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72.ダンジョン第3層の罠

 ダンジョン第3層入口。

 竜魔人の正体が誰なのかも分からないままだ。


「お姉さま方。ここで引き返すこともできます」


 翌朝。

 第3層の入口でギルド職員がやって来るのを待ちながらリナンが言う。

 リナンの視線の先には地上に戻る転移陣がある。


「せっかくだから行ける所まで行こうぜ」


「そうだよ。このまま深層まで行ってボクたちで魔王竜石を砕こう」


『まだ無理だろ』


 キコアとシアンタはヤル気満々だ。


「第3層はこれまでよりも長いです。『4分の1地点』を通過するだけでも一週間はかかると聞いています」


 そうなると、次の転移陣がある第3層『4分の2地点』の終わりに到達するまでは二週間かかるんだ。


 これはダンジョンに来る前にギルドで調査済みだ。

 それだけの水と保存食は『パンファギア×収納』の魔法空間や、カバンの中に入れてある。

 御隠居さんが用意してくれたポーション、解毒剤、鎮痛剤などもある。


「フィリナさん。最近の到達記録は第3層『4分の1地点』の途中まで。それだけ難易度が高くなることなんですが」


「大丈夫だよリナン。危なくなったら引き返すよ。第3層、行ってみよう」


「わかりました。リナンは地図を描きながらついていきます。もちろん案内も出来る限りやらせてもらいます。引き返したくなったら頼って下さい。なので……」


「どうしたの?」


「案内人の更新、どうしますか?」


 そういえば、そんなものあったな。


「もちろん更新して。案内人の知識で私たちを助けてほしいの」


「ありがとうございます!」


「第3層か。どんなところなんだろう」


 シアンタはワクワクした様子だ。


「地獄のようなところだぞ」


 低い声が近づいてきた。


「あ、ボナパルテ」


 Bランク冒険者のボナパルテと、その仲間たち。彼らも第3層に潜るんだ。

 武骨って感じのボナパルテは私たちを一瞥した。


「シアンタ、友だちいたんだな。心配したぞ」


「だから勝手に心配するな! って、アレ?」


 シアンタはボナパルテが腰に差した剣に注目している。


「その剣の鞘の紋章って」


「気付いたか」


 ボナパルテは剣を鞘から抜いた。


「その光沢は……硬魔法金属カタマンタイトですか!」


 ルティアさんが驚いている。

 その剣の刀身は魔法金属マジリルよりも茶色かかっている。


「ルティアさん?」


「マジリル、竜鱗材ドラゴアーマーよりも硬い金属です。武器屋では出回っていないものなのに」


「そのとおりだ。これはリンチェン商会から借りたもの。俺はこれでダンジョン攻略を目指す。攻略は冒険者と街の皆が望むことだ」


「リンチェン商会。あいつらそんな商売までやっているの? どうせ安く借りられたワケじゃないんでしょ」


 シアンタがくってかかる。


「出世払いだ。攻略、あるいは攻略の一助となる功績を上げればギルドから報酬が出る」


「だからって、借金までして金を稼がなくても」


「時間がないのだ。シアンタ、第3層は危険だ。だが止める権利はない。死ぬんじゃないぞ」


 ボナパルテは剣を鞘に納めると、仲間の元へ戻っていった。


「知り合いだったんだ」


「まぁ、ボクもダンジョンは長いからね」


「それにしても、本気が(うかが)えましたね」


 あの人、悪い人じゃない気がするな。




 ギルド職員がやってきた。

 今日第3層に潜入するのは冒険者ギルド・バナバザール領支部の副支部長スイルツさん、冒険者のマスカード、Bランク冒険者ボナパルテさん率いるパーティ、そして私たちだ。


 入口は全部で9つ。

 私たちは4番の入口から進入した。



 ☆☆☆



「ここから先は常に罠に囲まれていると考えて進んで下さい」


 リナンは足下を睨みながら言う。


「なんでも第1層や第2層と違い、解除したはずの罠がいつのまにか、もとに戻っているとのことです」


「なにそれ、怖い」


 第1層や第2層同様、通路の壁にはランタンが、床には光る苔が生えているけれど、その数は少ない。

 全体的に暗くなっている。こんな通路で罠に気をつけろっていうの?


「ミック、力を貸して」


「ニャオン!」


 ルティアさんがミックを出し、自分に憑依させる。


「これでよく見えます」


「猫の妖精だもんね」


「あそこの床だけ不自然に盛り上がっています」


 どこ? ろうそくに火を灯して見てみる。

 分かりにくいけれど、盛り上がっている?

