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67.聖竜剣アンガトラマー

第2層『4分の3地点』と『4分の4地点』のあいだ。安全区画で就寝しようとした矢先のことです。

 シアンタが大切にしている聖竜剣。

 それはシアンタのひいお祖父さんの相棒であった聖竜、その魂が石になった聖竜石から作った剣だという。

 その剣を私が手にした途端、剣が私に語りかけてきたんだ。


「みんな! この剣、喋ったよ!」


 毛布の中でムニャムニャと眠りかけていたシアンタが飛び起きる。


「聖竜剣、喋ったの?」


 シアンタは私から剣を奪い取ると、剣をマジマジと見つめた。


「なんだ。黙ってるじゃん。フィリナったら寝ぼけているの? あの程度の稽古でもう疲れたんだ? ダメだなぁ……おやすみっ!」


 剣をその場に置いて、速攻で毛布にくるまるシアンタ。


「だから、剣を鞘に納めて下さいまし」


 エリーは声をかけるけれど、シアンタは完全に熟睡を決め込む姿勢だ。

 私は恐る恐る、剣を手にする。


『まだ話してないんだ。勝手に手離すなよ』


「え、あ、ごめんなさい」


 剣に謝ってしまう私。


「どうしたんですか?」


 ルティアさんとキコア、リナンがこっちのテントを覗きに来た。


「ごめんね起こしちゃって。この剣が喋っているの」


「喋っている? 何も聞こえないぜ」


「え?」


 キコアの言うとおり、エリーたちは呆気にとられている。聞こえないのか。


『俺様の声が聞こえるのは相棒の倅。そのガキ。死んでから相棒の家系以外のヤツと喋るのは久しぶりだぜ』




 とりあえずテントから出て、聖竜剣のはなしを伺った。

エリーも一緒に外に出る。

 ルティアさんたちも私を囲んだ。

 シアンタは眠そうな顔をしてテントから出てきた。


「もしかして私にしか聞こえないの?」


『そうだな。俺様は聖竜と心を通わせる特別な人間としか話せない。生前も普通の人間には竜が吠えているようにしか聞こえなかったみたいだしな。オマエ、聖竜剣士じゃない。なんだかおかしな感じがする。何者だ?』


 何者と言われても。

 もしかしたら天職・異竜戦士が関係しているのかも。


『まぁいいや。俺様に魔力を込めてみろ。魔法使えるんだろ。手を介して俺様に魔力を注ぎこめ』


「ねぇフィリナ。ボクの剣がカッコいいからって、なに一人で剣と喋っているのさ?」


 すっかり眠気が飛んだのか、シアンタが迷惑そうにこちらを覗く。

 私は言われたとおりに聖竜剣に魔力を注いでみた。

 剣を握る手に魔力を集中。

 あ、なんだか魔力が吸われていく感じがする。気持ち悪い。


『これでほかのヤツらにも聞こえるようになったろ?』


「剣が喋った!」


 みんな驚いた眼で剣を見つめはじめた。


『おう。俺様は聖竜アンガトラマー。魔竜大戦で気合い入れ過ぎて死んじまったアルバレッツの相棒よ。今はこうして剣となって、アルバレッツのガキどもに助言してやってる身だ。ガハハ』


 聖竜の魂とも言える聖竜石は剣となった。

 本当だったんだ。


「こ、こんな声、喋りかただったっけ?」


 私が手にした剣を、シアンタは覗きこんでくる。

 たしかに聖竜のイメージとは離れた言葉遣いだ。

 もっと仙人めいた喋り方かと思っていた。


 剣がシアンタを見やすいよう、目がどこにあるか分からないけれど、シアンタに向けてあげた。


『おうっ、オマエは二代目の孫娘だな。こんな魔王竜クセェところに連れてくるんじゃねぇよ。俺様を屋敷まで持って帰れ!』


「ええっ!? ボクはダンジョンを攻略している最中だよ。なにも成果もあげずに帰ったら怒られるよ」


『怒られろ! 俺様を勝手に連れて来やがって。このまま奥へ進めばオマエは死ぬ。殺される。ダンジョンなんてまだ早い。怒られたほうがマシだ!』


「そんな言い方って。昔はボクのこと、いっぱい応援してくれたのに」


『オマエを応援したことなんて一度もないぞ。会話したこともない。俺様と会話できるくらいの力を身に付けたヤツなんて、二代目と三代目くらいだ』


 それはつまり、シアンタのお祖父さんとお父さんということだろうか。


「そんな。子供の頃、いっぱいおはなししたよね。だってボク、居間で飾られている聖竜剣とおはなしして、慰められたもん! 父さんやお祖父さんから怒られるたびに勇気づけてくれたのは聖竜剣だった。何でそんなこと言うのさ」


『それはオマエの妄想だろ。俺様はな、オマエには何度も才能がない。たとえ天職が聖竜剣士でも出来そこないはいるものだから、さっさと家を継ぐなんてことは諦めろっ。兄に任せろ。そう言っていたのに。オマエときたら聞かずに勝手に満足しやがって』


