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79.再挑戦

 休日も五日が過ぎた。

 再びダンジョンを攻略するため、朝からダンジョンの入口広場にやってきている。


「あれって記録を塗り替えたっていう」

「そうだ。もうひとつのパーティだ」


 入口に集まっていた冒険者が私たちを見て口にしている。

 この数日でちょっと有名人だ。


「お姉さんがた!」


 リナンだ。前回よりも大きなカバンを背負っている。


「今回も御指名ありがとうございます」


「リナンも私たちの仲間だもん。それにしても大きなカバンだね」


 後ろから見るとカバンが動いているように見えるくらいだ。


「地図をたくさん用意してきました。商業ギルドの古い資料から第3層後半以降の地図を見つけたんです。もう何年も前の物なので、おそらく使えないかもしれませんが」


「ありがとう」


 周囲に目を向ければ、冒険者の中にスイルツとバイオンの姿もあった。

 彼らのまわりには仲間と思しき冒険者が10人以上いる。みんな良い装備をしている。

 短期間でパーティーを結成したみたいだ。どうやって?

 眺めていると、彼らの中から二人の魔法士がこちらに駆けてきた。


「その節はお世話になりました」


 魔法士の一人は、ランベさんのパーティにいたプエルタさんだ。

 どうしてスイルツと一緒にいるんだろう。


「仕事がなくなって困っている所を、スイルツさんに声をかけられまして」


 そうだったんだ。

 スイルツのパーティを良く見れば、レクソビさんやランベさんのパーティで見かけた顔がいた。

 リーダーが死んだり怪我をしたりで、活動出来なくなった冒険者を集めたみたいだ。


「それで短期間にパーティを」


「あ、あの」


 もう一人の魔法士がはなしかけてくる。11歳の私よりも小さい子だ。


「父を助けてくださったようで、ありがとうございます」


「お父さん?」


「はい。私はボナパルテの娘です」


「娘いたのかよ!」


 驚くキコアに娘さんは頷いた。

 ボナパルテは大家族なんだそうだ。生活するためにも大金が必要だった。

 それにダンジョンを攻略しなければ、街が、子供たちが危険な目にあってしまう。

 だからボナパルテはダンジョン攻略に必死だったんだ。


「お父さんの容態は?」


「まだまだ動けません。私の回復魔法でも無理でした。父が働けないので、どうしようかと考えていたところ、スイルツさんに声をかけられたんです」


「まだ小さいのに」


「父からはダンジョン攻略を止められていました。でも今年で10歳になりましたし、冒険者登録もしています。父の薬を買うためにも、お金は必要です」


 そういうことなんだ。

 二人は「それでは」と仲間のもとへ駆けていった。


「家庭の事情ですか」


 リナンが去っていく二人に目を向けている。


「リナンの家も大変なのかな?」


「フィリナさん、ご心配なく。リナンがここにいるのは金銭的な事情と言うよりも、親の方針なんです」


 どういう方針だろう。一家そろって案内人なのかな?


「それにしてもボナ子、良い根性だな」


「キコア、ボナ子って誰?」


「ボナパルテの娘だからボナ子」


「私はちょっと心配かも」


そのとき


「そうは言っても彼女の特技は転移魔法だ。パーティには必要な力だ」


 背後からの声に振り向けば、ギルドの支部長がいた。


「ギルド支部長? なんでここに」


 思わず声を上げてしまった。

 オスニエル子爵の街の冒険者ギルドの支部長が、バナバザール侯爵のダンジョンの入口にいるのだから。

 支部長も魔空船に乗り、何日もかけてやって来たのだろうか。

 彼は今日も上半身裸で胸筋がピクついている。スキンヘッドが陽の光を乱反射させている。


「あれぇ、支部長も来たんだ?」


 シアンタが支部長に話しかける。シアンタ、どうしてオスニエル子爵の街の支部長と顔見知りなんだろう?