 第2層にも似たような罠のスイッチがあったけれど、もっとわかりやすかったな。


「試しに重い物を乗せてみますわ」


 エリーは通路の端にあった重そうな石を投げて、どうなるか試したいようだ。

 罠を通過したあと、10メートルほど離れてから石を投げてもらう。

 投げられた石が床の盛り上がりの上に落ちると、そこを中心に床が崩れた。

 覗きこむと奈落の底だ。


「エリー、怪力だな」


「違いますわよキコア。こういう罠なのですわ」


 第3層は手強そうだ。



 ☆☆☆



 ルティアさんにならい、オフタルモサウルス×視力強化で通路を見てみる。

 すると、500メートルにひとつの割合で、一部だけ妙に新しい石畳があったり、一部だけ微妙に色合いが違う壁があった。


 エリーが試しに石を放り投げれば、やはり罠のスイッチで、底にトゲトゲのある落とし穴や、壁から矢が出てきたり、天井から鉄球が落ちてくるなど、いろいろ怖い仕掛けが現れた。


 魔物が現れたときは最悪だ。

 罠を調べる前から戦闘になる。

 そういうときは、とりあえず魔物を押さえつける係と、そのあいだに罠のスイッチを見破る係に分かれて対応。

 そのあとでスイッチに触れないよう、みんなで戦った。


「出てきた魔物、今日は一度に一体だけだったから良かったけれど」


「虫型の魔物のように大量に現れたら、罠の看破どころじゃなくなりますね」


「そういうときは、フィリナのデカイ魔法で魔物を一気に倒してくれよ」


 そうか。これはもう、魔物に遭遇してから考えていたら遅いんだ。

 魔物の種類、数に応じてどう動くか。先に決めておくべきだったんだ。

 その日、私たちは早めにテントを張り、これからの対策を話し合った。



 ☆☆☆



 三日後。

 罠の多い第3層だけど、なんとか前進できている。

 広場に出たとたん魔物が襲ってくることもあった。


 そんなときは私がクリオロフォサウルス×冷凍で魔物を足止め。

 ルティアさんが妖精憑依で五感を強化し、広場の罠を発見。

 みんなと情報を共有してから魔物と戦った。

 リナンは後戻りが必要になった時のために、羊皮紙にこれまでの経路と罠を書き記していた。




「あれって、どう見ても罠だよな」


 左右に伸びる細長い広場。

 右の行き止まりには台座があり、その上には大きくて赤い水晶玉が載ってある。

 キラキラと光っていて、思わず持って帰りたくなるような代物だ。


 でも、だ。

 水晶を台座から動かした途端、罠が発動しそう。キコアが警戒するのも頷ける。

 左の行き止まりには何もない。扉がひとつあるだけだ。

 ほかに道もないので、左側へ行ってみる。


「この扉、押しても引いても、ずらしても開きませんわ」


 エリーが力を込めて扉を動かそうとしても、開きはしない。

 ルティアさんは首を傾げる。


「すると、あちらにある赤い水晶を台座から動かせば、この扉に何らかの変化が起きるということでしょうか」


「それとも戻りますか。前回の分岐点まで戻るとなると、半日ほどかかりますが」


 リナンの言うとおり、ここまで来るのに多くの分岐点があった。

 私たちは偶然、この場所に辿りついたに過ぎない。

 最近の到達記録は第3層『4分の1地点』の途中まで。

 しかもダンジョンの深奥に眠る魔王竜の魂の影響で、経路が複雑に変化していく。

 先達が残した潜入記録に100パーセント頼ることは難しかった。


「試しに向こうの水晶、動かしてみようよ」


「動かした途端、床が抜けるんじゃねぇか?」


 キコアがシアンタに注意する。


「では、あの場に行かずに水晶を台座の上から下ろせばよろしいのですわね」


 エリーはロングスカートの裾を掴むとバサバサと振る。

 ドン!

 するとスカートの中から猫くらいの大きさの石が落ちてきた。


 エリーは第3層に潜入してからというもの、猫くらいの大きさの石を常にスカートの中に所持しているのだ。

 ダンジョンの中で手ごろな石を見つけると拾うのだ。

 魔物に遭遇すると、離れた距離から石をぶつけている。


 怪力から放たれる投石。喰らった魔物は痛そうだった。

 鉄拳だけではなく、自分ができる戦いのスタイルを探しているようだ。


「では、この石を向こうにある水晶玉に当ててみせますわ」


 エリーが片手でポンポンと石を扱っている。

 重そうな石が、まるでテニスや野球のボールのようだ。


「当てるって言っても、相当な距離があるぞ」


 キコアの言うとおり、ここから向こうまで500メートル以上離れている。

 いくらエリーが力持ちでも。

 こういうときは、ダトウサウルス×付与術!


「ありがとうございます。フィリナさん」


 エリーの身体が光り輝く。ルティアさんとキコアも同様だ。

 でも今回、二人は見ているだけだ。


「……ボクだけ光らない」


『だったらオマエもフィリナに抱きしめてもらえばいいじゃねぇか』


「や、やだよ。誰がそんなこと」


 シアンタと聖竜剣が、また揉めている。


「行きますわよ! えいぃっ!」


 私の恐竜と魔法の力で強化されたエリーは、水晶玉に向かって、おもいっきり石を投げつけた。

 石はみるみると水晶玉に到達し、見事に命中。

 台座の上から水晶玉を落としたのだった。


 ゴゴゴゴゴ……


 広場全体に重い音が響き渡る。

 そして。


「あっちかよっ!」


 こちらの扉には変化なし。

 水晶玉があるほうの行き止まりの壁の一部が、突如開いたのだ。隠し扉があったのだ。

 さらに広場が揺れる。重い音はまだ響いている。

 隠し扉は開いたというのに。

 続いて天井から砂や埃が落ちてくる。尋常ではない。

 地震? 違う。これは。


「天井が落ちてきてる!」


 ゆっくりと天井が私たちに向かって下りてきていたのだ。


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