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59.新年とお誕生日

第1層を突破しました。

なぜか外に出てしまったようです。

 ダンジョン潜入五日目。お昼過ぎのこと。

 私たちはどういうワケか、太陽の下に辿り着いた。


「ここは?」


「はい。ここはバナバザール侯爵領の東側にある谷の底です。ダンジョン第一層の終点なんです」


 リナンのはなしによると、第一層と第二層に魔王竜の魂の力が籠らないよう、バナバザール侯爵たちがダンジョンの途中に外へ抜ける通路を作ったんだという。


 ここから魔王竜の力は、ある程度は外部に発散しているようなのだ。

 外部。それは侯爵領の東側を南北にかける谷の底だ。


 とっても広い。

 谷底といっても地面は平面に整備されていて川も流れているから過ごしやすそうだ。

 それどころか。


「多くの人がいますね」


「なんだか祭りみたいだな」


 ルティアさんとキコアの言うとおり、多くの人がいる。

 みんな容姿からして冒険者だ。

 第一層を抜けて、ここまで辿り着いた人たちなんだろう。

 屋台がたくさんあり、屋外のテーブルもあってお祭りみたいだ。


「ここでは冒険者向けに屋台を出す商人も来ているんですよ」


 それにしても、ここの冒険者たちはお酒をあおって宴会騒ぎだ。


「そうか。分かりましたわ。新年になったのですわね」


 エリーがハッとした表情をしている。

 新年? この世界にもカレンダーのようなモノはある。

 リオハ村の私の家にも、紙ではないものの、板に書かれたカレンダーがあった。

 この世界にも新年があるんだな。


「そのとおりですエリーさん。リナンは10歳になりました」


「私は14歳です」


「俺は13歳だな」


「私は11歳。フィリナも同い年ですから11歳ですわね」


 新年になるとみんな歳をとるんだ。

 そうか、この世界は数え年なんだ。


「みんな、お誕生日おめでとう」


 私がとっさに口をすると、みんな不思議そうな顔をした。


「誕生日?」


「たしかに誕生した日は皆さん違うとは思います」


「祝福されたのです。ここはありがとうと答えますわ」


 みんなは笑顔になってくれた。



☆☆☆



 谷底は第一層と第二層のあいだだという。


「だったら私たちは第一層を攻略したっていうことだね」


「はい。そのとおりですフィリナさん。攻略おめでとうございます」


 リナンが深々と頭を下げてくれる。

 それにしても、ここは活気に満ちている。

 多くの屋台が軒を連ねて通りをつくり、そのあいだではテーブル席があり、冒険者たちが笑顔でお酒を飲んでいた。


「特に新年ですから、いつも以上にお祭りなんです」


 リナンに連れられ、私たちもテーブルにつく。

 向こうでは別の冒険者が火を起こして肉を焼いている。

 きっとダンジョンで狩った魔物の肉なんだろう。

 勝手に火を起こしても怒られないみたいだ。


 さらに向こうでは多くのテントが見える。

 ここで宿泊もできるとリナンは言う。

 これはお祭りを通り越して屋外フェスのようなノリだと思ってしまった。


「あら。あなたたち」


 せっかく屋台があるんだ。

 お昼ゴハンは何にしようか、どの屋台のメニューにしようかとみんなで相談したところ、いきなり声をかけられた。

 ダンジョンの入口で勝負をふっかけてきた男性だ。仲間も引き連れている。


「無事に第一層は抜けてきたみたいね」


「あのときはケガをさせてしまって、すいませんでした」


 私が謝ると男性は笑い飛ばした。


「こっちはベテランCランクよ。あの程度の攻撃、慣れているっての」


「そうはいってもリーダー、痛がってダンジョン潜入が一日遅れましたよね」


「黙らっしゃい!」


 男性は仲間の冒険者の頭を叩いた。

叩かれた冒険者は顔面を地面にぶつける勢いで転倒する。大丈夫なのだろうか。


「それで、どう? 良い素材は取れた?」


「そりゃ、もう!」


 男性に聞かれたキコアは嬉しそうに返す。


「それにしても、そちらはどう? やっぱり魔物、強くなっている?」


 男性の目は私たちでなく、リナンに向けられた。

 ダンジョンの潜入経験のあるリナンに聞いたんだろう。


「はい。見たこともない大きなグランドスネークがいました」


「そう。私たちが潜入した通路にも、これまで類のない強力な魔物がいたわ。やはりダンジョンの魔物は日々強化されているわね。このままではいずれ冒険者の手に余るようになるわよ」


