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55.ダンジョン入り口前の広場

「今日からいよいよダンジョンだな」


「資料は読みこみました。道具も揃えました」


「さぁ行きますわよ」


 この街に来て三日目の早朝。

 初日の晩に泊まった宿から出た私たちは、重い荷物を背負ってダンジョンの入口にやってきた。


 早朝だけれど10組ほどの冒険者パーティーが入口で列を成している。

 入口広場では冒険者ギルドの職員がダンジョンへの入場手続きを行っていた。

 広場にはほかにも朝食を売っている露店や武器屋の露店もある。


「案内人はいりませんか。ここに有能な案内人がいますよー」 


 大きなカバンを背負った男女が声を張り上げている。

 案内人。ギルドの資料で読んで知った職業だ。

 冒険者と共にダンジョンに潜り、ダンジョンの案内はもちろんのこと、魔物退治や罠の回避をサポートする職業があるのだ。


 ダンジョンの中には、転移の魔法陣がある。

 転移の魔法陣に入れば、ここ入口広場の魔法陣に転移ができる。

 ケガをしたり、攻略を断念して街に戻ろうと考えたとき、わざわざ来た通路を引きかえさなくても、地上に戻って来られるシステムなのだ。


 なんだか冒険者にとって都合がいいと思えるのは私だけだろうか。

 冒険者の列に並び、自分たちの入場の番を待つ。


 ダンジョンの入口は88つになる。

 先に入った冒険者と、あとから入る冒険者。なるべく被らないよう、ギルド側が配慮して案内してくれるのだとギルドの資料には書いてあった。


 前に並ぶ冒険者たちが、次々とダンジョンの入口に案内される。

 私たちの番がまわってきた。


「各自、冒険者証を見せろ」


 言われた通り、私たちは入口に立つギルド職員に冒険者証を見せた。


「拝見する。DランクとFとF。そしてGランクの4名……は? 平均ランクがFランクだと?」


 ギルド職員は硬直してしまった。


「あの、どうしたんですか」

 恐る恐る聞いてみる。


「いや、平均Fランクって。ダンジョンに潜るには平均Dランクが妥当というのがギルドの常識だが」


「いけませんか?」


「いけなくはないが。とくにGランクのキミ、まずは街のネズミ退治から始めてはどうだ。ダンジョン潜入は、ランクを上げてからでも」


 なるほど。底辺ランクだと、こういう扱いを受けるのか。


「でも私、冒険者になって2カ月なんです。Gランクなのは当り前ですよね」


「ああ。だからこそ、ダンジョンなんかではなく、下水道でネズミ退治をだな」


「オイ兄ちゃん。フィリナはとっても強いんだ。それに俺たちは魔竜を撃退したこともある。心配ないって」


「魔竜を撃退? そんなバカな」


 キコアの言葉にギルド職員が困惑する。


「とにかく今のオマエたちにダンジョンは危険だ。考え直せ」


 むむむ。ランクが低いとこんなことになろうとは。

 キコアがなんとかならないかとギルド職員に迫ったときだった。


「まったく。最近の若い冒険者は身の程知らずね」


 振り向けば別の冒険者パーティが呆れた顔をして立っていた。


「職員さんに迷惑かけるもんではないわよ」


 声の主はパーティのリーダー格と思われる男性だ。

 身長は平均。坊主頭。肩にはハートの刺青。なぜか言葉づかいは女性的だ。


「な、なんだよオッサン?」


「あなたたちがどれだけ実力不足でダンジョンに挑もうとしているか、教えてあげるっていうの」


 困惑するキコアを余所に、ハートの刺青の男性は職員に顔を向ける。


「職員さん、この子たちは私たちが預かるわ。いいでしょう?」


「え? ああ」


 それをウィンクで答えた男性は、私たちを手招きして列から離れた。


「何を?」


「実力の差を教えてあげるっていうの。私を満足させる戦いを見せてくれなきゃ、到底ダンジョンの第一層で死に絶えるでしょうね。それを分からせてあげる」


 ダンジョンは第1層から第4層という4つの区画に分かれていると、ギルドの資料に書いてあった。

 地下4階というワケではなく、4つの難易度のようだ。

 奥に進めば進むほど、突破は難しくなる。


 どうして4層までなのか。

 それは先人が第4層の途中までしか到達できなかったからだ。

 もしかしたら第5層があるのかもしれない。

 

