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66.アルバレッツ家

 ダンジョン第2層『4分の3地点』。

 名誉侯爵家の出で、ダンジョン攻略を目指す聖竜剣士の女の子、シアンタが私の剣術の先生になってくれた。


 夜になり、野宿するとあれば、準備や片づけはルティアさんに任せ、私はシアンタから剣術の指導を受けることになった。

 ダンジョン攻略中に魔物に遭遇すれば、シアンタとルティアさんが躍り出て、魔物をやっつけてくれる。


「剣術の腕は確かなものです。幼少期より剣士の教えを受けていたというだけあります」


「じゃあ、なんで今まで弱かったんだ?」


「はい。仲間の補助があって、初めて真価を発揮できる人なのかもしれません」


「それって、半人前ってことじゃなくて?」


 ルティアさんたちがシアンタに目を向ける。

 そんな中、私はリナンにお礼を言った。


「リナン。あのときはありがとう」


「何のことでしょう?」


「シアンタを仲間するときだよ。一緒に説得してくれて」


「いえ。私もダンジョンを攻略しようと考えている人を見ておきたいと思っていたんです。特に聖竜剣士という五大武侯の名を引き継ぐ人たちには興味があります」


「武侯ね。そんな仰々しいヤツかよ」


 リナンの言葉にキコアが反応した。

 そんなシアンタは退治した魔物の前で得意げな顔を作っていた。


 仲間になったシアンタは壁を作ることもなく、自分のことをはなしてくれた。

 少し自慢げだったけれど。


「へぇ。ルティア以外はFランク以下なんだ。ボクは冒険者の登録時からEランクだけどね」


「最初からEランクって言ったら、冒険者をするうえで有利な天職と特技の持ち主だろ」


「そうだよ。ボクの天職は聖竜剣士。とっても強くて稀有なんだから。あと特技は魔竜討滅斬。すごいんだよ」


 シアンタはキコアに自慢している。

 それにしても魔竜討滅斬? 

 私の80種類の魔法の中にもあった。


「それってどんな特技なの?」


「魔竜に対してとっても効果的な攻撃なんだよ。これを魔竜に使えば、すぐにやっつけられるんだから」


 雑草に対する除草剤のようなものだろうか。


 80年前に魔竜大戦があった。魔王率いる魔竜軍団と人間の戦争。

 その戦争の中で聖竜と心を通わせ、魔竜と戦った剣士たちがいた。

 戦後の王国は彼らに名誉侯爵の爵位を授けた。その子孫がシアンタ。


 心を通わせた聖竜はやがて死に、その魂は聖竜石という大きな石になった。

 そんな聖竜石を加工して剣状に仕立て上げたものが、今シアンタが背負っている剣だという。

 この剣と共に、もう一年以上前からダンジョンに潜り、地上に引きかえしては潜る。

 そんな生活を繰り返しているという。

 仲間になって心を開いてくれたシアンタは、そんなことまではなしてくれた。



☆☆☆



「フィリナって魔法が使えるのにGランクなんだね。不思議」


「うん。事情があって」


「たしかに剣の腕はGランクだね」


 シアンタが仲間になって三日目。

 『4分の3地点』『4分の4地点』のあいだにある安全区画に到達した。

 みんなは野宿の準備を始める。

 ここでも私はシアンタから剣の稽古をつけてもらっている。


「ゴハン出来ましたよ」


「わ~い」


 リナンの呼びかけにシアンタは上機嫌に駆けていく。

 なんだかすっかり馴染んでいるな。


「リナンの料理は美味しいな。このパーティにいればゴハンは勝手に出てくるし」


「何度も言うけど、スープの味付けをしているのは俺だからな」


 そう言うキコアは食堂や酒場で料理を作っていた経験がある。

キコアは手際が良いし、料理が上手い。


「へぇ。そうなんだ」


 シアンタは気にも留めず、スープやお肉に手を伸ばす。


「フィリナさんの剣術は上達しましたか」


 ルティアさんがシアンタにはなしかける。


「うん。まだまだ実戦には向かないけど。基礎的なことはどこかで学んでいたみたいだけどね。フィリナって村娘だよね。誰から教わったんだろ」


「それは私です」


 私は村を出てから子爵様の街への旅の途中、ルティアさんから剣の稽古をつけてもらっていた。


「そうだったんだ。でも子供の頃の兄さんにも敵わないかな」


「まぁ。お兄さまがいらっしゃったのですね。どんな方ですの?」


 エリーは同じ貴族とあってか、シアンタに興味が湧きつつあるようだ。

 五大武侯のひとつ、シアンタの出身であるアルバレッツ家は、この場所を治めているバナバザール侯爵家と仲が良く、領も隣同士だという。

 エリーは何度か話しかけているれど、どうもシアンタは貴族っぽい言動を見せず、波長が合わないのか、はなしが長く続かない。

 それでもエリーは機会を見ては、はなしかけている。


「兄さんは昔から病弱なんだよ。成人した今でも身体が弱い。剣術だってたいして強くない。このままじゃ家名を継げないかも。それでも父さんは兄さんに継いでほしいみたいなんだ」


