表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/127

83.漆黒の竜魔人と聖竜の魂

 落とし穴に落ちたシアンタを追いかけて、やってきた部屋ではバイオンたちのパーティが巨大な魔物タイラントタウラスと戦っていた。

 私も魔物との戦いに加勢する。

 バイオンはタイラントタウラスに踏まれてしまい床にめり込んでいった。


 そんな中、魔物の足を持ち上げて再登場したのはバイオン……ではなくて、見たことのない漆黒の竜魔人だったのだ。


「でぇぇい!」


 漆黒の竜魔人は怪力で魔物の足を押し上げてひっくり返した。


「鈍色の竜魔人じゃない」


 新たなる竜魔人が現れたのだ。でも声はバイオンだ。


「どうした者どもよ。討伐まであとわずか。トドメに加わらんか!」


 振り向いた竜魔人の顔は……バイオンだった。姿もバイオンに戻っている。

 何だったんだ、今の。目の錯覚?


「と、とりあえず、倒すしかないだろ」


 強面さんや剣の冒険者たちが、ひっくり返った魔物に向かっていく。

 バイオンとスイルツも魔物の体に上り、攻撃を仕掛けていく。

 ほどなくして魔物・タイラントタウラスは絶命した。



☆☆☆



 今はタイラントタウラスの解体作業中だ。

 迫る壁の動きも止まり、今は安全だ。


 私とシアンタは、バイオンたちと魔物との交戦中に、勝手に乱入したのだから素材を受け取る権利はない。


「先ほどはありがとうございました」


 ボナ子ちゃんが礼を言ってくる。


「大けがした人がいなくて良かったよ」


「このご恩は一生忘れません」


「大袈裟だよ。ところで、いつもこんな戦い方なの?」


 このパーティには、バイオンとスイルツ以外にも、剣や槍を持った冒険者、格闘系の冒険者が所属している。

 先ほどバイオンは彼らを魔物の足止めに使おうとしていた。今回の魔物のように、強大な相手でもだ。

 さらに魔物はバイオンとスイルツに火の玉を吐いた。バイオンたちは避けられる。でも、背後には魔法士やケガ人がいたのだ。

 周囲のことを考えて戦っているようには思えない。

 結果、この戦いでは重傷者は出なくても、ケガ人が出てしまった。魔物の解体中の今でも、数人の冒険者が魔法士冒険者の回復魔法を受けている。


「ええ。まぁ」


 ボナ子ちゃんの表情は暗い。


「仕方ねぇよ。雇ってもらえたぶんだけ有り難い」


 そう言うのは強面さんだ。ボナパルテが持っていたカタマンタイトの剣は、今は彼が所持している。


「この剣の賃料分だけでも稼がないといけないからよ」


 魔物を倒すと、魔物の背後の壁に隠し扉が現れた。さらに隠し階段も現れたのだ。その階段は上階へと向かっている。

 この階段を上れば、ルティアさんたちが待つフロアまで辿り着けそうだ。


「フフン。あの火炎魔法を放ったのはオヌシだったか」


 バイオンだ。無茶な戦いで自分の仲間を傷つけて。それでも勝利に酔っているのか、随分とご満悦だ。


「強い魔法使いと見た。我の足下にも及ばぬが、この先は存分に活躍できるだろうな」


「断りもなく戦いに参加してしまい、すいませんでした」


「まったく構わん。どうだ、我のパーティに加わってみぬか。オヌシの魔法の火力なら、我の仲間として申し分ない」


「申し訳ありませんが、私には仲間がいますので」


 断りながら、バイオンを観察する。

 あれが目の錯覚でないのならば、漆黒の竜魔人はバイオンだ。この人まで竜魔人。

 魔物との戦いでピンチになって、もうひとつの姿を現したんだろうか。どうして竜魔人に。

 魔物の解体を指示しているスイルツを見る。彼は目が合うと視線を逸らした。


「そうか。残念だな。そうなると、どちらが深層に辿り着くか競争となるワケか。当然、我が勝つがな。ヌハハハ」


 バイオンは背中を向けると、解体作業に向かっていった。

 強面さんも会釈をすると、バイオンのあとを追おうとする。


「あ、待って下さい」


 私は強面さんを引き留めた。


「なんだ?」


「バイオンは、竜魔人かもしれません」


 バイオン本人に聞こえないよう、強面さんの耳元ではなす。

 強面さんは信じられないという様子でこちらを見た。


「それは本当か?」


「魔物に踏まれたバイオンが、魔物を押し返したとき、一瞬だけ竜魔人に変貌していました。見ませんでしたか?」


「そのとき俺は魔法士から回復魔法を受けていて、バイオンの戦いは見ていなかったが。まさか」


 強面さんはバイオンをジッと見る。


「復帰は絶望的とされた身体で復活を遂げ、今では人間離れした怪力の持ち主。だからって……」


「信じなくてもかまいません。でも、バイオンには気をつけて下さい」


「そうだな。わかった」


 ここでバイオンを問いただしても、正体は明かさないだろう。

