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85.VSキメラ(1)

 もう一体のキメラが現れた。

 壁が崩され、もうもうと立ち上る粉塵の中、一回り大きなキメラが壁を突き抜けて現れたのだ。

 ルティアさんたちは、もう一体出てくるなんて聞いてないっ! そんな表情だ。


「もう一体いるなんて聞いてないよ。こんなの、どうやって倒せばいいのさ」


 シアンタは不安を声に出していた。

 私たちは、キメラを二体も相手しなきゃいけないの?


「こっちにも部屋が……あっ!」


 キメラを追って、こちらの部屋にやってきたのはプエルタさんだった。

 強面さんやボナ子ちゃん、スイルツもやってくる。

 すると壁の向こうでも彼女らのパーティがキメラと戦っていたんだ。


「キメラ! 相手に不足なし。今回は圧勝して見せる。我は新たな力を得たのだからな!」


 そう言って現れたのはバイオンだった。二体のキメラを前にして意気揚揚だ。

 それにしても、なんて言った? 新たな力を得た? それって、どういう意味だろう。


「フィリナさん」


「プエルタさんたちもキメラと戦っていたんだね」


「魔法がろくに効かなくて、大変だったんですよ!」


 二体目のキメラ。その身体には、パッと見ただけでも60を越える顔がある。

 そんなキメラは……一体目のキメラと争い始めた。

 てっきり連携を取りながら私たちを襲ってくるものかと思っていたのに。


「こうなると、どちらが、どちらを相手にすればいいか、分からない」


 二体のキメラは取っ組み合いの戦いを始めている。縄張り意識の高い魔物なんだろうか。

 けれど良かった。キメラの意識がキメラに向いている。それに戦力が増えたんだ。


「この状況、どちらが横取りかなんて、分かりませんわね」


 エリーの言うとおり巨大な魔物同士の戦いは、こちらが狙いを定めて攻撃をする機会がないほど、入れ替わり立ち替わり、攻防を繰り返している。


「むしろ二体同時に仕留める良い機会ではないか!」


「おいバイオン! 倒すのは良いけど、こっちのキメラの素材はちゃんと残せよ!」


 バイオンの言葉にキコアがしっかりと抗議した。


「無論だ。我の目的はダンジョン攻略。素材は二の次。それ魔法士どもよ。キメラがこちらに意識を向けていぬ隙に魔法を放つのだ」


「え、でも」


 プエルタさんが困惑する。彼女以外にも魔法士は何人かいる。

 キメラたちが戦っている隙に、プエルタさんたち魔法士がキメラに魔法攻撃を加え、弱った所を剣や槍で仕留める作戦なんだろう。

 でも魔法士たちは渋い顔だ。プエルタさんが言っていた。魔法がろくに効かなかったって。

 私も支援しよう。ここで閃いた。


「プエルタさん。風の魔法って使える?」


 プエルタさんはランベさんのパーティにいた。

そこは攻撃特化型のパーティだ。いろんな攻撃魔法が使えるはずだ。


「ええ、もちろん使えます。既に試しましたけど、効果があまりなくて」


「だったらもう一度放ってくれるかな。私も一緒に魔法攻撃をするから」


「よく分かりませんが、分かりました。ゼフィロス!」


 プエルタさんの右手から横方向の竜巻が放たれる。

 その竜巻は、取っ組み合いを続けるキメラたちに直撃した。

 けれど致命傷を負わせるには至らない。


「ほら、キメラ相手には私の魔法は」


「そのまま続けて!」


 今だ。ブルカノドン×火炎!

