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56.ダンジョン突入

 私たちはダンジョンへ入るための列に並び直した。


「フィリナ。素材確保のためにも、魔物を消し炭にするんじゃないぞ」


「ごめんねキコア」


 私たちの目的はダンジョン攻略。

 立ちはだかる魔物は倒さなくちゃいけない。

 でも私たちにだって生活がある。

 生活費を稼ぐには魔物の素材が必要だ。

 魔物は一撃で燃やしつくしてはいけないんだ。


「あの、お姉さんがた!」


 列に並ぶ私たちを可愛い声が呼びかけてきた。

 見れば幼い女の子が大きなカバンを背負っている。


「あの、ダンジョン潜入は初めてとお察しします。案内人は御入り用ではないでしょうか」


 案内人。ギルドの資料で見た。

 ダンジョン初心者の冒険者に向けて、案内を生業としている職業の人間がいる。

 それが案内人。

 こんな小さな子でも案内人をしているんだ。

 たしか案内人は商人ギルドの人間だと資料に書いてあった。


「ごめんな。俺たち、そんなに金は持っていないんだ」


「そうですか。でも、せめて第1層だけでも雇ってくれませんか。リナン、お姉さんがたに興味があります」


 女の子は続けて話しかけてくる。

 私が一撃でオークリーダーを葬ったからかな。

 彼女は「是非に」という眼差しをこちらに向けてきた。


「資料で読むのと、実際に目にする状況では差異があるかもしれません。円滑にダンジョンを攻略するためにも、案内は不可欠かもしれませんね」


「庶民を雇うのも貴族の運命ですわ。あなた、代金の支払いはダンジョンで得た素材を売却してからでもよろしくて?」


 ルティアさんの意見を受けたエリーが、案内人の子に提案する。


「ありがとうございます! 私はリナンといいます。よろしくお願いいたします!」


 リナンと名乗る小さな案内人は深々と頭を下げた。

 この子は髪の長い色白の子だ。

 両サイドで三つ編みにした長い髪が艶やかに煌めいていた。

 聞けばまだ9歳だという。今の私よりも1歳年下だ。


「いろいろあるんだろうな」


 キコアがリナンを見ながら、寂しそうな目をする。

 リナンに家族のことや、この職業を選択したこと、たくさん聞こうと思っていた私は、それをやめた。


「最後はオマエたちか」


 再びダンジョンの入口でギルドの職員に冒険者証を見せる。


「オマエたちは強いか弱いかわからんな。とりあえず88番目の入口から入ってくれ。比較的難易度は低いはずだ」


 そう言われて私たちは88番目の入口に行くよう促された。

 入口には番号が振ってある。88番目は一番端だ。


「ついにダンジョンに潜入ですね」

「この先に金の元がウジャウジャいるんだな」

「キコア、私たちの目的は深層に眠る魔王竜の魂、その無効化でしてよ。お忘れなく」

「そういうエリーの目的って侯爵への挨拶じゃなかったのかよ?」

「うるさいですわね。あなたがた庶民を守るのも貴族の務めですのよ」


 ルティアさんたちがワイワイと騒いでいる。

 ダンジョンを前にしてはしゃいでいるんだな。


 私は小さな案内人に目を向けた。


「リナン、私たちはダンジョンのこと、何も知らないの。よろしくね」

「はい。案内はリナンにお任せ下さい!」


 私たち5人はせーのっ、でダンジョンに踏み込んだ。



☆☆☆



 ダンジョンの中は真っ直ぐな通路になっていた。

 天井、壁、床とも石畳。

 等間隔に魔道具と思しきランタンが壁にくっついている。


 さらにところどころに光るこけが自生している。

 太陽の光が届かない場所だというのに、とても明るい。


「魔物、出ねぇな」


 鋼鉄の槍を手にしたキコアが暇そうにつぶやく。


「はい。ダンジョンといえど潜入して30分ほどは魔物は出ません。先ほどのオークリーダーが異常なのです」


 リナンの言うとおり、何事もなくグングン進む。

 誰も喋らなくなった時点でリナンが口を開いた。


「ここで改めて自己紹介させていただきます。商人ギルドに所属しておりますリナンと申します。このたびは私を雇用して頂きありがとうございました」


「こちらこそよろしくね」


 私たちも自己紹介をする。

 エリーの出自やルティアさんの経歴に驚くリナン。

 魔竜を撃退したこともあるというキコアの言葉に、リナンは当時の状況を詳しく聞いてきた。


「皆さん、とても低級冒険者には思えませんが……。そろそろダンジョンについて解説してもよろしいでしょうか」


「もちろん。聞かせて」


 リナンがはなしてくれたダンジョンのはなしは、おおかたエリーが魔空船の中で説明してくれたとおりだった。

 でも新しい情報もあったのだ。


「ダンジョンはもともと、人類に味方する竜、つまり聖竜の墓場だったのです」