「支部長、なぜここに?」


 エリーがみんなの疑問を代表してくれた。


「ん? ああ、そういうことかよ。たしかにオマエたちはオスニエル子爵の街から来たんだったな。それじゃ仕方ねぇか。俺はオマエたちが知っている支部長の双子の兄貴だ」


 双子の兄! 似すぎだよ。双子で裸でマッチョをやっているのか。

 彼は上腕二頭筋をギシギシと躍動させながら説明してくれた。


「ところで、なんの用?」


「おうシアンタ。侯爵様からオマエたちを助けるように言われてな。ギルドから良いモノを持って来てやった。こっち来い」


 支部長の手招きで、すぐ近くの停まっていた荷馬車までついていく。

 荷馬車の荷台には武器や防具、ポーションが揃えられていた。


「これ、全部もらって良いの?」


「シアンタ。全部は持ちきれないだろう。必要なものだけ持っていけ」


 シアンタとキコアは武器や防具に飛び付いていた。


「礼なら侯爵様に言ってくれよ」


 喜ぶ私たちを見て、支部長は満足そうだ。

 侯爵様が支援してくれた。

それはダンジョン攻略を志す者を応援していることでもあり、焦りを感じていることでもあるんだと思う。


「ボクたちのために、ありがとう!」


「別にここまで来たのは、オマエたちのためだけじゃねえよ」


 シアンタの言葉に支部長は親指をダンジョン入口のほうへ向けた。

 そこには10名ほどの騎士が立っている。


「今日から騎士もダンジョン攻略に参加することになった。あいつらにダンジョンの詳しい説明をするために来たんだ」


「騎士も? まだ誰も最下層に到達していないのに」


「もう冒険者だけに任せていられないってことだろうな」


 支部長は溜息をつく。

 先日、街では地盤沈下があったという。魔王竜の魂の影響だ。

 やはり侯爵様は危機感を募らせているんだろう。


「騎士たちに教えてやる第3層『4分の2地点』に到達するまでの、最も安全な経路。それは多くの冒険者や案内人が提出してくれた潜入記録から割り出したものだ。侯爵様も俺たちに感謝してくれているぞ」


支部長から新しい武器をもらい、礼を言うと、支部長は騎士のもとへ行った。


「できれば最下層に辿り着き、魔王竜の魂を打ち倒すのは冒険者であってほしいけどな」


 別れ際に、支部長はそう言い残した。




「本日ダンジョンに潜入する者はこちらに」


 ダンジョンの入口を管理しているギルド職員の声で、広場にいた冒険者が入口の前で列を成す。

 今日から第3層『4分の2地点』以降を目指すのは、スイルツとバイオンのパーティ、騎士団の先行部隊、そして私たち。


 ほかにも魔物の素材回収目的の冒険者もたくさん来ている。

彼らにとって今日は特別な日ではなく、日常にすぎないんだ。


 それでも彼らは私たちに道を譲り、潜入を優先してくれた。

 騎士団先行部隊、スイルツのパーティが順にダンジョンへと入っていく。


「今回で二回目の潜入か。目的は深層への到達か?」


 進入管理をしている職員に頷く。


「入口は前回と同じく88番で良いか」


「どうしようか」


「私たちの目的は素材回収ではなく深層への到達。一度潜入した経路なら、経験したぶん、時間が短縮できると思います」


 ルティアさんの意見に従い、今回も88番の入口から潜入だ。

 ギルド職員と後ろに控えていた冒険者たちから応援の言葉をもらい、88番目の入口に立つ。


「今日で二回目の潜入。必ずシアンタを深層に連れていくよ」


「フィリナ……みんな、ありがとう」


 シアンタは背中の聖竜剣の柄に手をまわす。

心の中で決心したのか、黙って頷いていた。


「さぁ、行こう」


 私たち6人は横並びになり、ダンジョンへ踏み込んだ。


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