表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/127

87.VS漆黒の竜魔人(1)

 バイオンは漆黒の竜魔人に変貌した。

 そしてキメラの頭部を砕いたのだ。

 核となる中央の頭部を破壊されたキメラの巨体は、フラフラと前進すると、やがてその身を横たわらせた。


「これが我! バイオンの力だぁぁ!」


 勝った。勝ったけれど、竜魔人となったバイオンの姿に、みんな驚きを隠せないでいる。


「フィリナが言っていたことは、このことだったのか」


 強面さんが震えながら口を開く。


「ククク……くわぁっ!」


 もう動かなくなったキメラに、バイオンは攻撃を加えていく。武器は持っていない。

 肥大化した筋肉。強化された腕力に任せ、キメラの肉体を潰し、引き千切り、砕いていく。

 キメラの身体中の顔面や血、骨が、殴られては飛んでいく。


「ううっ!」


 プエルタさんが口元を押さえて目を逸らす。


「ひでぇな」


 キコアも困惑気味だ。


「バイオン。もういい。俺たちは勝ったんだ」


 強面さんがバイオンに語りかける。

 死んだキメラに攻撃を続けるバイオンは強面さんに視線を送った。


「ほぉ、新たな挑戦者か。おもしろい」


「なんだと?」


 竜魔人バイオンは、すごい勢いで強面さんに迫ると、大きな拳で殴りつけたのだ。


「があっ……うぇ!」


 強面さんがこちらまで吹き飛んでくる。


「剣がなければ……死んでいた……」


 強面さんはカタマンタイトの剣を盾の代わりにして、バイオンの拳の直撃を防いだようだった。それでもやがて、白眼を剥いてしまう。


「骨が折れています。ここではもう、回復はできません」


 プエルタさんが泣き叫ぶ。


「バイオン、どうしちまったんだ」


 キメラの近くにいた、ほかの冒険者が竜魔人バイオンに問いかけている。ところが。


「オヌシら、武器を持っているからには戦わない選択肢はあるまい。我はAランク冒険者バイオンぞ。我を倒せば、オヌシらの名は王国に響き渡る。さぁ、我と戦っていけ!」


 竜魔人バイオンはその身体を丸めさせた。座って膝を両腕で抱える形だ。

 それだけの姿勢なのに、筋肉を膨張させて漆黒の球形に姿を変える。


「ムゥぅゥン!」


 球形となった竜魔人バイオンは壁から天井へ、そして床面へ跳ねまわった。接触した壁面、床面、天井が抉られていく。


「これはもうバイオンじゃない」

「逃げろ、殺されるぞ」

「バイオンが化け物になっちまった」


 冒険者たちがこちらに逃げてくる。


「バイオン、魔竜の血の力に飲み込まれたか。ムッ」


 スイルツは素早い身のこなしで、広間を跳ねまわるバイオンと距離を取ると、急に耳元に手を添えた。

 こんなときに何をしているのだろう。耳を澄ませているのだろうか。


「声が聞こえる。フフっ。ここまでくれば私を呼び求める声が聞こえるということか。わかった。すぐに伺うとしよう。私はここだ!」


 誰かと話しているの?

 そんなスイルツの前に真っ白な転移陣が突然現れたのだ。


『なんだ? あの魔王竜クセェ転移陣は』


 聖竜剣は言った。

 スイルツは転移陣に飛び込むと、跳ねまわる竜魔人のバイオン、そして仲間の冒険者たちに視線を送った。


「バイオンよ、暴走したのなら手に負えん。そして冒険者たち、私をここまで連れてきてくれたのだ。名前くらいは覚えといてやる。ここまでくればオマエたちは用済みだ。さらばだ」


 転移陣は怪しい光を発し、スイルツを飲み込んでいった。


「待ってくれ。バイオンがあんな状態の今、アンタまで消えるなんて」

「その転移陣は何だ。さっきまでなかったぞ」

「どこに行くんだスイルツさん!」


 仲間の冒険者たちが引き留める中、スイルツは白い転移陣の中に消えていった。

 白い転移陣もなくなる。


「スイルツ、消えちまったぞ」


「うんキコア。スイルツの様子からして、やっぱり竜魔人だったのかも」


 私が言うと、ルティアさんとエリーは頷いた。

 それにしてもスイルツは誰とはなしていたんだろう。

 突然現れた転移陣。聖竜剣は転移陣を魔王竜くさいと言っていた。それってつまり。


 このダンジョンは魔王竜の魂の力で満たされている。魔物が強化されて、ダンジョンの通路も変わっていく。白い転移陣が魔王竜の魂の力で現れたのだとしたら。

 スイルツは魔王竜に呼び出された?