 だったら監視のため、バイオンのパーティのあとをつける? それも不自然だ。

 ベテランの強面さんには伝えた。まずはルティアさんたちのもとへ急ごう。

 私はシアンタと一緒に、隠し階段に向かう。


「あのっ!」


 振り向けばプエルタさんだ。まだボナ子もいる。


「一緒について来てくれないんですか」


「行き先は一緒だもん。また会えるよ。身体に気をつけてね」


 明らかに疲弊している二人を残して、階段を上る。


「はぁ……」


「あ、シアンタも疲れたよね。ポーションを」


「そんなに痛くないよ。大丈夫」


『何が大丈夫だ? なんだ、さっきの戦い方は。敵に突っ込めば特技が使えるようになるとでも思ったか』


「そんなことはないけど」


 シアンタの表情は暗い。きっと焦っているんだろうな。

 階段を上りきると通路が左右に伸びている。


「ここまでくれば分かるかも。ダトウサウルス×付与術」


 この恐竜×魔法は、仲間を強化させることができる。同時に、仲間の場所を特定することもできる。

 これまでは仲間たちが周囲にいるときにしか使ったことがなかった。

 それでも、目をつぶっていようと、視界の外に出ようと、仲間の存在が手に取るように分かった。


 仲間たちはこのフロアにいると仮定する。

 ダトウサウルス×付与術を使えば、通路の先だろうと壁の向こうだろうと、居場所が分かると思う。

 分かってくれなくちゃ合流できない。

 再会できることを前提にシアンタの救出に向かったんだ。


「……あっ。わかった。こっちだ。シアンタ、走っていい? 罠にも気をつけて」


 効果は1分。もう魔力切れだ。一度寝ないと再び恐竜×魔法は使うことはできない。

 ルティアさんたちの位置が分かるうちに近づいておこう。


『フィリナは本当に有能だな』


「ちぇっ。どうせボクは」


 ここで私の名前を出さないで。



☆☆☆



 その後、ルティアさんたちと無事に合流。事の顛末を説明して、情報を共有した。

 バイオンは新たな竜魔人かもしれない。

 それから……。


 古い通路を見つけて、ダンジョンの深層を目指す。

 魔物だって出てくる。そんなときシアンタは率先して戦った。

 戦いの中で、特技が使えるようになるきっかけを探しているようだった。


「どうして、ボクは特技が使えないんだ……」


「気にするなって。世の中には天職だけの人間だっているんだぜ。そもそも、ほとんどの人間が天職も特技も持ってねぇんだ。俺だって」


 キコアが励ますけれど、シアンタには届いてないようだった。

 そうして第3層『4分の3地点』の10日目。この地点を突破したのだ。



☆☆☆


 

「やっぱり呼ばれている気がする」


 『4分の4地点』潜入1日目。


 魔物を倒したあと、みんなして通路に座りこんでいるときだ。


「壁の向こうに広間がある気がする」


 エリーに頼んで通路の壁を壊してもらった。その先には本当に大きな部屋があった。

 ランタンや光る苔もたくさんあり、部屋を十分に照らしている。


「この部屋なら休むのに適していますね。魔物がやって来てもすぐに対応できます。それにしてもフィリナさん、よくこの部屋が分かりましたね」


 ルティアさんは不思議そうな顔をする。


「地図にも、この部屋のことは書いてありません。先達でも発見できなかった部屋のようです」


 リナンがそう言うと、ほかのみんなもこちらを見る。


「えっとね。呼ばれているような気がしたんだ。古い通路を見つけたときも、そんな気がしたの」


 呼ばれている。そんな感覚は『4分の4地点』に潜入してから一層強くなった。


「一体誰に呼ばれているんだよ」


「わからない。壁の向こうにも、この部屋にも誰もいないし」


 キコアに答えると、エリーの顔が青ざめていく。


「誰もいないのに呼ばれたって。怖いことを言わないでくださいまし」


 エリーは怖い話が嫌いなようだ。魔物がいるこの世界にも怪談やオカルトはあるのかな。


「あとね。夢にも出てきたの」


 『4分の3地点』の後半から見るようになった不思議な夢。眠っていると夢を見る。

 夢の中で私はダンジョンを歩いている。壁が壊れると古い通路が現れる。

 そんな夢。


 目が覚めてから、みんなでダンジョンを進むと、夢と似たような通路に出くわす。

 そして夢に出てきたとおりの壁があり、エリーに壊してもらうと、夢と同じ通路が現れたのだ。


 昨晩も夢を見た。夢の中で壁を壊すと、その先に部屋があった。

 休むのに丁度いい部屋だ。

 実際、壁を壊すと広間があった。


「以前シアンタさんが落とし穴に落ちたとき、フィリナさんは救出に向かいました。私たちには落とし穴の先にある広間に向かうよう指示していました。フィリナさんが広間の存在を知っていたのは」