 そしていつの日か、魔物の力が冒険者を上回り、魔物がダンジョンの外に出てくる。

 そうなる前に私たちはダンジョンの深層に眠る魔王竜の魂を無効化しなければならないんだ。

 男性とリナンの顔に暗い影が落ちた。そのときだ。


「地震か?」


 キコアの言うとおり地面が揺れはじめ、その揺れは次第に大きくなっていく。

 この世界にも地震があったのか。


「この揺れ、おかしいです!」


 ルティアさんが私とリナンを抱きしめる。


 ズガァァン!


 何かが爆発したような音と共に、多くの人の悲鳴が上がった。


「あれは魔物ですわ! 魔物が地中から現れたのですわ!」


 エリーの言うとおり、遠くに巨大なモグラのような魔物の姿が見える。

 さっきの爆発音は魔物が地面を割って出てきた音なんだ。


「あれはビッグモールです。記録では第3層に生息している魔物がどうしてここに」


「それだけ魔王竜の魂が活性化し、魔物を変容させているということでしょうか」


 リナンの言葉にルティアさんが答える。


「まずいわね。ここには第3層まで潜れる冒険者、ろくにいないわよ。みんな餌食になるわ」


 男性と仲間たちはビッグモールへ走りだした。


「ルティアさん、私たちも!」


 私たちもビッグモールへ急行した。




 地中から突如現れたビッグモール。

 時おりうしろ足で立つ姿は高さ10メートル弱。

 三階建の建物、もしくは怪獣を想像させる。


「うおおおっ!」


 多くの冒険者が挑むものの、魔物は圧倒的な体格差でものともしない。

 Cランクの男性は服を脱ぎはじめた。


「なぜ!」


「だって服が汚れるじゃないの」


「うりゃぁぁぁ!」


 威勢のいい掛け声と共にビッグモールへ立ち向かうのは女の子だ。

 青みかかった髪をポニーテールでまとめ、背中の剣を抜刀して挑んでいく。


 あの子は確か……そうだ。

 初めてこの街に来た晩、ホテルの支配人に強制連行せれそうになった女の子だ。

 朝になったら姿を消していたから、どこかに行ったんだろうと思っていたけれど、こんな所に。


「くらえぇぇ!」


 女の子の剣は不思議な光沢を放っていた。

 なんだか惹きつけられる。

 そんな剣でビッグモールに斬りかかろうとする女の子。


「あえて正面から!」


「あいつ、料亭にいたヤツだよな。たしかシアンタ」


「そうですわ。私たちに実力の違いを見せつけるために、あえて正面から飛び込むなんて」


 ルティアさんにキコア、エリーが驚愕する中、女の子……シアンタはビッグモールに正面から挑み……。


「うっぎゃぁぁぁ!」


 そして前足で横へ殴られ、吹き飛んで行った。

 え? 弱いの?

 シアンタという女の子は完全にのびていた。

 え? 弱いの?


