表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/127

6.はじめてのお仕事

 神様からもらった『天職』『特技』はポンコツだった。この力でどう生き抜けと。

 さらに生まれ変わった先の親族関係も厄介だ。伯父は私のことをどう思っているのだろう。


 翌日から柵を補強することになった。村の外周を沿うようにして作られている柵だ。

 村を囲んでいる森にはゴブリンが住んでいて、夜中に村の畑の作物を盗んでいくことがあるかもしれない。だから村のまわりには柵が設けられている。

 柵といってもフェンスのような立派なものではない。牧場で見るような薄い板と丸太を組み合わせた木製の柵だ。これでも村に侵入しようとするゴブリンの意思を挫くことができるという。


 けれど今や村の脅威はゴブリンだけではない。ファイヤーゴブリンが南西に位置する隣村に現れたのだ。ファイヤーゴブリンがこの村にやって来てもおかしくない。

たとえゴブリンが村に侵入してきても盗まれるのは作物。ゴブリンだって多くの村人を相手にしたくない。大勢で挑めば逃げていく。そんな魔物だそうだ。

 でもファイヤーゴブリンは違う。多くの人間を焼き殺せる。隣村は全滅したのだ。そんな魔物が村に侵入してきたら、この村も全滅だ。隣村だって生存者はいなかったのだ。

 そこで太い丸太を使って柵を強化することになった。村の安全を確保するのだ。


「ファイヤーゴブリンなんて魔物は初めて聞いたがのう……。柵がどこまで役に立つのか」

「村長、何もないよりマシだぜ」

「騎士様が退治してくれるまで、魔物が来ないことを祈ろうぜ」


 お祖父さんの号令のもと、何人かの村人が森から丁度いい太さの樹を切り倒し、村の周囲に運びこんでくる。

 柵を作る村人は全員ではない。多くを畑仕事に向かわせている。


 この世界には貴族がいる。貴族はこの村に税を課しているんだ。

 収穫期になれば作物の何割かは納めなくてはいけない。残りの何割かの作物は、冬を越すための食糧になり、もう何割かは村を訪れた商人にお金や薬、新しい工具と交換してもらうために残しておかなくてはいけない。