「うんルティアさん。あの先に広間があるって、聞こえたような気がしたの」


「そんなこと、ありえるのかよ」


 キコアが珍獣に送るような視線を送ってくる。


『そうか……あり得ない話じゃないな』


「どういうこと?」


 聖竜剣の言葉にシアンタが首を傾げながら、背中の鞘から引き抜いて見せる。


『ダンジョンはもともと、どういう所だったか思い出してみろ』


「魔王竜の魂が封じられている場所でしょ。だからこれから倒しに行くんじゃん」


『封じる前だ』


「人類と聖竜、魔王竜が戦った場所でしょ。魔王竜は倒されてもなお、その魂は死ななかった。だから勇者の一人が特技で封印して、聖竜たちの魂も力を貸してくれた。それでも魔王竜の魂は封印した地をダンジョンにするほどの力を」


『だから、もっと前だ』


「もしや、聖竜たちの墓場のことですか。まさかフィリナさんは聖竜の魂に導かれていると」


 ルティアさんがハッとした表情で聖竜剣を見る。


『そうだ。聖竜の墓場には聖竜の魂が眠っている。魂が魔王竜の力が抑え込む。だから戦いの地に選ばれた。魔王竜が打倒され、魂だけになっても聖竜の魂が封じこんでいてくれた』


「けれど、80年のあいだに聖竜の魂が弱っちゃったから、魔王竜の魂の影響が出てきたんだよね。だからダンジョンができて、変貌して、魔物が強化されるようになったんでしょ」


 シアンタの言うとおりだ。

 以前、聖竜剣も言っていた。ダンジョンの中は魔王竜の魂の力で満たされている。嫌なにおいがプンプンするって。

 聖竜の魂の気配なんてないって。


『第3層の『4分の3地点』に入ってからだ。通路は上層よりも魔王竜の魂の力で溢れていやがる。ところがフィリナが見つけた隠し通路だ。古い通路だっけか。そこなら幾分、魔王竜の魂の力も薄れていた。そこで感じたんだ。かすかだけどな』


「感じたというのは、長年に渡って魔王竜の魂を封じていた、聖竜たちの魂ですの?」


 シアンタに握られた聖竜剣が、エリーに向かってブンっと下に揺れた。どうやら頷いたらしい。


『俺様でさえ、感じられたのは、わずかな気配。それをフィリナは『呼ばれた』という感覚で捉えた。さらに夢でも映像として捉えている』


 そうなるのかな。


「するとフィリナさんは聖竜から、より安全な通路を紹介され、深層に招待されていると」


『ルティア、そういうこった。俺様でさえ十分に感じ取れない気配をフィリナなら分かった。そういうことなら……』


「え? ボクは何も感じないよ。聖竜剣士なのに」


 シアンタの疑問に聖竜剣は答えない。

 沈黙。聖竜剣がジッと私を見つめている、気がする。


『よし。やはり俺様のことはフィリナが握れ。そのほうがいい』


「聖竜剣はボクの物でしょ!」


 シアンタが抗議する。だけど。


『うるさい。特技も使えない聖竜剣士より聖竜の声を聞きとれるフィリナのほうがマシだ』


 そこで私の名前を出さないで。

 ほら、シアンタがすごく睨んでくる。


『さぁ、俺を握れ! フィリナ!』


「フィリナ! そんなことしたら、もう剣術の先生、しないからね!」


 聖竜剣もシアンタも、何だか怖い。

 思わず胸の前で両手をクロスし、防御の姿勢を取ってしまった。


「フィリナさんの手は、私が握ります!」


 ルティアさんは、そんな私の右手を取ると強く握りしめてくれた。


「じゃあ、私も」


 エリーが私の左手を握る。


「絶対に渡さない。聖竜剣はボクのものだ!」


『じゃあ無謀に敵に突っ込むことはせずに、特技を会得してみろってんだ』


 シアンタは聖竜剣を睨みながら、柄を両手で握りしめている。


「なんだ、これ」


「はい。不思議な光景ですね」


 キコアとリナンが、ついていけないという感じで私たちを見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