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70.攻撃特化型パーティ

「あれは黒犬獣ディスカヴィル! キラーウルフよりも強敵です」


「はい。例によって巨大化しています」


 第2層『4分の4地点』。

 ある部屋にやって来ると、家よりも大きな犬が別の冒険者パーティと戦っていた。


「あん? 誰か来やがったか。この魔物は俺たちのエモノだ。横取りするんじゃねーぞ!」


「あ! オマエはランベ!」


「そういうオマエはシアンタかよ」


 ランベと言われた冒険者は二刀流の冒険者だ。

 さらに二本の剣を交差させて背負っている。


「まだ生きていやがったか」


「当り前だ! ボクは聖竜剣士なんだぞ」


「そうかよ。良い機会だ。そこで俺の攻撃特化型パーティの活躍を見ていな」


 攻撃特化型パーティ?

 そう思った矢先、魔法使いが雷の魔法を放つ。

 それを喰らって動けなくなった魔物の前足を、大男が大剣で斬りつける。

 さらに大きな弓を持つ冒険者が太い矢を連発し、魔物の肩から腹にかけて命中させた。


 ランベさんという人は、刺さった矢を足場にして魔物の背中に登りつめると、二振りの剣で魔物の首の上部を斬りつける。


「ギャウウウ!」


 そして犬の魔物ディスカヴィルは絶命した。




「会敵してわずか5分だぞ。すげぇだろ」


「あんな強敵を、そんなに手際よく」


 ルティアさんの視線の先では、ランベさんたちはディスカヴィルの解体をしている。


「あの人はBランク冒険者です。このダンジョンに潜っている冒険者の中でも、一番の稼ぎ頭なんです」


 リナンが教えてくれた。

 ランベさんが私たちを見る。


「もしかしてシアンタの仲間か」


「そうだよボクの仲間だよ」


 シアンタは胸を張った。


「そのうち一人はボクの剣術の弟子なんだ」


「……オマエ、仲間いたんだな。心配したぞ」


「勝手に心配するんじゃない! ……あれ? ランベのパーティって、あんな人いたっけ?」


 大きな矢を得物とする男性や、雷を放った魔法使い、さらに奥にいる女性の魔法使いに視線を送っている。


「アイツらは俺が新たに仲間に引き入れたヤツらだ」


「みんな強いよね。ソロにいたっけ。一体どこから」


「ほかのパーティに決まってんじゃねーか。ソロなんてやってるのはオマエみたいな弱いヤツしかいねぇからな」


「なんだと! じゃあ、これまで一緒だった人たちは?」


「辞めさせたゼ。弱いヤツは俺のパーティに必要ないからな。それに人数が多いと稼ぎの分け前が減る。あいつら、今ごろどこかで野垂れ死んでるじゃねーの?」


「そんなの酷い!」


 シアンタは怒るけど、ランベさんは軽くあしらっている。


「知り合いかと思ったけれど、ケンカしてる」


「はい。ランベさんはほかのパーティから冒険者を引き抜いては、自分のパーティで役立たずと決めつけた冒険者を辞めさせて路頭に迷わせてしまう。そんな人なんです」


「リナン。そんなことしてギルドは何か言わないの?」


「ランベさんと引き抜かれる冒険者に合意があれば構わないんです。パーティメンバーに辞めてもらうのも自由。ただ、引き抜かれたパーティのリーダーは面白くありませんし、辞めさせられた冒険者はたまったもんじゃありません」


 冒険者の中にはランベに恨みを抱く者もいるという。


「ランベさんは稼ぎ頭です。彼のパーティに加入すれば得られるお金も多くなる。だから声をかけられた冒険者は喜んでパーティを移籍してしまいます」


 私は疲れた顔をして魔物の解体をしている魔法使いが気になった。

 ここは人使いが荒いのだろうか。


「手伝いは無用だぜ。素材は分けてやんねーぞ」


「誰が手伝うか! みんな、先を急ごう」


 シアンタに促され、ダンジョンの奥へ向かって歩き出す。


「オマエらも強くなったら声をかけてやんよ」


「みんなはボクの仲間だ。どんなことがあっても一緒だよ。ランベの仲間になんかならない」


 シアンタは、べぇーっと出した舌をランベに向けた。



☆☆☆



「お姉さん方、今晩はここで休みましょう」


 通路の中でも少し広くなっている場所に出た。


「今日中に第2層突破できると思ったのにな」


「いろいろありましたからね」


「はい。あと少しで『4分の4地点』も終わりかと思いますが、この先何が起きるか分かりません。お姉さん方、お疲れのようですし、ここで休むのが得策かと」


 リナンの言葉にシアンタとルティアさんは頷く。


 野宿の準備を進めながら夕飯を作る。

 今晩もシアンタと私は剣術の稽古を優先させてもらった。


「お、シアンタたちか。俺たちもここで休ませてもらうぜ」


 夕食を食べているとランベさんたちもやって来て、少し離れたところでテントを張りはじめた。



☆☆☆




 朝の準備が整い、出発の時間となる。


「俺たちが先を行くぜ。獲物を目の前で取られるのはイヤだからな」


 ほんの少し早く準備を済ませたランベさんのパーティが、通路の先を行く。

 通路が一本道なため、私たちはランベさんのパーティのあとを離れて進んだ。


「昨晩、夜番をしていたとき、ランベさんのパーティの方と少しおはなししたんです」


 ルティアさんが言う。


「彼らは8番の入口から入ってきたそうです。私たちは14番。途中から13番に移動しましたが。ダンジョンはそれだけ入り組んでいるようですね」


 13番通路の隣は12番と14番だ。

 そんな通路が8番通路と繋がっていた。


「こういうの。知ってた?」


「いえ。第2層の通路も変貌してきたと考えて間違いありません。これは早急に魔王竜石をどうにかしないと、どんなことがダンジョンに起きるか。それどころか街まで影響するか分かりません」