 恐竜×魔法の力を右手に意識して、プエルタさんの右手に添えた。

 竜巻の魔法は炎の竜巻となって、キメラ二体を包みこんだ。


「なるほど。風と火の合わせがけか」


 ほかの魔法士たちも竜巻の魔法をキメラに放つ。


「ギャオオ!?」


 二体のキメラはケンカの最中に横やりを入れられた形だ。

 火の手が回り、二体のキメラを包みこんだ。


「まだまだっ! ブルカノドン×火炎。消費魔力10倍!」


「ひええっ!」


 プエルタさんが悲鳴を上げる。

 彼女の手から放たれる竜巻は、今や私の魔法を飲み込んで、巨大な火炎放射器の状態だ。



「ギャオオン……」


 火の手は拡大し、キメラの巨体が赤い揺らめきの中に落ちていく。


「なるほど。魔法士よ、風と炎を放ち続けろ。勝機が見えたぞ」


 スイルツの指示の下、魔法士たちは魔法を放ち続け、火災旋風がキメラを飲み込んでいった。



☆☆☆



 数分後。


「はぁ、はぁ」


 プエルタさんたち魔法士の息は切れ切れだ。私の魔力は残り30。

 キメラたちが炎に包まれたあとは、ほとんどプエルタさんたちが頑張った。

 辺りには生臭さと焦げ臭さが充満している。キメラたちが焼け焦げたからだ。


「ごめんキコア。素材、取れないかもしれない」


「そんなこと、気にすんなよ」


「はい。あんな強大な魔物を倒したんです。皆さんは素材以上の収穫を得ました」


 リナンが冒険者を見回して誉めてくれた。

 キメラを包む炎は依然として燃えている。

 強面さんたちは炎を見ながら自分で自分の手当てをしていた。


「ミック?」


 すでに妖精憑依を解いているルティアさんが、足下の妖精猫のミックに声をかける。


「フゥ~」


 ミックは炎に向かって威嚇している。どうしたんだろう。


「皆さん気をつけて! 戦いはまだ終わっていません!」


 ルティアさんの注意が飛んだときだった。


「ゴギャオオン!」


 炎を掻き分けて現れたのは一体のキメラだった。一体が生きていた?

 一回り大きいほう? でも少し身体が大きい。全身には100ほどの魔物の顔面がひしめいている。これは……。


「どうやら炎の中で対戦相手を喰らったようだな」


 スイルツがキメラを前にして語る。

 彼の言うことが本当だとしたら、炎の中でキメラが、もう一体のキメラを喰らったことになる。

 炎の中では小ぶりのほうのキメラが倒れていた。あれは私たちが最初に遭遇したほうだ。

 すると、壁を突き抜けて現れたキメラが、最初のキメラを喰らったということだろうか。


「どんだけ早食いだっての!」


「きっと、相手の魔石を食したんですわ。それで相手の能力を手に入れたのだとすれば」


 キコアの問いにエリーが答える。

 100体の魔物の力を備えたキメラが、こちらへ悠然と向かってくる。


「魔法士どもよ。今一度、魔法攻撃だ」


「無理です。バイオンさん」


 プエルタさんたちは疲労困憊だ。先ほどの竜巻魔法と炎の魔法で魔力切れとなっている。

 魔法士たちは力を使い果たすまで魔法を放ったんだ。


「ならば直接攻撃と行こうではないか!」


「あんな相手に、マジかよ」


 バイオンの発案にキコアが抗議を入れた。

 100体キメラは五つの顔を持つ。中央に備わる悪魔のようなヤギの顔。その左右にはサイクロプス、タイラントタウラス。それらの端にはオーガキング、ウルヴァリンだ。


「もう、どちらの獲物などは関係ありませんね」


「そうだな。共闘と行こうか」


 再び妖精憑依したルティアさんにスイルツが答えた。

 バイオンや強面さんたち剣と槍の冒険者と、ルティアさんたちが100体キメラに向かていく。


「100体の能力を備えた魔物って……」


『なに立ち止まってるんだシアンタ。立ちすくんだ奴から殺されちまうぞ』


 シアンタは聖竜剣に促され、ようやく動いた。私も動く。


「グギャオオオン!」


 私も剣を取り、向かっていく。

 それでもキメラは強大だ。多くの冒険者の剣を受けても致命傷は負わせない。

 魔竜のときはガソサウルス×可燃性ガスで倒したっけ。この魔物に同様の攻撃が通じるものだろうか。


「こんなヤツ、どうやって倒せばいいんだ」


「経験者に聞いて下さいまし」


 キコアとエリーがバイオンに顔を向ける。


「そうだな。核となる頭脳を壊せばいいことよ」


 バイオンは頭上を見据えた。

 そこには五つの頭。その中央にはヤギのような悪魔の顔。


「皆の者、攻撃を続けよ。隙を作るのだ。我が敵陣の大将を狩り取ってくれる。その剣を貸せぃ!」


「はい?」


 バイオンは強面さんからカタマンタイトの剣を奪い取る。

 キメラの両脇の顔たちは、攻撃を続けるルティアさんやスイルツに電撃や火の玉を発射していた。

 剣や槍の冒険者は直撃こそしないものの、爆風に吹き飛ばされていく。


 そんな中、バイオンは跳躍して中央の首にカタマンタイトの剣を振り下ろしたのだ。


「ブウゥぅゥン!」


「グギャオァァァ!」


 中央のヤギの首は粉砕された。


「あれがAランク冒険者の力」


「スゴイ……」


 キコアとシアンタは呆然としている。

 渾身の一撃をキメラに浴びせ、キメラの足下に着地したバイオンは息を整えている。


 そうか。いくら顔があったって、本来の頭部を壊してしまえばキメラは死に絶えるんだ。

 感心しながらバイオンとキメラを見ていた。


 メキメキメキ……。


 ん? 粉砕された箇所がおかしい。

 少しずつ、失った顔を取り戻していく。これは、再生?


「まだ終わっていない!」


 私の声に顔を上げたバイオンに向け、再生を行っている頭の両脇の顔面であるサイクロプスとタイラントタウラスが、電撃と火球を吐きだした。


「があああっ!」


 直撃したバイオンは、絶叫と共に吹き飛んでいった。


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