 作物はいくらあっても足りない。たくさん作る必要がある。いっぱい畑仕事をするのだ。

 人手が必要なんだ。そもそも10人ほどの男性がファイヤーゴブリンに殺されてしまった。本当なら柵づくりに人員を割く余裕がない。


 そこで村の子供たちも柵づくりに加わることになった。ヘレラちゃんもいる。二日目から私も村の仕事に参加だ。

 村の南西側に集まり、森から運びこんだ木を丸太に加工して、本来あった柵の前に電柱のように、一部を地面に刺していく

 子供でも数人で何とか持てるような丸太は、先端をとがらせて、森のほうを向くように柵に立てかけていく。


「騎士に魔物退治を頼んだほうが早いんじゃねぇか」

「バカ言え。騎士のいる子爵様の街まで馬で一ヶ月以上かかる。それに一ヶ月も経てば子爵様の街から巡察員がやってくるんだ」

「そうだぞ。これ以上働き手を失うワケにはいかねぇ。巡察員にファイヤーゴブリンのことを話せば、街に戻って騎士を連れてきてくれるはずだ」


 作業をしながら村人たちが話す。

 昨晩、私の家である村長宅に村人が集まった。ファイヤーゴブリンの対策だ。村人だけで退治できそうにない。元冒険者の伯父も目撃者の話を聞いて退治を拒んだという。

 ならばリオハ村が作物を収めている貴族、オスニエル子爵に頼んでみようという話になった。

 子爵の部下には騎士団がいる。この世界の警察のようなものだ。騎士団ならばファイヤーゴブリンを退治できるだろうということになった。


 だけど子爵がいる街とリオハ村では馬で一ヶ月以上も離れているのだ。畑仕事で忙しいときに村人を旅立たせることもできない。

 その一方で子爵の部下には巡察員という人もいる。子爵が税を課している村を訪れて、村の様子を子爵に報告する役目を担っているという。

 そんな巡察員が、例年通りならば一ヶ月後には来るというのだ。

 ならばファイヤーゴブリン退治の依頼はこちらからお願いに行くのではなく、巡察員を待っていたほうが良いということになった。


 それまでにできることは柵の補強だ。補強できるまでファイヤーゴブリンが村に来なければ良いのだけれど。


「木の柵なのなら、ファイヤーゴブリンが来れば焼かれてしまうんじゃない?」


「ヘレラちゃん。柵が焼かれたら火事になる。魔物が来たことがすぐ分かる。そのあいだに私たちは遠くに逃げるんだよ」


「そっか」


 ヘレラちゃんが感心したように頷いてくれた。

 これは昨晩、伯父が言っていたことだ。私たちはファイヤーゴブリンには勝てない。村への侵入を阻止することも、完全にはできない。

 できることは、ファイヤーゴブリンの襲来をいち早く察知して、逃げ延びることなんだ。


 村長は高齢のため皆を見守っている。伯父は真夜中の見張り番のため、今ごろは家で寝ている。

 木の幹から枝を取り除いて丸太に加工することから始まり、穴を掘り、丸太が倒れないよう地面に埋めていく。丸太といっても樹皮はそのままだけれど。


 なかなか進まない。普段から丸太を作っているわけではない。ぶっつけ本番の素人仕事だから当たり前だ。

 二時間ほど作業を続けていたときだった。


「この木はずいぶん太いな。これじゃあ持ち上げられないぞ」

「随分がっしりした木だな」


 丸太に加工する木の条件。それは切り倒せる太さであること。

 次に森からこの村へ運搬できる大きさであること。運搬は引き車に載せて行っている。

 最後の条件、この場にいる人間が持てること。

 木の伐採担当の人が、人力での柵づくりには向かないような重さの木を寄こしてしまったようなのだ。運搬はできても、持ち上げて柵を作るとなると、重すぎるのかも。


「引きずってみるか」

「ほかにも丸太はあるぜ。扱いやすい物を使うか」


 数人の村人が話している。

丸太を地面に埋めるための穴は子供たちが既に掘っているので、あとは木の枝を剃り落として、丸太の先端を穴に差し込めばいい。

だけど伐採した木が重くて人力では穴に差し込めないのだ。


 もしかしたら、特技が役に立つかもしれない。


「ステータスオープン」


 小さくつぶやいても、私の左右に大きな画面が現れた。よし、ほかの人たちは気付いていない。どうやら画面は私以外には見えないようだ。

 運ばれてきた丸太に近づく。重いと言われて、枝がついたままの木材だ。

画面も一緒に移動してくれる。左側の画面、特技の欄から『腕力強化』を選んで『これに決める』に触れた。

そして、大人が重いと言って拒んだ木を持ち上げる。


「うおおりゃあ!」


 持つことができた。でも、この特技は三秒だけ。


「3……2……1……」


 木材を穴の方向へ放り投げた。

 みんなは何が起きているんだという顔をしている。

小さな女の子が重い木材を一人で放り投げたんだ。驚いているんだ。

 もう一度だ。特技が三秒しか持たないのなら何度も特技『腕力強化』を使えばいいんだ。


 そうやって三秒以内に、何度も木を放り投げて、ついに木材の先端を穴に差し込んだ。手を離しても倒れない。