 リナンの表情は険しい。

 ダンジョン深層部にあるという魔王竜石を砕けばダンジョンの異変は収まる。

 さらに魔物は寄りつかなくなり、ダンジョンはただの地下迷宮になる。

 そうなると、ここを稼ぎ場としている冒険者はどうなるんだろう。


 昨晩、私も夜番中にランベさんのパーティの夜番担当の人とおはなしした。

 魔物の解体中に疲れ果てていた魔法使いの人。

 名前はプエルタさん。


 ランベさんのパーティは攻撃特化型。

 魔物と遭遇すると、魔法使いがとにかく魔法を連発して、魔物が弱ったところを接近戦型の冒険者が追いつめて倒すんだという。

 さらに回復魔法が使える魔法使いがいないため、回復薬を自分で使う必要がある。

 ほかのパーティと違うのは、回復薬は全て自分持ちなんだという。


 そのプエルタさんは節約のため、ケガをしても回復薬を使う気になれないと言っていた。

 そう言えばレクソビさんのパーティには回復魔法の魔法使いがいたなと思う。


 プエルタさんは、それでもランベさんのパーティの給料はいいので、辞められないと言っていた。

 なんでも病気の家族がいるそうだ。

 お金が必要と言っていた。


 回復魔法ではケガしか治せないそうで、病気を治す魔法は治癒魔法というみたいだ。

 僧侶の中でも少数しか扱えないと聞いた。


 そんな僧侶に家族の病気の治癒を頼もうにも、医者のもとで療養させるにも、病気まで治るようなハイポーションを購入しようにも、お金が随分とかかるそうなのだ。

 そんな人たちがいるというのに、街とダンジョンの平和のためという名目で、魔王竜石を壊してダンジョンを地下迷宮にしてしまっていいのだろうか。


 いつか魔物がもっと強化されて、街に溢れてしまうことは分かっているけれど。

 街の人や冒険者は納得していることはリナンから聞いてはいるけれど。


「お! こんな通路あったか?」


 ランベさんたちが通路の先で立ち止まっていた。

 たしかに、通路の途中に細い脇道がある。


「こんな道、描いてなければ報告にもありません」


 カバンから地図を出したリナンは首を傾げている。

 リナンは案内人仲間のあいだで情報交換を行っていると言っていた。

 ダンジョンに潜入していないときや、安全区画などでほかのパーティについている案内人と会ったときだ。

 そんなリナンでも知らないとあれば、新しい通路なんだろうか。


「お? おお! あれは!」


 ランベさんが新通路の奥に何かを見たようだ。

 金色の鳥がいる。

その鳥は私たちに気付くと、走って曲がり角を曲に消えていった。


「あれはゴールドピーコックじゃねぇの! 今回の潜入はツイているぜ」


 ランベさんは新通路を駆けていく。


「いいなぁ。あの魔物、金になるんだぜ」


「最初に見つけたのは俺だぜ!」


 ランベさんはキコアに振り向きもせず、全速力だ。

仲間たちが追いかけようとしたときだ。

 天井から壁が降って来て、新通路への入口を塞いでしまった。


「ランベだけが壁の向こうに」

「ちくしょう、分断されたか」


 ランベの仲間たちが壁を叩く。


「この手のトラップは半日もあれば自動的にもとに戻りますが」


「それじゃあオセェよ。壁の向こうはランベ一人なんだ!」


 リナンに大剣の冒険者が怒鳴り散らす。

 冒険者を一人にするのはまずい。

 先日、冒険者のレクソビさんが竜魔人に殺されたばかりだ。


 レクソビさんだけが標的だったのか。

 それとも特定の人間を標的にしているのか。

 それとも冒険者全員が標的なのか。


 竜魔人は被害者の獲物を横取りしなかった。

 それとも被害者には仲間がいたために横取りできなかった?

 強盗なのか怨恨なのかもわからない。


 そんな竜魔人がダンジョンのどこかにいるかもしれない状況でランベさんは一人になってしまった。


「気がかりなことがあります」


「ルティアさん?」


「ゴールドピーコックは群れを成す魔物です。どうして一羽だけなんでしょうか」


「どういう意味?」


「誰かが意図的に放置したとすると」


 冒険者を誘いこむため?

 ランベさんの仲間たちの顔が青ざめる。


「魔法使い! 魔法で壁を壊せ!」


「俺の魔法は雷だ。魔物を倒せても壁は生物じゃない。無理だ」


「じゃあオマエで」


「え、あ」


 昨晩おはなししたプエルタさんが指名される。


「オマエの火炎魔法なら壊せるだろ」


「それが……昨日の疲れが残っていて、魔力が少ししか回復していないんです」


「なんだと!」


「私も手伝います」


 問い詰められるプエルタさんを見てはいられなかった。

 ブルカノドン×火炎! 消費魔力10倍!


「みんな離れて!」


「ええいっ!」


 二人で魔法の火の玉を放つ。

 命中した壁は粉々に砕け散った。


「スゴイ……ですね」


 プエルタさんたちは思考が停止したかのようにこちらを見ている。

 壁の向こう、ランベさんの姿はない。

 先に行ったのかな。


「追いかけましょう!」


 私たちは新通路に突入した。


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