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65.共生関係

 ダンジョン第2層。『4分の3地点』に突入。

 通路の壁を壊して、隣の通路に足を踏み入れた私たちは、先に潜入していたシアンタに追いつくことができた。

 だけどシアンタは二体の魔物に挟みうちにされていた。


 シアンタを囲む二体の魔物。

 一体は黒いイタチのような魔物で、後ろ足で直立し、前足から大きな剣も生やしている。

 もう一体はヒトデのような魔物だ。器用に立っている。

 背中は見るからに硬そう。そして正面中央には巨大な口がある。

 二体とも2メートルはある。

 どうして異なる魔物が一緒に戦っているんだろう。


「あの二体は共生関係にあります」


「共生関係?」


 通路の曲がり角に身をひそめながらシアンタを見守る私たち。

 ルティアさんが魔物を見ながら教えてくれる。


「デススターは標的を見つけると特殊なニオイを出し、ウルヴァリンを呼ぶんです。ウルヴァリンが標的を仕留め、その食べ残しをデススターが食べるんです」


 ウルヴァリンとはイタチ型の魔物、デススターはヒトデ型の魔物のようだ。


「本来、あのような巨大な魔物ではないのですが」


 それもきっと、魔王竜の魂の力の影響なんだ。


「てぇぇいっ!」


 シアンタはウルヴァリンに剣を振るうものの、前足から生やした剣に防がれてしまう。

 キコアたちが聞いた金属音は、この音だったんだ。

 なんだかシアンタの調子が悪そうに見える。


「デススターは催眠作用のある気体を放出します。けれどデススターにはほかの標的を傷つけるだけの力はありません。だからウルヴァリンに標的を倒してもらい、食べ残しをもらうんです」


 ウルヴァリンにはデススターの催眠ガスは効かないようなのだ。


「うう、眠い。やっぱりあっちから倒そう」


 シアンタはウルヴァリンからデススターに攻撃を変えたものの……。

 ひるがえったデススターの背中に弾かれてしまう。


「デススターには攻撃が通らない。放置したら眠らされる。眠ってしまったらウルヴァリンの剣で貫かれる。厄介ですわね」


 エリーは布で口元を覆った。みんなも布で口を塞いでいる。

 できるだけデススターの催眠ガスを吸い込まないための対策だ。


「みんな、助けに行こう」

 



「逃げちゃダメだ。ボクは変わらないと。強くならないと。でも、うう。もうダメだ……」


 駆けつけた矢先、シアンタは倒れてしまった。


「あとは私たちが戦うよ」


 シアンタは意識朦朧とした感じで私たちを見上げている。

 リナンが、もう慣れたという風にシアンタを安全な通路へ引きずっていった。


「今度は4対2だぜ魔物ども。で、どうする?」


「ウルヴァリンは私とキコアさんで対応しましょう」


「二刀流を二人で倒すんだな。なんだかミガットの兄ちゃんとの訓練を思い出すな」


「ウルヴァリンの場合は、剣ではなく、正確には硬化した骨だといいます」


 ルティアさんとキコアがウルヴァリンに挑んでいく。


「ではフィリナさん。私たちは、厄介な魔物を倒しましょう」


「眠くならないうちにね。でも、どうやって」


 デススターの背中は硬い。正面には大きな口。


「巨大な口は矢や攻撃魔法も喰らうといいます。気をつけて下さい!」


 リナンが注意を促してくる。

 それにしても、魔法まで食べるの?