 80年前、暗黒大陸に乗り込んだ勇者一行は、魔王を守る13体の魔王竜と戦う必要があった。

 しかし13体も相手にしていたら、勇者一行の戦力は消耗してしまう。

 魔王の下へ辿り着けないのだ。


 そこで『転移』の特技を持つ魔法使いが、13体の魔王竜を『特定の場所』に『転移』させた。

 かくして勇者一行は魔王と『複数対1』の戦いに持ち込むことができ、そして勝利することができた。


 魔王竜が『転移』させられた場所。

 つまり『特定の場所』は聖竜たちの墓場だったそうだ。


「聖竜の墓場には多くの聖竜の魂が眠っています。生きている聖竜の力は強化され、魔王竜の力は弱体化。聖竜は人間たちと共に魔王竜を倒しました」


 しかし魔王竜は魂だけになっても、人間や聖竜に対しての憎悪を捨てなかった。

 戦いの中で満身創痍となった聖竜は、死を選び、先祖らの魂と共に魔王竜の魂を封じ込めた。


「聖竜から、聖竜の墓場を教えてもらった人類は穴を掘り、穴の中で『転移』されてきた魔王竜と戦いました。その穴からは多くの聖竜の鱗や骨が出土されたと言います」


 すると、ダンジョンという場所は聖竜の墓場だったんだ。


「そして戦いののち、魔王竜の魂が地表に出てこないよう、勇者の一人が『封印』を施したと言います」


「『封印』?」


「特技のひとつです。この場合の封印は土をかけて穴を埋め、魂を封じる魔法だったといいます」


 リナンは、そう答えてくれた。


「だけど魔王竜の魂は死んでいなかったんだろ。その土地には地下に続く通路や階段ができてダンジョンになったって」


「はい。そのとおりです」


 リナンはキコアに頷いた。


「魔王竜の魂によって、ダンジョン深層部に近づくほど、通路や階段は日ごとに変容していきます。悪しき魂によって罠が張られ、引き寄せられた魔物は凶暴化。通路や階段は魔物が住みやすいように現れたものだと言います」


「つまり魔王竜を封じ込めていたはずの聖竜の魂の力が、ついに魔王竜の魂の力に負けたということですか」


「はい。魔王竜が封じられたのが80年前。この地が活性型ダンジョンに変貌したのが約40年前だと言います。お姉さんの考えは正しいかと思います」


 ただの土にすぎなかった場所が石畳の通路になったのは、魔王竜の魂の仕業だってことなのか。

 じゃあ、等間隔に設置してあるランタンは何なんだろう。

 ギルドの資料によれば、ダンジョンには魔力の脈が張り巡っていて、その魔力を源にランタンは光っているという。

 光る苔も魔力を栄養として光っているそうだ。


 魔王竜の魂の力でダンジョンが生まれた。

 それは魔物たちが溢れ出てくる現状から納得できる。

 でもランタンって、魔王竜が作ったダンジョンにしては、冒険者にとって都合が良いと思うんだ。




 しばらく歩くと通路の真ん中に穴があった。


「これは落とし穴です」


「どうして落とし穴が丸見えなのでしょうか」


「はい。何年も前の冒険者が罠を解除したからです」


 ルティアさんにリナンが答える。

 落とし穴を覗きこむと、そこには何もない。

 かつては尖ったトゲが底にあったそうだけれど、何年も前の冒険者が危ないからと、トゲを撤去したそうだ。


 またしばらく進むと、通路の一部に窪みがあった。

 窪みのそばには立て札がある。


「えっと。これは罠?」


「はい。そのとおりです。窪みの横の壁をご覧になって下さい。壁に穴がありますよね。ここから毒矢が出てくる仕組みになっています」


「リナン。毒矢は?」


「危ないので何年も前の冒険者が撤去しました」


 何だかヌルいな。


「第一層は『4分の1地点』『4分の2地点』『4分の3地点』、『4分の4地点』、それぞれのあいだに安全区画があります。そこは罠もなく、魔物もやってきません。眠るのなら、そこまで目指しましょう。『4分の2地点』の先には転移の魔法陣もあります。ケガをして地上に戻りたいときは、それを活用しましょう」


 リナンに説明に私は首を傾げる。

ダンジョンって、なんだか冒険者に優しいと思うんだ。


 道が二手に分かれていた。壁に文字が書いてある。


「えっと……順路はこっち?」


「はい。これも何年も前に冒険者が書いてくれたものですね」


 リナンは頷く。

 そういえばギルドの資料にはダンジョンの地図まであった。

 このダンジョンって何なんだろう。



☆☆☆



 ダンジョンに潜って4時間経過。

 時計は御隠居さんが持たせてくれた。

 ほかにもポーションまで譲ってくれた。ありがたい限りだ。


「お、やっと魔物のお目見えだぜ」


 見れば中型犬ほどの大きさのネズミが、集団が迫ってくる。


「あれはブラックラットです。特徴はありませんが気をつけて下さい」


 私たちはカバンをリナンに預けて武器を構えると、魔物に立ち向かった。


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