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69.仲間の条件

 第2層『4分の4地点』。

 私たちはオーガキングの村を突破した。


 その後に現れた魔物はオーガリーダーほどの強さはなく、一度に現れる数もそれほどではなかった。


「それにしてもオーガは強かったな」


「はい。魔王竜の魂の力の影響かと思われます」


 通路を進むシアンタに答えるリナン。

 エリーも歩きながら不安げに口を開く。


「これからダンジョン深奥にある魔王竜石が眠る場所まで行こうとしているのに、第2層であんな危機を迎えるだなんて。自信を失いますわ」


 そのとおりだ。オーガリーダー一体ならともかく、強化されたオーガたちが集団で現れたら、魔力がいくらあっても足りない。

 ここは第2層。

 第3層や第4層には、もっと強力な魔物が潜んでいるというのに。


「そう落ち込まないでください。お姉さん方は今回の潜入が初めて。それに冒険者の仕事はダンジョンの安全な通路を調べ上げ、騎士団に提供することです。魔王竜石の破壊は騎士団がやってくれる予定なんです」


「せっかく潜入したんだから、ボクが魔王竜石を壊したいよ」


『オマエにはまだ早い』


 オーガキングの村以来、聖竜剣はシアンタが持っている。


「まだ早いっていうけどさ。早くしないと、魔王竜石の力が強まって、魔物は強化されるし、ダンジョンの通路だって変化しちゃうじゃん」


 シアンタの言うとおり、安全な通路を見つけ、それをもとに潜入したところで、あまり期間を置きすぎると通路が変貌してしまう恐れがあるのだ。


「それにしたって、安全な通路ってないだろ」


「たしかに、どこに行っても魔物に出くわしてきたね」


「私たちが通過して生き残れることができる通路なのです。きっと騎士団にとっては安全のうちに入るのだと思いますわ」


 通路が変貌するのも、魔王竜の魂の力が活性化しているため。

 これまでは、この場所で眠る聖竜の魂が上手く魔王竜の魂の力を封じ込めてくれていたからだ。


「ねぇアンガトラマ。ここって聖竜たちのお墓だったんだよね」


『そうだぞ。それがどうした』


「お墓は魂が眠る場所だよ。アンガトラマは元聖竜でしょ。強化されることはないの?」


 かつて聖竜たちは魔王竜と戦うにおいて、聖竜の祖先たちが眠るという、この場所を選んだ。

 この場所なら祖先の魂が聖竜の味方をし、さらに魔王竜を弱体化させてくれる。

 激戦の末、聖竜は魂となり、魔王竜の魂をこの場所に封じた。

 数十年が経ち、封じられていた魔王竜の魂は活性化。

 その場所がダンジョンに変貌したのだ。


『この場所はもう、もう魔王竜のニオイしかしねぇよ。そりゃ魔物が引き寄せられ、強くもなるな』


 魔王竜の魂を封じていた聖竜の魂はどこへ行ってしまったんだろう。

 月日と共に消耗して消えてしまったんだろうか。


「どうしてアンガトラマの魂は消えないんだろう?」


 シアンタも同じことを考えていたようだ。


『俺様は勇者聖竜だからな。特別なんだ』


「ウチにずっといて、仕事してなかったもんね」


『オマエの祖父さんに助言してやってるわ』


「どんな助言?」


『いろいろだ!』


 そのあいだにも、リナンは羊皮紙に通路を書き込んでいる。

 歩きながら、器用だな。

 あとで騎士団に提出するのかな。


『それにしてもフィリナ。付与術が使えるんだな』


 仲間に力を与える魔法だ。

 そのかわり、私自身には何の変化もない。


「付与術?」


 シアンタが何のことだと首を傾げた。


『仲間を強くする魔法だ。僧侶あたりが使う魔法だがフィリナも使えるんだな』


「うん」


「戦っている最中にルティアたちの身体がピカァって光る、アレのこと? 光ったあとは急に強くなるだよね」


「うん」


「仲間を強くする魔法か。どうしてボクの身体は強くならないんだろ」


 ……そういえば。


「ボク、仲間じゃないの?」


 シアンタは私を見て、次にリナンを見た。


「わ、私は案内人なので。強くなったところで戦えませんから、気にしていません」


 リナンは両手を振って、気にしていないことをアピールする。

 シアンタは再び視線を私に結ばせた。

