80.新たに潜入、昔の通路
二度目のダンジョン潜入だ。
4日目の夕方には第1層を突破。
第2層『4分の2地点』へは11日目の夕方には到達できた。
「お姉さまがた、スゴイです。前回よりも10日も早く、この場所まで来たことになりますよ」
リナンは目を輝かせている。
ここは第2層『4分の2地点』と『4分の3地点』のあいだ。多くの冒険者がテントを張っている場所だ。
「二回目だし。潜入速度を重視したからね」
「魔物との戦闘も必要最小限にしましたし」
ルティアさんは私に頷いた。
魔物と戦いに来たんじゃない。それでも食糧になりそうな魔物は倒しておいた。
たとえばキコアの大好物、フライングフロッグとか。
「それにしてもグランドスネークのほかにインビジブルイールやウォーキングローズまで出てくるなんてな。当たりだったな」
キコアはニヤニヤしている。
第1層では巨大な金色の蛇、グランドスネークが再び現れた。
前回も同じ通路を通ったというのに、また現れた。どこかに潜んでいたのだろうか。
第2層『4分の1地点』から『4分の2地点』は、新たな魔物と遭遇した。
インビジブルイール。透き通るような体をした陸生ウナギだ。
体内の発電器官と魔石は照明器具の魔道具に使えるとかで、高値で買い取ってもらえる。
また、その肉は焼いて食べるととても美味しい。焼くと肉の透明度は、ますます透き通る。
焼いてから時間が経つと、ほぼ透明だ。ちゃんと完食出来たか分からなかったけど。ゴハンと一緒に食べたかったな。
ウォーキングローズ。歩く薔薇の魔物だ。トゲのある鞭を振り回してくる厄介な相手だった。
けれど、その身体から咲き誇るキレイな花は高値で取引されるらしい。体液も薬になるという。
キコアは買い取り業者が驚くぞと言って喜んでいた。
「でもモヒカンモンキーはハズレでしたわね」
エリーが言うのはモヒカンをした猿の魔物だ。「ヒャッハーっ!」と叫びながら集団で襲ってきた。オラオラ感が強くて、私は嫌い。
モヒカンも魔石も業者は買い取ってくれないとのことだった。
キコアはつまんなそうに槍で串刺しにしていた。
「マスカードを殺した鈍色の竜魔人は出てきませんでしたね」
ルティアさんが手を顎に当てて考えこむ。
この場所は、前回潜入したときに紫の竜魔人・マスカードがレクソビさんを殺害した場所だ。
鈍色の竜魔人。第3層に潜んでいるのだろうか。それとも、私たちの近くにいて、今は事件を起こさないだけなのだろうか。
目的が分からないぶん、油断はできない。
☆☆☆
それから6日後。第2層『4分の4地点』突破。
第2層と第3層のあいだに辿り着く。
今回は進入経路を変えたので、オーガキングの村を通過することなく、ここまでやって来ることができた。
食糧や回復薬はまだまだある。順調だ。
「スイルツや騎士団の人はいないみたいだね」
ここまでやって来る冒険者は少ない。深層を目指さず、生活のために魔物を狩っているのであれば、危険を冒すことなく途中で引き返すからだ。
この場所で駐在しているギルド職員が近づいてくる。
「少女たちのパーティ。するとキミたちがシアンタのパーティか。既に通過した副支部長たちから聞いているよ。よく来た」
「じゃあスイルツたちは、とっくにここを通過したってこと?」
早い。騎士団はまだやって来ていないそうだ。
「Aランク冒険者のバイオンを仲間にしたんです。当然かもしれません」
ルティアさんは第3層の入口を見つめていた。
その日は第2層と第3層で休んで、翌朝から第3層に潜入することになった。
「ここから先は多くの罠が張り巡らされています。お姉さんがた、お気をつけて」
リナンが気持ちを引き締めてくれる。
私たちは第3層に潜入した。
☆☆☆
第3層の入口は9つある。今回も4番の入口から潜入した。
オフタルモサウルス×視力強化。ルティアさんの妖精憑依。
これらで罠のスイッチを見抜き、触れないようにダンジョンを進む。
この通路の罠のほとんどは、エリーが興味本位でスイッチに投石して発動させていた。