「教えてルティアさん。戦ったことあるんだよね? そのときはどうやって倒したの?」


「ウルヴァリンはここまで巨大ではありませんでした。犬ほどの大きさです。先輩冒険者が馬乗りになって仕留めていました。デススターも両手で抱えられる大きさでしたので」


「コイツの毛、硬くて刃を通さないぞ」


 キコアたちが苦戦している。

 ここは早く倒さない……と。

 まずい。もう眠くなってきた。

 エリーは顔を横に振り、眠気と戦っている。


「エリー、デススターの背中を殴って。私に正面を向くように」


「わかりましたわ」


 エリーが殴りかかると、デススターは背中を向けて防御する。

 竜鱗材ドラゴアーマーのナックルを装備したエリーの鉄拳でも、硬い背中を突破することは難しいようだ。

 私はデススターの正面にまわりこむ。


「攻撃魔法が効かないのなら……とっても強い攻撃魔法で」


 考えている暇はない。これが通用しなかったら撤退しよう。


「くらえ。ブルカノドン×火炎! 20倍!」


 魔法の火炎をデススターの口めがけて発射。

 デススターはこれを飲み込んでしまった。

 ダメか。もう眠い。

 これが効かないんじゃ……もう無理。


「あら。魔物の背中が焦げてきましたわよ」


 え? なんだか臭い。

 生ゴミが燃えているようなニオイだ。

 見ればデススターは硬直している。

 そして、爆発した。

 私の魔法に耐えきれなかったようだ。


 デススターは倒した。

 倒したけれど、吸い込んでしまった催眠ガスまで消えるワケではない。眠い。


「ダトウサウルス×付与術! あとはお願い!」


 残り魔力は6。みんなに懸ける。


「あら、眠気が吹き飛びましたわ」


 いいな。エリーはウルヴァリンと戦う二人に加勢する。


「それにしても硬いな。剣も、身体中の毛も」


「剣が危なっかしくて、背中すらまともに殴れませんわ」


 ウルヴァリンは腕からとびだした剣、じゃなくて骨か。

 それを振り回して三人の攻撃を寄せ付けない。

 それに全身を覆う毛。これも硬いようなのだ。

 このままではダトウサウルス×付与術の持続時間の一分を過ぎてしまう。


「いい考えがあります」


 ルティアさんがウルヴァリンと剣を交えながら後ろへ飛ぶ。

 それを追いかけるウルヴァリン。

ルティアさんは壁際まで追いこまれてしまった。


「ルティアさん!」


「大丈夫。フィリナさんの魔法のおかげで、見えていますから」


 ウルヴァリンは前足の硬化した骨を振り下ろした。

 ルティアさんは直撃する一瞬前にウルヴァリンの懐から脱出。

 空ぶったウルヴァリンの骨は壁に当たり、折れてしまった。

 折れて宙を舞った骨は、エリーの足下に突き刺さる。


「とっても硬い魔物の骨と、とっても硬い魔物の毛。どっちが硬いか試してみたいですわ」


 エリーは足下の骨を抜くと、その腕力をふんだんに生かし、ウルヴァリンめがけて鋭利な骨を投げつけた。



☆☆☆



「あ、フィリナさんが起きました」


 目を開けるとルティアさんが私を覗きこんでいた。

 どうやら私はデススターの催眠ガスで眠っていたようだ。


「戦いはどうなったの?」


 飛び起きて様子をうかがう。

 ウルヴァリンはエリーが投げつけた自身の骨に胸を貫かれて絶命していた。

 デススターの死体は私が魔法で爆発させてから、変わりはない。

 よかった。勝てたんだ。


「ウルヴァリン。毛はゴワゴワしているし、肉はまずくて有名なんだってさ。素材になんねーよ」


 キコアはつまらなそうに口をとがらせている。


「そうだ。シアンタは」


「そこにおりますわ」


 エリーが指すほうへ顔を向ければ、部屋の隅で寝起きの顔をしたシアンタが不満そうに頬杖ついていた。


「よかった。無事みたいだね」


「ちぇっ。本当ならボク一人で倒すハズでいたのに」


 シアンタは悪意の視線を私に向けてきた。


「あ~あ。素材が横取りされる。ギルド職員に言いつけようかな」


「さっきキコアが言っていたよ。ウルヴァリンは素材にならないって」


「デススターも素材にはなりません。肉を食べたところでお腹を壊します」


 ルティアさんが付け加えてくれる。