 その表情はとても悲しそうだ。


「どうしてボクは? フィリナの剣術の先生なのに?」


 ……そういえば、どうしてだろう。


「ごめんねシアンタ。付与術がどういう条件で仲間を選んでいるか、分からないんだ」


 御隠居さんも付与術が使える。

 付与術は使い手によって、仲間の条件が異なると言っていた。

 共に戦う仲間であるのならシアンタだって対象であるはず。

 共に戦ったことのある仲間であるなら、マルネスとの戦いの際にはウィナミルさんにも私の付与術がかかったハズなんだ。


 でも、いまのところ付与術にかかる人はルティアさん、キコア、エリーの三人だけだ。


「一緒にいた時間が関係してるんじゃねーの?」


「私はフィリナさんと出会ってから半月ほどで付与術の対象となりましたわ。一緒にいた時間でしたらウィナミルさんたち騎士の方々のほうが長いのではなくて?」


 エリーの言うとおりだ。

 このダンジョンに潜ってから半月ほどになる。

 仲間となる条件が時間なのなら、ダンジョン入口で出会ったリナンだって、付与術がかかるはずだ。


 ルティアさんたちにあって、シアンタとリナンにははないもの……。


 ルティアさんを見ると、嬉しそうに見つめ返された。

 私はルティアさんに騎士になってもらいたい。


 キコアを見れば、「なんだよ?」という表情で返してきた。

 私はキコアの冒険者ランクを上げてあげたかった。


 エリーを見れば、黙って頷かれた。

 私はマルネスとの戦いのとき、エリーに仇を取ってほしかった。


 シアンタを見る。特にない……。


「もしかして、応援なのかな」


「もしかして、抱きつくことじゃねーか」


 キコアが私の言葉にかぶせるようにつぶやいた。


「抱きつくんですの?」


「ああ。ルティアってフィリナに抱きついてたじゃねーか。しかも、ほっぺ擦り擦りして。俺、庶民街の広場で見たぞ」


「まぁ!」


 エリーが声を上げる。

 ルティアさんは顔を真っ赤にしながら私から視線を逸らす。


「俺も同じことされたぞ。魔竜が吐く突風でフィリナが俺のことを死んだと勘違いしたんだ。そのとき」


「ええっ!?」


 エリーの護衛のときだ。

 魔竜が襲ってきてキコアが突風で死んだんだと思った。

 でもマリッパさんに救出されていたんだ。あのとき私は嬉しくてキコアを抱きしめた。

 ほっぺは……擦り擦りしたんだと思う。


「そう言えば私も」


「ええぇっ!?」


 エリーだ。

マルネスが放つ竜巻からエリーを救うため、エリーを抱きしめて地面を転がった。


「あのとき、ほっぺ、くっついた?」


「ええ。たっぷりと」


 エリーはフフフと微笑む。


「ええぇぇっっ!?」


「さっきからうるせぇぞ、ルティア!」


 先ほどから「ええっ」を連発しているルティアさん。

 何故か抗議の目を私に向けてきた。


「フィリナさん、意外と節操無いんですね」


「そ、そんなことは」


 ルティアさん。どうして瞳を潤ませながら、私を睨んで震えているの?

 私、悪いことした人なの?


『シアンタ、フィリナに抱きしめてもらって、ほっぺ擦り擦りしてもらえ』


「え。そんな。抱きしめあうなんて」


 シアンタは顔を真っ赤にさせる。


「いけません。ほかに仲間となる条件があるかもしれません。不用意に抱きつくなんて」


 ルティアさんまで抗議を始める。


『そんなこと言うな。ダンジョンを攻略しようにもオマエじゃ無理だ。だったら付与術で強くなるしかないだろ。どうせ今のオマエじゃ特技は使えないんだろ』


「だからって、ほっぺ擦り擦りなんて……恥ずかしくて出来るワケないだろー!」


 シアンタは聖竜剣を放り投げて、通路の先へと駆けていく。


『アイツ、また俺様を放り投げやがって』


「一人で先行しては危ないのではなくて?」


 聖竜剣を拾いあげて追いかけると、通路の真ん中でシアンタは立っていた。


「この先、誰かいる」


 たしかに声と物音が聞こえる。

 通路を進めば大きな部屋に出る。

 そこでは巨大な犬の魔獣と、ほかのパーティが戦っていた。


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