落とし穴の罠は、冒険者をスイッチの周囲の床面ごと奈落の底に落としてしまう……そんな罠だ。
あれから一ヶ月以上。罠の周囲の床面は元通りになっていた。
罠を修理する人間なんていないはず。
これも魔王竜の魂の影響なんだろうか。怖い。
第3層の二日目。
今日もオフタルモサウルス×視力強化の力で罠のスイッチを見抜きながら、先へと進む。
「う~ん?」
「どうしましたかフィリナさん?」
思わず漏れた声に、ルティアさんが反応する。
「なんだか違和感があるんだ」
「違和感?」
ルティアさんが首を傾げた。
違和感。それは一回目と二回目の潜入の経験による差なのだろうか。
それとも一回目とは異なることでもあるのだろうか。
「違和感とは自分でも質問のわからない疑問への答えだと言います。私を指導してくれた冒険者の言葉です。違和感を無視せずに、じっくりと目を凝らして良いんですよ」
ルティアさんの言葉どおり、じっくりと通路を睨んでいるときだった。
「あっ!」
「何に気付いたんだよ」
声を上げて立ち止まると、キコアが何事かと聞いてくる。
「あの壁、色や埃の付き具合が、微妙に違うんだ」
目の前には曲がり角がある。しばらく通路を直進すれば左側へ、ほぼ直角に曲がる。そんな曲がり角。
今立っている場所から直進を続ければ、壁に激突してしまう。その壁、良く見れば周囲の壁と雰囲気が違う。
壁に近寄る。
「あ、正確には、この壁から左への通路、別物なんだ」
これまで通ってきた通路に比べると新しいんだ。
直進してきた通路は古い。左へ直角に曲がった先から新しい通路だ。
「深層に近づくほど通路は日々、変化していくと言います。これまでの通路が塞がれて、新たに左に曲がる通路が出来あがったということでしょうか」
ルティアさんがそう言うと、リナンは大きなカバンを下ろして、何やら探しはじめた。
「つまり古い通路と新しい通路? ボクには見分けつかないけれど」
「汚れ具合、どっちも一緒だよな?」
シアンタとキコアが不思議そうな顔をする。でもね、私には違うように見えるんだ。
「あ、ありました。たしかに以前、この通路はまだまだ直進しています。もう10年以上前の記録なんですが」
リナンはカバンから古い地図を取り出すと、地図と壁を見比べていた。
「新しくできた通路のせいで、従来の通路が塞がれてしまった。そういうこと?」
私はみんなの顔を見回した。
「いえ。ダンジョンは深層に近づくほど、通路は日々変化していくと言います。直進が曲がり角になったり。分岐点が突然現れたり……え? 従来の通路が新しい通路に塞がれた?」
リナンが頭を抱える。
「通路は生き物のように変化していくのだと考えられてきました。フィリナさんは、古い通路が新しい通路に上書きされたと考えているんですか?」
ん? そこまで考えてはいないけれど。
「だったら、壁を壊して従来の通路があるかどうか、見てみてはいかが?」
エリーが竜鱗材のナックルを装備し、腕をグルグルと回す。
「エリーさん、ダンジョンの壁は厚いと思いますよ」
ルティアさんが注意を促す。だったら。
「ブルカノドン×火炎!」
私は直進の先にある壁に火の玉を当てた。壁は黒焦げになるものの、健在だ。
「続いてクリオロフォサウルス×冷凍!」
今度は壁を冷やしていく。壁はみるみる霜を纏っていった。まだ壁は壊れないけれど。
「エリー、壁を殴ってみて!」
「わかりましたわ!」
エリーの鉄拳が裂烈。壁はガラガラと崩れ落ちた。
温度差で壁を脆くすれば、エリーの拳で砕けると思ったんだ。
崩れた壁の向こう側には、まっすぐ伸びる通路があった。
魔道具によるランタンが壁にかかっており、光る苔も自生していてとても明るい。罠もないようだ。
リナンは唖然としながら口を開いた。
「昔の通路が生きていた?」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
この物語は佳境に入りました。
そこで、明日より土日祝日は1日二話投稿致します。
投稿時刻は07時00分と12時00分です。
今後ともフィリナたちの冒険をお楽しみ下さい。