「うるさいなっ!」


 シアンタは剣を担いで荷物を手にすると歩きだした。


「待って、どこへ行くの」


「ダンジョンの攻略に決まってんじゃん。じゃあね」


「待ってよ」


 シアンタはこちらの声を無視して、どんどんダンジョンの奥へ進んでいく。


「なんだよ、アレ。何度も助けてやったのに」


 キコアの声に振り向けば、全員が呆れた顔をしてシアンタを見ていた。

 このままじゃいけない。

 私はシアンタを追いかけた。


「冒険者を狙っている竜魔人も現れたんだよ。一人じゃ危ないよ」


「竜魔人? レクソビを殺した奴のこと? レクソビは恨まれていたんじゃないの? それに竜魔人てヤツがボクを襲ってきても、返り討ちにしてやるもんね」


 シアンタは竜魔人に勝てるだろうか。

 いや、そういう問題ではなく。

 私はシアンタに追いつく。


「私たちの目的は同じだよね? じゃあ」


「じゃあ何? 仲間になって礼をしろっていうの? こき使われろっていうの? そんなのごめんだね」


 仲間になってほしいけれど……シアンタが背負っている剣が目に止まった。そうだ。


「剣士。聖竜剣士なんだよね」


「それがどうかした?」


「だったら剣の先生になってよ!」


「はぁ?」


 シアンタが足を止め、驚いた表情でこちらを見てくる。


「フィリナさん?」


 ルティアさんの声に目を向ければ、彼女たちも同様だった。


「ねぇシアンタ。私、魔法が使えるけれど剣は全然ダメなんだ。部活動は剣道部じゃなかったし、体育の選択科目は剣道じゃなかったし」


「ブカツド……センタクカモ? 普通の子供が剣術なんて学べるわけないでしょ」


 シアンタは首を傾げる。


「うん。そこでシアンタから剣術を習いたいの。聖竜剣士ってことは、剣術を習ったことがあるんだよね」


「そりゃボクの家は名誉侯爵家。代々聖竜剣士を輩出しているから子供の頃から剣術を学んでいたよ」


「私ね。全ての魔力を使ってしまったら、もう魔法は使えない。そうなると剣で戦うしかない。でも剣術を知らないの。弱いの」


 私は未だ唖然としているルティアさんたちを指さした。


「ルティアさんは魔物についてすごく詳しいよ。魔物の先生。キコアは魔物の素材について詳しいし、リナンは案内人だからダンジョンに詳しい。エリーは野宿の準備がすごく上手いの。野宿の先生」


「なんですの。野宿の先生って。もっと詳しいモノ、ありますわよ。たとえば地理や歴史とか」


 エリーが不満そうな声を漏らす。

とりあえず私は続けた。


「私ね。何もできないの。冒険者ランクはG。でも私はダンジョンを攻略したい。そこでシアンタには剣の先生になってほしい。しばらく一緒にいて、剣を教えてほしいんだ」


「あの魔法の強さでGランク? デススターを一撃で倒したのに。ウソでしょ」


 シアンタは意識朦朧とした中でも、私がデススターを魔法の火炎で倒したところを見ていたようだ。

 私は冒険者証をシアンタに見せると「本当だ」と驚いていた。


「シアンタ。私の剣術の先生になってよ。しばらくのあいだでいいから」


「私からもお願いします」


 リナンも駆け寄って来る。


「ダンジョン攻略の成就のためにも、フィリナさんに剣術を教えてあげて下さい。このパーティは平均Fランク。どうか助けると思って。皆さんもシアンタさんの助けが必要ですよね」


 リナンがみんなに振り向くと、みんなは「とりあえず、まぁ」という顔をして頷いた。


「ぷっ。あはははは」


 シアンタは笑い出した。


「そっか。ボクに力を貸してほしかったから付いて来てたんだ。そういうことだったんだ」


「ちげぇよ……もがぁ」


 キコアが何か言いかけてけれど、エリーに口元を塞がれた。


「いいよ。後輩冒険者に手ほどきをするのも先輩の務めだもんね。よし。少しのあいだでいいのなら、剣術の先生になってあげるよ」


「じゃあ一緒に」


「うん。一緒にダンジョン、潜ってあげるよ。剣術の指導は休憩時間でイイよね」


「ありがとう」


 こうしてシアンタが仲間になったのだった。


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