「でもさ、また球形になって跳ねられたら、どうするの?」
シアンタは不安げだ。
「注意を引きつければ良いんですよね。その役目、私たちが請け負います」
プエルタさんだ。周囲の冒険者も頷く。
竜魔人バイオンには、年配の男性魔法士が必死に語りかけている。
バイオンの注意を逸らし、私たちが作戦を考える時間を稼ぐためだ。
バイオンにいくら語りかけたところで、まともな返答はない。
男性魔法士はあえて、自信満々に挑戦者を待つバイオンに、武勇伝を聞きだしては、時間を稼いでいるのだ。
さて、上空からの攻撃が有効かもしれない。そんな話になった。
竜魔人バイオンの攻撃を受けた途端、私の脳内に神様のアナウンスが響いた。
どうも3種類の恐竜×魔法が解禁されたらしい。
最適な組み合わせが明らかになっていない恐竜と魔法は、それぞれ70種類ある。
その組み合わせは4900種類にのぼる。その中で正解は、わずか3種類。
ステータスオープンして、左側に現れる画面、魔法一覧を眺める。
上空からの攻撃に役に立ちそうな魔法が目にとまる。『飛翔』というものだ。
『飛翔』はリオハ村で試したことがある。恐竜との組み合わせを行わなかったので、ほんの一瞬、身体が宙に浮いただけだった。
この『飛翔』の魔法と相性の良さそうな恐竜を見つけなければ。
右側のステータス画面を見る。
これまで解禁された魔法と相性の良い恐竜は、一枚目と二枚目の画面にいた。
一枚目の画面の恐竜は選択済み。
二枚目の画面にはクリオロフォサウルスやアギリサウルスたち、既に相性の良い魔法が判明した恐竜のほかに、いまだ魔法との組み合わせが分からない恐竜たちがいる。
「う~ん」
『飛翔』と関係していそうな恐竜を画面から見つける。
アーケオプテリクスという恐竜だ。嘴があって、後ろ足の二足歩行。前足は鳥のようにな翼で、長い尾もある。
足を除いて、全身は鳥のように羽毛に覆われている。尾だって鳥みたいなのだ。
「これって鳥じゃん。どうして鳥が恐竜のステータス画面にいるの?」
鳥と違う点といえば嘴の奥に歯が生えていることだ。普通の鳥ではありえない。
良く考えたら、魚みたいな魚竜・オフタルモサウルスもステータス画面にいたことだし、鳥がいたって不思議じゃないのかも。
私は頭を抱える。今回解禁された恐竜×魔法。
『飛翔』が選ばれる可能性は低い。なんてったって『70分の3』の確率だ。
たとえ『飛翔』が正解だとしても、それと相性のいい恐竜がアーケオプテリクスとは限らない。
もし間違えていたら。間違った組み合わせで恐竜×魔法の力を使ったら、魔力を10も消費してしまう。残りの魔力は16しかない。
この局面で魔力をムダに10も消費するのは惜しい。
『惑うな』
「え? 誰!」
『自身の直感を信じるのだ』
誰なの? もしかして、ずっと私を呼んでいる聖竜なの?
『フィリナ! 俺様にも聞こえたぜ。奇跡を信じろ』
聖竜剣が応援してくれる。だったら。
「アーケオプテリクス×飛翔!」
『ガオオオン! 解禁された恐竜×魔法を選ばれました!』
神様のアナウンスだ。この組み合わせで正解なんだ。
空を飛びたい。そう念じれば、身体がフワッと上昇する。とりあえず、1メートルくらい浮いてみた。
「浮ける。自在に空を飛べる気がする」
竜魔人バイオンの手前だ。宙を飛びかったりできない。試してない。
それでも自由に空を飛べる気がしてきた。
「フィリナさん! 浮いています!」
「新しい魔法、使えるようになったんだな」
ルティアさんとキコアが歓声を上げる。私はすぐに着地した。
「うん。でもね、万能ではないみたい」
アギリサウルス×俊敏性強化(中)のときのように、全身に力がみなぎる気分ではなかった。
おそらく、自在に空を飛べる力を得ただけで、身体能力はさほど強化されてはいないんだ。
これでは上空から竜魔人バイオンに攻撃を加えたところで、たいした一撃は加えられない。
『アーケオプテリクス×飛翔』の力を使い、現状を打破する手段といえば、誰かを抱えて竜魔人バイオンの頭上に連れていくことくらいだ。
消費魔力は4だ。残りの魔力は12。ギリギリだ。
「でも、これって、作戦が決まったかも」
「どんな作戦ですの」
エリーが顔を傾けた途端、悲鳴が木霊した。
見れば、先ほどまで竜魔人バイオンと会話を続けていた男性魔法士が倒れていた。
竜魔人バイオンの筋肉弾に当たったみたいだ。
「オヌシらが下らぬ作戦を考えているのはお見通しだ。我は作戦を楽しみにし、会話に乗っておったが、なにせ長すぎる。飽きたのだ。オヌシらも冒険者なのならば、頭ではなく、その腕で我を倒してみよ!」
バイオンはこちらを睨んでくる。瓦礫の中のボナ子ちゃんも心配だ。
そろそろ実行に移さなくちゃ。
「とりあえず、俺たちが行く」
冒険者たちがバイオンに向かっていく。
私は残ったみんなに作戦を提案した。