「そ、そんな」


 シアンタに衝撃の落雷が降り注いだ。ように見えた。

 震える手を伸ばしたシアンタが私から聖竜剣を奪い取る。


「ねぇ。今の言葉、撤回してよ。嘘だよね。ボクと一緒にダンジョンを攻略してくれるよね。どうして黙っているのさ」


 どうやら聖竜剣は沈黙しているようだ。

 私は試しに、シアンタに握られた聖竜剣の刀身に、そっと触れてみた。


『その姉ちゃんから勝手に奪い取るな! オマエはまだ俺様と話せる域に至ってねぇ。おい姉ちゃん、名前は?』


「え? フィリナです」


『よしフィリナ。しばらく俺様を握っていろ。そこのガキがアルバレッツ家に帰ることを説得するまでな!』


「そんな……」


「そんなぁぁぁ!!」


 シアンタは私の言葉にかぶせるように絶叫すると、聖竜剣を放り投げてテントに突っ込んでいった。


「アイツ、剣と妄想で喋っていたのかよ」


「自分も家の役に立ちたい。そういう気持ちは理解できますが」


 キコアとルティアさんが、可哀相な人を見るような瞳でテントを見つめていた。



☆☆☆



「ボクは絶対帰らないもん。ダンジョンを攻略して父さんや兄さんをアッと言わせてやるんだ」


『オマエの実力では攻略は無理だ。こんな魔王竜のニオイがプンプンするところに連れてくるんじゃねぇ!』


 あのあと聖竜剣は改めて自己紹介をしてくれた。

 生前はアンガトラマーとういう名の聖竜で、シアンタのひいお祖父さんであるアルバレッツ氏と共に魔竜大戦で活躍していたという。


 終戦直前の戦いで死亡。

 残った魂は聖竜石となり、アルバレッツ氏に剣として加工され、それ以来は名誉侯爵の爵位を戴いたアルバレッツ家で祀られていたそうだ。


 屋敷で聖竜剣の声を聴けるのは、亡くなったアルバレッツ氏と二代目である現当主。

その長男である通称・三代目だけだという。

 その息子や娘であるシアンタは、まだ聖竜剣と会話ができるほどの聖竜剣士としての力はないそうだ。


『俺様のことは勇者聖竜アンガトラマーと呼んでくれぃ!』


 そんな聖竜剣は、昨晩シアンタが寝してしまったあと、私たちにシアンタを家に戻すよう説得してくれと頼み込んできた。

 でもシアンタはヤル気だ。

 そんな彼女を家に帰すのはあんまりだということで、しばらく様子を見てくれないかと頼みかえした。


 聖竜剣は私の魔力を吸い込むと、ほかの人にも声か聞こえ、会話ができる。

 そんな聖竜剣は私に魔力の提供を提案してきた。

 私の魔力を十分に取り入れれば、半日以上はどんな人間とも会話できるらしい。

 魔力の提供。私は朝から魔力を20ほど吸い取られてしまった。


 おかげでシアンタは聖竜剣と会話ができ、ダンジョンを進みながら、手にした聖竜剣とケンカしている。

 そんなケンカを私たちはダンジョンの奥へ進みながら聞く羽目になる。


「こんな剣だとは思わなかった。何が聖竜剣さ。ボクはオマエなんかいなくても、攻略して見せるもんね」


『無理だな。二代目を悲しませないためにも今すぐ帰れ。まだフィリナを相棒にしたほうがマシだ』


 ここで私の名前を出さないで。


『オマエでは魔王竜の魂の力を宿した魔物になんて勝てはしない。フィリナたちから聞いたぞ。ダンジョンは全4層。まだ第2層だってのに苦戦しているらしいな』


「聖竜剣なんていなくてもボクには仲間がいる。フィリナたちと攻略すればいいんだ。フィリナは強い魔法使いで良いヤツだ。イジワル言う聖竜剣なんて嫌いだよ!」


 ここで私の名前を出さないで。

 シアンタは聖竜剣を思いきり通路の壁に投げつけた。

 聖竜剣は『あ、この、テメぇ!』と叫びながら、壁、天井、壁へとぶつかり、床に落下する。


「リナン、剣、持ってる?」


「は、はい」


 シアンタはリナンに代わりの剣を求めた。

 案内人のリナンは私たちのために予備の剣を持っている。

 リナンは黙ってそれをシアンタに渡した。


「自分の武器は大切に扱わないといけません。それも魂を宿している武器となれば尚更です」


 ルティアさんは床に転がった聖竜剣を手にすると、刀身にかかった埃を取ってあげていた。


『手に持ってもらえるのなら、こういう姉ちゃんが良いね。ん? 姉ちゃん、天職持ちか?』


「わかりますか。妖精使いです」


『本当に妖精使いか? この気配……相性悪いか。いいや、ほかのヤツ、俺様を握ってくれ』


「俺は槍のほうが性に合っているぜ」


「私には父の形見のナックルがありますので」


「リナンは案内人です」


 そうなると、私が持つことになるのか。

 私が聖竜剣を手にすると、シアンタの鋭い眼光がこちらに向かってくる。

 やめて。私を睨まないで。


「別にフィリナは悪くないよ。フィリナは良いヤツだから、剣術の先生を続けてあげる。でもね、聖竜剣は嫌いなんだ。嫌いになっちゃったんだよ」


「シアンタ……」


「応援してもらいたかったのにな……」


 シアンタはどんどん奥へと進んでいく。

 それは辛い表情を私たちに見られたくないからなのかなって思った。



☆☆☆




「あ……」


 シアンタの足が止まる。

 そこは広大な部屋だった。

 足下は地面になっていて木も生えている。

 そんな部屋の中央に何十軒もの家が見える。

 人が住む家にしては大きい。そして粗雑だ。

 そんな家から鬼のような魔物が出てくる。


「ピアノニッキ伯爵領に向かうときに出くわしたオークよりもデカイな」


「あれは、オーガです」


「ここで生活しているんでしょうか。村の規模からしてオーガキングがいる可能性もあります」


「ここを突破しなければ、奥に進めないんですの?」


 私たちはオーガキングの村にやってきてしまったようだった。


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