「皆さん、バイオンが来ます!」


 リナンの言葉に我に返る。

球体と化したバイオンが冒険者たちを押しつぶし、撥ねとばし、天井と床をバウンドしながらこちらに向かってきた。

 私たちはケガ人を抱えて散開する。


「きゃあっ!」


 球体のバイオンが天井に接触。衝撃で天井が抉れて、多くの瓦礫が、私たちがさっきまでいた場所に降り注ぐ。

 私たちやプエルタさんは逃げ切ることができた。

けれどボナ子ちゃんだけが逃げ遅れ、振ってきた瓦礫の中に消えてしまったのだ。


「おい、ボナ子が瓦礫の下に」


「うんキコア、助けに行こう!」


 負傷者をリナンたちに預け、私と冒険者たちは瓦礫に引き返す。

 アギリサウルス×俊敏性強化(中)!


「ヌハハハ。やっと我と戦う気になったか!」


 球体のバイオンは竜魔人に戻った。そして全身に力を込め、筋肉を躍動させる。


「ハイっ! ムゥぅゥン!」


 力こぶを作ると上腕二頭筋が、腹筋が隆起して筋肉が弾け飛んだ。


 ボンっ、ボンっ、ボンっ!


 筋肉を弾丸のように撃ちだしてきたんだ。

 こちらに向かって、ほぼ180度方向、数多の筋肉の塊を発射。死角なし。いくら筋肉質だからって、そんなのあり?