 五大武侯はほかの貴族と違い、強力な魔物の出現などの一大時には、いち早く現場に駆け付け、魔物を倒すことを期待されているという。

 その後継ぎが病弱ともなれば、大変だ。


「お兄さん、良くなるといいですね」


 ルティアさんが慰める。

 ルティアさんにもウィナミルさんというお兄さんがいるし、同情したんだろうか。


「別にいいんだ。兄さんができないのなら、ボクがあとを継げばいいんだ。でもね、父さんたちは兄さんに家を継いで欲しいいみたいなんだ」


 この世界でも家は長男が継ぐことが一般的みたいだ。

 貴族の家を女の子が継ぐことは、ないみたい。


「そこでボクは考えた。実績を作れば父さんたちは認めてくれるって。そこでボクは家宝の聖竜剣を手に、このバナバザール領でダンジョンを攻略してみようって思ったんだ!」


 シアンタは立ち上がると、背中の剣を抜いて高く掲げた。

 ん? 家宝の剣?


「ねぇシアンタ。その剣って」


「これは、ひいお祖父さんの相棒だった聖竜の聖竜石で作った剣なんだよ。家で大事に飾られていたんだ」


「それ、大丈夫なの?」


「心配いらないって。ダンジョンなら必ず攻略する。最初は第2層の『4分の4地点』の途中まで一人で行けたんだから。最近はちょっと調子悪いけど。でも今は『4分の4地点』の手前まで来れた!」


「そうじゃなくて。剣、勝手に持ってきて良かったの?」


 この場にいる誰もがシアンタが手にしている聖竜剣を見上げている。


「大丈夫だよ。聖竜剣とボクはとっても仲が良いんだよ。ボクには剣の声が聞こえるんだ。子供の頃、剣術に師匠に絞られたり、父さんから家を継がせないって言われて落ち込んだときは、この剣が慰めてくれたんだ」


「剣が喋るの?」


「アルバレッツ家の者には聞こえるんだよ。ボクにも聞こえてた。ボクが泣いていると、いつも『シアンタ、大丈夫だよ』『必ず強くなる。キミは聖竜騎士になれる』って励ましてくれたんだ」


 シアンタは聖竜剣を胸に抱き寄せると、嬉しそうに見つめた。


「最近は、何でか知らないけれど声は聞こえないんだ。でも聖竜剣は応援してくれている。ボクには分かるんだ。聖竜剣はちょっと疲れているだけ。ううん、ボクを信用しているから、じゅうぶん強くなったから助言しないだけなんだ」


 シアンタの自己肯定感の強さは、聖竜剣からもたらされたものなのかな?


「でも、だからって家宝の剣を勝手に持ち出してきて、良いモノですの?」


「だから大丈夫だよ。ボクがダンジョンを攻略すれば、父さんは怒らないはず。それどころかボクを後継ぎに認めてくれる。病弱な兄さんに無理なんてさせないよ」


 そんなに上手くいく?



☆☆☆




「でぇぇい!」


「また負けた……」


 夕食のあとのシアンタとの模擬戦。

 恐竜と魔法の力がなければシアンタの剣に対抗は出来ない。


「まだまだだね。さぁ、今日はもう寝よう」


 シアンタは稽古が終わるとすぐに眠ってしまう。

今日もルティアさんたちが就寝の準備を済ませてくれていて、私たちはテントに潜って、用意された毛布にくるまるだけだ。


「おやすみ~」


「ちょっとシアンタさん。聖竜剣はアルバレッツ家の誇り。ちゃんと鞘に納めてから寝て下さいまし」


「う~ん……」


 シアンタは聖竜剣を大事にしているものの、その扱いはちょっと適当だ。

 毛布にくるまったシアンタの横には、むき出しの聖竜剣が横たわっている。

 その横で寝ようとしていたエリーは驚いて声をかける。


「しょうがないな」


 私は聖竜剣を手にとって鞘に納めてあげようと、手にした。

 そのときだった。


『あん? この気配、やっと俺様の声が聞こえるヤツが現れたか』


「え? 今、男の人の声が聞こえた!」


 このテントには私とシアンタ、エリーしかいない。

 ルティアさんとキコアは隣のテントだ。

 安全区画でも第2層は何があるか分からないので、リナンには最初の夜番をお願いしている。

 そもそも、このパーティには男の人はいない。


「もしかして」


『そのとおり。俺様だよ』


 手にした聖竜剣から声が響いてきたのだった。


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