「オジサン、この木材、枝の伐採が済んでいないけれど、このまま柵として使えますか」


「あ? ああ。魔物が村に侵入して来なければ、少しくらい不格好でも」


 周囲のオジサンたちは、穴に埋めた木材が雨風でも倒れないよう、根元を踏み固めて、蔦をあんだ編んだロープで地面に固定していく。


「フィリナちゃん、すごい! 力持ち!」


 ヘレナちゃんや、穴掘りをしていた女の子たちが駆け寄って来る。

 村人も「いつの間にあんな力を。奇跡か」「この木、たしかに重かったよな」「ああ、フィリナは何て力なんだ」と口にしていた。

 ヘレラちゃんは目を輝かせている。


「きっと神様がフィリナちゃんに力をくれたんだね。フィリナちゃん、大変だったんだもん。神様が味方してくれたんだよ」



☆☆☆



 お昼休み。村の女の人たちがお昼ゴハンを持って現場にやって来た。ゴハンはふかしたイモだ。

女の人たちは午前中、ずっと畑仕事をしていた。それなのに皆のお昼ゴハンまで用意してくれるなんて恐れ入る。ここの女性は元気なのだ。

 それに引きかえ、私はヘタレていた。


 あれから柵づくりをしていると、またも重い木材が運ばれてきた。持ち上げて、地面に掘られた穴に落とすために、特技『腕力強化』を5回使った。

 特技を何度も使って分かったことがある。身体からナニカが出て行って虚脱感が生まれたのだ。

 ナニカの正体。それは体力でも気力でもない。

 私の特技は魔法だ。すると『腕力強化』の魔法を使うたびに消費されていくナニカといえば、魔力なのだろうか。


 午前中に使った『腕力強化』は5回を2回分使ったから10回。私の全魔力を100だとしたら、一回の使用分は10くらいだろうか。

 これでは人生の役には立たない。なにせ1日10回で一回三秒しか持たない。

 私には伯父との確執がある。下手したら村を追い出されるかもしれない。そうなったら村の外で生きていかなくてならない。

 なんの仕事ができるのだろう。たとえば冒険者?


 オバサンの話では冒険者という仕事は出自・経験不問なんだそうだ。

 伯父から村を追いだされたら冒険者になるのも手かもしれない。だけど今の私に務まるか。魔法なんて三秒しか持たないのに。


「強敵と戦えばレベルアップできるのかな。魔法の使用時間や回数が上がったりするのかな」


 ゲームなら敵を倒せば経験値を得てレベルアップできる。


「敵かぁ」


「どうしたの?」


 そうつぶやきながらイモを食べていると、隣で食べていたヘレラちゃんが不思議そうな顔を向けてきた。


「ヘレラちゃん。この辺りに倒しても誰も怒らないような生き物っているかな」


「退治してほしい魔物ってこと? ゴブリンがいるでしょ。森に住んでるよ」


「そう言われれば」


「フィリナちゃん、ゴブリン倒そうとしていたんだよ」


「そうなの?」


 驚いた。どうして10歳の女の子がゴブリン退治なんて。

そもそも隣村へのゴブリン退治だって、どうしてついて行ったりしたんだろう。


「どうして」


「隣村まで行かなくても、森の中には木の実が自生しているの。さらに遠くには大きな川があって、魚が取れるんだ。手が空いた大人や子供が採りに行くんだけど」


「ふむふむ」


「帰り道にゴブリンに横取りされちゃうの。だから採りに行くのなら大勢じゃないとダメ。でも畑仕事で忙しい時期は大勢も手が空かなくて。だから皆ゴブリンのことを嫌っているの」


 それで森のゴブリン退治を。


「それだけじゃないよ」


「ん?」


「フィリナちゃんはみんなのために頑張ってた。将来は村長になるんだって。お父さんと一緒に頑張ってたんだ」


 すると周囲で食事していた女の子たちも近寄って来た。


「フィリナちゃんは病気のおばあちゃんのために森に行って果物を取ってきたこともあったんだよ」

「家の修繕のときは手伝ってくれたしね」

「男子がいじめてくるときは戦って追い返してくれたんだ」


 へぇ……。


「だからフィリナちゃんが隣村から帰って来なくて、大火傷で運ばれてきたって知って、みんなとっても悲しかったんだ。でも奇跡が起きて良かったよ」


 ヘレラちゃんが笑顔を送ってくれる。

 誰かの手がバンダナを巻いている頭にポンっと触れた。

 振り返ればオバサンだった。


「アンタは村のために良くやっていたよ。私の親友、つまりアンタのお母さんが亡くなったときね、アンタは泣きながら、泣き叫ぶのをこらえながら、自分がお父さんを助ける。自分がオバサンの親友になってやるって言ってくれたんだ」


 フィリナちゃんは、どうやら正義感が強く、優しい子だったようだ。

いや、一生懸命生きていた子だったんだ。村長の孫娘として頑張っていたんだ。

 子供でも自分にやれることを探していた。

 ところで、私には、何ができるんだろう。


おはようございます。

本日もお読みいただきありがとうございます。

第7話は12時すぎに投稿します。

今日もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