「うぎゃあっ!」


 冒険者たちが被弾する。


「きゃあっ!」


 私も直撃を喰らってしまった。痛い。

 恐竜と魔法の力を使っていなかったら、骨や内臓をやられていたかも。


『キンコンカンコン! 魔竜に準ずる者の攻撃を受けました。これより三種の恐竜×魔法を解禁します。さらに既存の恐竜×魔法の消費魔力を低減させます』


 ここに来て新たな解禁! 一体どの恐竜が。どんな魔法が。

 そんなことより、早くボナ子ちゃんを助けなくちゃいけないのに。


「ひぃぃ! こんなの勝てない」


 冒険者の一人が広間の入口へと駆けていく。


「逃がさん! 我と戦わずして、なにが冒険者か!」


 バイオンは再び球形になると、逃げる冒険者をいてしまった。

 そして再び瓦礫の前に戻って来ると、竜魔人の姿に戻るのだ。


「我は誰の挑戦も受けるぞ! ヌハハフハ!」


 瓦礫の前に立たれたのなら、ボナ子ちゃんの救出は難しい。


「バイオン、一体どうしちまったんだ」


 冒険者たちが呼びかけるものの、バイオンは一切反応を示さない。

 相変わらず仲間に対して挑戦だとか、戦いだとか言っている。

 スイルツはバイオンに、魔竜の血で暴走したかと言っていた。バイオンは自我を失っているんだ。そんなバイオンにいくら話しかけても。


「ボナ子ちゃーん!」


 プエルタさんが瓦礫に向かって呼びかける。返答はない。


「もしや、ボナ子は、もう」


 意識を取り戻した強面さんは、重傷を負っている身体を引き起こして、瓦礫を見つめている。


「諦めることはありません。瓦礫の中で、微かですが泣き声が聞こえます」


 妖精憑依したルティアさんは、頭の猫耳を動かして瓦礫に耳を傾けていた。


「じゃあボナ子は生きてんだな」


「けれど、あんな状態のバイオンさんが瓦礫の前にいたのでは、救出なんて」


 キコアは歓声を上げたのだけれど、プエルタさんは絶望的だ。


「こんなの無理よ。引き返しましょう」

「無茶だ。重傷者を連れながら、ダンジョンの狭い通路に逃げ込んだって、球になったバイオンに追いつかれて轢かれちまう」

「ここはボナ子を助け出して、転移魔法で一気に地上に戻ろうぜ」

「だから、どうやってボナ子を助けるのよ!」


 女性魔法士と男性らが口論を始めてしまう。

 強面さんたちは重傷だ。彼らを連れてダンジョンを引き返すのは困難だ。

 特技が転移魔法であるボナ子の救出を。

 そのためには暴走状態にある竜魔人バイオンに勝たなければいけない。


「こうなったら、俺が!」


 冒険者の一人が竜魔人バイオンに向かって行った。


「バイオン、元に戻れよ!」


「我は相手が何者であろうが、もう負けん!」


 竜魔人バイオンの全身の筋肉が隆起。

 バイオンの周囲に対して複数の筋肉の弾丸に放たれる。


 冒険者に直撃寸前、ルティアさんは冒険者を担ぐと筋肉の弾丸を回避し、戻ってきた。


「悪い。助かった」


「これ以上、負傷者は出せません。冷静に考えましょう」


 助けられた冒険者はルティアさんに頭を下げる。


「ねぇ。もう無理だよ。ボクたちだけでも」


 そう言うシアンタは広間の入口を見つめている。

 私たちだけでも逃げることはできるかもしれない。

でもプエルタさんのパーティには重傷者がいる。ボナ子ちゃんだって見捨てることになる。


「戻ることができないのなら、先行くか? ん?」


 キコアは広間の出口を見ている。

 キメラは倒された。この先に向かうことだってできるのだ。


『スイルツってヤツの動向も気になるしな』


 聖竜剣の言うとおり、スイルツは魔王竜と何らかのつながりがありそうだ。

 私が聖竜の魂に導かれているのと同様に、スイルツが竜魔人だとしたら……。

 竜魔人なんだろうけれど、魔王竜に導かれて転移陣に消えたとなれば、向かったのはダンジョンの深奥かもしれない。

 放っておくことはできない。


「だからと言って、瓦礫の中で泣きながら助けを待つ少女を見捨ててはおけません」


 ルティアさんが瓦礫を見据える。


「困っている庶民を置き去りにしてしまえば、オスニエル家の名が地に落ちますわ」


 特技を使い、全力を使い果たしたエリーがフラフラしながらも竜魔人バイオンを睨んだ。


「そう言うと思ったぜ。俺だって後輩冒険者を泣かせたままにはしたくない」


 キコアも槍を強く握っている。


「何を、何を言っているのさ」


 シアンタだ。


「相手はAランク冒険者なんだよ。しかも化け物に変貌して強くなった。みんな見てたよね、キメラを一撃で倒したんだよ。Eランクのマスカードでさえ、化け物になった途端、Bランクの冒険者を圧倒した。バイオンはAランクなんだ。戦ったところで……」


「それでも。私は助けられてきたんだ。相手が格上でも、そこにいる、みんなに」


 ルティアさんはファイヤーゴブリンに襲われる私を、危険を顧みずに助けに来てくれた。


「シアンタさん。たしかにマスカードは強敵でした。でも、マスカードを倒したのは私たちです」


「そ、それはそうだけど」


 ルティアさんに指摘され、シアンタは困り気味だ。


「けどさ、バイオンはAランクで」


「シアンタ。そういう難しいこと、俺わかんねぇ。そういうのは騎士や戦術家に任せとけばいいんじゃね? 冒険者は冒険者らしく、冒険しようぜ。俺はボナ子を助けるぞ」


 反論しようとしていたシアンタは、前向きなキコアを睨んだ。


「その冒険者のランクについて言っているの! こっちは平均Fランクなんだよ。勝てっこないよ」


「たしかに、その通りですわね。でもこちらには、最強のGランクがいましてよ」


 エリーが私を見つめる。

シアンタの反対する目が、それでいて不安げな目が私に向かってくる。

 考えを巡らせる。残りの魔力は16。新たに解禁された恐竜×魔法は3種類。

 私はシアンタに言った。


「ボナ子ちゃんの救出作戦。鍵はシアンタにあると思うよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