 私は男性に聞いた。


「逆に満足させれば、ダンジョンに入れてくれるんですね」


「そうよ。できればのはなしだけれど」


 男性は広場の中でも、列や露店から離れた場所に立った。

ここで男性と戦えというのだろう。

 ギルド職員や列を成す冒険者。案内人や露天商たちも、ジッとこちらをうかがっている。


「フィリナさん、どうします?」


「私のせいで平均ランクが落ちたんだもん。私があの人と戦ってみる」


 心配するルティアさんに答えた私は男性と正対する。


「ん? Gランクの子よね。いいわ。後輩に力の差を教えるのも先達の運命。ダンジョンで可愛い命を散らせるくらいなら、ここで私が教育してあげるわよ」


 男性は上着を脱いだ。

 平均的な体型だと思っていたけれど、脱げば見事な細マッチョだ。

 ……え? なぜか男性はズボンも脱ぎ出した。黒いブーメランパンツ。

 この世界にもあったのかブーメランパンツ。

 股間の盛り上がりが顕著だ。なんだか気が滅入る。


「下半身の筋肉も見事なものですわね」


 エリーの感心した声が聞こえる。

 侯爵の街に来る前の特訓で気付いていたけれど、エリーは男性の筋肉が大好きだ。

 ムーアさんとの特訓のあと、休憩時間は恋する少女のようにムーアさんの筋肉を眺めていた。

 ムーアさんではなく、ムーアさんの筋肉に紅潮していた。

 従兄姉さんのはなしでは、エリーの父親はずいぶんな筋肉ムキムキだったという。


 男性は荷物から鞘ごと剣を抜いた。

 そして抜刀せず、鞘に納めた状態の剣を構える。


「これくらいの戦力差が合っていいと思うの。だって私はCランク。ダンジョンへは、もう20回以上は潜っているベテランなんだから」


 パンファギア×収納から剣を取り出す。

 こちらも抜刀せず、剣を鞘に納めた状態で構える。


「収納の魔法! あなた魔法使いだったのね。でもGランク? おかしいわね。まぁいいわ。あなたは魔法を使っていいわよ」


「ありがとうございます。あの、あなたを満足させる方法って、具体的には私が勝てばいいんですか」


「そのとおり。でも、できるかしら」


 アギリサウルス×俊敏性強化(中)!

 素早く駆けて男性の背後へ。

 そして跳躍。回し蹴りを男性の頭部へ直撃させた。


「ぎゃわぁっ!」


 吹き飛ぶ男性。

 蹴られた後頭部に手を当て、立ち上がろうとするも、よろけて座り込んでしまう。


 私は側頭部を蹴ろうとした。

 でも男性は私の動きに合わせて振り返ったんだ。

 だから後頭部に当たってしまった。


 さすがCランクにもなれば、俊敏性強化(中)の速さでも目で追えるみたいだ。

 男性はなかなか立ち上がれない。


「あの、大丈夫ですか?」


「くぅ……バカな。この私があんな子供に」


 痛そうだ。なんだか悪いことをした。

 謝ろうと近づいたときだった。


「うわぁ! ダンジョンから魔物が出てきたぞ!」


 見てみれば、ダンジョンの入口から体格のいい鬼のような魔物が姿を現していた。

 ダンジョンは魔物が湧く。だから魔物が出てくるものだ。

 でもみんなが驚いているのは?


「資料で見たぞ。あいつはオークリーダーか?」


「そうですわ。でも資料ではダンジョン第二層の後半で現れる魔物だと言います。どうして入口まで?」


「それだけ最近のダンジョンは、魔王竜の力が活性化されている。ただのオークが強化されて第一層にも現れるってことだ。それにしても、入口にオークリーダーまで」


 キコアとエリーの疑問にギルド職員が答える。


「ここは私が……」


 蹴りとばした男性が立ち上がろうとするも、強く蹴り過ぎたのか、座り込んでしまう。


「ここは私が戦います!」


 オークリーダーへ駆ける。

 えっと。オークより強いんだよね。

 だったら普段の5倍くらいで良いかな。


「ブルカノドン×火炎! 消費魔力5倍!」


 手から放たれる魔法の火の玉がオークリーダーを直撃。黒焦げにした。

 黒焦げは転倒。もう動かない。


「みなさん安心してください。やっつけましたよ」


 ところがみんな、黙ってしまっている。

 やっと聞こえてきた言葉は。


「一撃だって?」

「どうなってるんだ」

「まて、あの子はGランクでななかったのか?」


 せっかく倒したのに、喜んでくれないの?


「フィリナ~。素材」


 しまった。怒るキコアに私は頭を下げたのだった。


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