 ビッグモールは標的を屋台へ向けた。

 店主たちが悲鳴を上げて逃げていく。


「このままじゃ危ない。ブルカノドン×火炎!」


 炎の弾丸が魔物の足に命中。歩みが止まる。


「私たちでやっつけよう。キコア、素材とか、気にしなくてもいいよね」


「ここには人がいっぱいいるからな!」


「ルティアさん、魔物の特徴、わかる?」


「聞いたはなしでは弱点は特にありません。ただ」


「ただ?」


「その肉はとても美味だと」


 攻撃は通るってことか。だったら全員で攻撃だ。

 ルティアさんは猫の妖精ミックと妖精憑依。

 私はアギリサウルス×俊敏性強化(中)で挑む。


「ギャオオン!」


 立ち上がるビッグモール。

 私の剣撃が通用する。

 素早い動きと高い跳躍ができる私とルティアさんが魔物の上半身に攻撃しつつ翻弄し、キコアとエリーが魔物の下半身に攻撃を加えていく。


「すげぇ……」


 周囲の冒険者たちが目を丸くしていた。


「お、おいっ! 横取りするなよ」


 この声はシアンタだ。

 魔物に吹き飛ばされて伸びていたシアンタが、こちらに向かってくる。


「ソイツはボクが倒すんだぁ!」


 シアンタがポニーテールをなびかせながら魔物に突っ込んでくる。

 さっき魔物に殴られたせいか、ところどころ出血している。

 しかも顔はなんだか赤い。またお酒を飲んでいたんだろうか。

 魔物の目が光る。真っ直ぐ向かってくるシアンタに標的を変えたようだ。


「危ない!」


 私はシアンタに駆け寄り、体当たりをする。

 その直後、ビッグモールの巨大な手が迫り、私は吹き飛ばされた。

 同時に身体に痛みが走る。

 見れば服が切り裂かれ、お腹にうっすらと5本の斬りこみが走っていて、血が滲みはじめる。


 魔物の手を見れば、モグラだけあって長い5本の爪が生えている。

 私はあれで斬られたんだ。

 もしアギリサウルス×俊敏性強化(中)の力で身体を強化していなかったら、切り刻まれていたことだろう。


「もしキコアやエリーにあの攻撃が向いたら……」


「じっとしていなさい」


 振り返ると、さっきの男性が私に両手をかざしていた。

 両手から放たれる光。私の傷は癒えていく。


「これは、回復魔法ですか」


「そうよ。私の天職は魔法使い。特技は回復魔法。僧侶学校では言動を注意されて退学になったわ。だから冒険者になったの」


 男性なのに女性的な振る舞いが、僧侶学校を怒らせたのだろうか。


「ありがとうございます。おかげで傷が治りました」


 傷は完全回復だ。この人、スゴイと思う。

 この力で何回もダンジョンに潜入できたんだな。


「あなたこそ、よその冒険者を守るなんて、やるじゃないの。そんな子、好きよ」


 男性から誉め言葉をもらいながら、ルティアさんたちの動きを観察する。

 攻撃は通っているようだけれど、魔物だって強いぶん、なかなか倒れない。


「攻撃は通る。ここは私が戦いに参加するより、三人が強くなれれば」


 四人で攻撃するよりも、三人を強くして攻撃したほうが効果覿面こうかてきめんだ!


「ルティアさん、キコア、エリー! これから強くさせるよ。時間は1分間!」


「マルネスと戦ったときの魔法だな!」


「お願いします!」


「あのときと同じなら、確実に倒せそうですわね!」


「いくよ! ダトウサウルス×付与術!」


 三人が光り輝く。

 そしてその動きは、より機敏に、攻撃はより強くなり魔物は悲鳴を上げはじめた。


「なんだ? 動きが良くなったぞ」


「ナックルの子、一撃が尋常じゃないって。あ、魔物が倒れたぞ」


「猫耳の子の動き、本当にDランクなの? 私以上じゃない?」


 エリーたちの戦いを見ている冒険者が歓声を上げる。

 Cランクの男性はルティアさんの動きに驚嘆していた。

 するとダトウサウルス×付与術の力は、私の仲間をワンランク以上引き上げる効果があるってことかな。


 三人の攻撃を受けたビッグモールは何とか立ち上がり反撃の機会をうかがっている様子だ。


「そんなこと、許しませんわ!」


 エリーが跳躍、拳を引いて魔物の胸元に狙いを定める。

 ダトウサウルス×付与術の力で、跳躍力も上がっているんだ。


「魔物だって心臓部なら。特技! 全力放出!」


 エリーの必殺拳の衝撃は、ビッグモールの胸元を突きぬけ、背中まで貫通していった。


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