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53.魔空船とダンジョンのこと

 ダンジョン攻略をすることになった私たち。

 ダンジョンのあるバナバザール侯爵領は、王国の東側にあるということで、魔空船を利用しなければ、とてもじゃないけれど辿り着くことはできない。


「うわっ! でけぇな」


 キコアが驚きの声を上げた。

 停車場に停まっている魔空船だ。

 確かに大きい。キャビンなんて豪華客船に匹敵する。

 『気ほう』なんてとてもとても大きい。

 これが魔空船なんだ。


 魔剛馬は一週間の訓練の甲斐あってか、素人ながらも乗りこなすことができた。

 おかげで出発の時刻に間にあうことができた。


 停船場の職員に魔剛馬を預け、私たちは魔空船に乗り込む。

 案内された所は二段ベッドがふたつある部屋。

 リオハ村の私の部屋よりも断然広い。


「御隠居様、気をまわしてくださったみたいですね」


 ルティアさんの言うとおり、この部屋は大商人か低級の貴族が宿泊する部屋のようだ。

 おかげで快適な空の旅ができそう。


「お、浮かび上がるぞ」


 キコアが部屋の窓に張り付いて外を眺める。

 私たちも外を見ると、船内に響く大きな起動音と共に魔空船が地上を離れていった。


「私、魔空船は初めてです。手紙を届けてもらうのに利用したことはあるのですが」


 ルティアさんもワクワクしている。

 そういえば前の世界でも飛行機には乗ったことなかったな。

 魔空船は遠くに住む相手に手紙を届けてくれる業務も行っているそうだ。


「船内を冒険しに行きましょう」


 エリーが10歳の子供相応に駆けだした。

 私たちはちょっとはしゃいだ気分でエリーのあとをついていった。



☆☆☆



「では、皆さんにダンジョンについて説明しますわ」


 船内の食堂で遅めの昼食をとり、部屋へと戻って来ると、エリーはベッドに座るなり、そんなことを言った。


「おじいちゃまからダンジョンについて三人に詳しく説明するよう言われています」


 そうなんだ。

 私とルティアさんはエリーの対面のベッドに座り、キコアは床にあぐらをかいてエリーの言葉に耳を傾けている。


「さて、ダンジョンの発祥は80年前。魔竜大戦の時代までさかのぼりますわ」


 魔竜大戦。この世界で起こった、人類と魔竜との戦いだ。

 エリーのはなしでは100年前に突如、王国から見て北の海に暗黒大陸と呼ばれる大地が浮上。

 そこに住まう魔王が魔竜を使役して世界中に宣戦布告。

 王国や帝国は魔竜に蹂躙された。


 魔竜、そして魔竜の力によって強化・凶暴化・大繁殖した魔物に対抗していた国々は数年後に一致団結。

 その時期になると民衆からなる国境を越えた義勇軍が、冒険者ギルドの前身として誕生したそうだ。


 何度か各国の強豪が一丸となり、暗黒大陸に乗りこんで魔王を討伐しようとしたらしいけれど、魔王の周囲には魔竜の長となる13体の魔王竜がいた。

 魔王を攻めれば魔王竜たちがやってくる。

 魔王竜から攻めれば、ほかの12体が加勢にくる。

 とてもじゃないけれど、同時に相手にすることはできず、戦争は長期化したという。


 魔竜との戦いから20年。

 のちに勇者と称えられる天職持ちが複数人現れる。

 その中の一人は天職・魔法使い。特技が『転移』。

 その人は『転移』を使って、あらわれる魔王竜を特定の場所へ転移させていった。


 特定の場所。

 魔王竜に合わせて13か所が用意され、そこでは強豪が待ち構えていて転移されてきた魔王竜を個別に討伐していった。

 さらに人類に協力してくれる竜である聖竜も加勢して魔王竜を無力化。


 一方、魔王竜の援護を得られなくなった魔王は、勇者たちに倒せれ、これにて魔竜大戦は終結したそうだ。


 なお、暗黒大陸で『転移』を喰らわせられたのは魔王竜だけでなく、取り巻きの魔竜も何体か『転移』させられたらしい。

 ひょっとして、その中の一体が前の世界にやって来て、私たちを殺したのかな。


「そのはなしとダンジョン、何の関係あるんだ?」


「ここからが本題ですのよ」


 キコアの疑問にエリーが答える。


「魔王竜が転移させられた特定の場所。そこは聖竜にとって特別の場所でしたの。戦いで傷ついた聖竜は、最終的に魔王竜を地面の底に引きずりこみ、共に死んだと言いますわ」


 その後、勇者の一人であり、『封印』を特技とする魔法使いが、その場所を封印。

 これにて魔王竜がもたらす脅威から人類は救われたと思われたそうだ。


「けれど、そうはいきませんでしたのよ」


 魔王竜の魂は生き続けていた。

 深い地の底に沈んだ魔王竜の魂は、地下から地表まで通路を作り、階段を造った。

 そして周辺の魔物が魔王竜の魂の力に導かれ、ダンジョンを住処にして強化されて繁殖。

 魔物たちはダンジョンから出てきては周囲に被害を与えるんだという。


 このように魔王竜の魂が生きている土地は活性型ダンジョン。

 一方で魔王竜の魂を抑え込むことに成功している土地は非活性型ダンジョンと呼ばれているそうだ。


「じゃあ活性型ダンジョンの周りに住んでいる人たちは大変だ」


「それが、そうでもないそうですわ」


 私の言葉にエリーが意外な返しをする。どういうこと?


「たしかに活性型ダンジョンは魔物を引き寄せ、魔物が生まれ、魔物が湧き立ちます。けれど魔物の肉、皮、骨は素材になる。すると冒険者が集まる。冒険者に向けの商売で生計を立てたい者が集まってくる。すると、どうなると思います?」


 そうか。街が大きくなったり、そこに住む人たちの生活が成り立つこともあるんだ。

 魔物を狩った冒険者は素材を売ることができる。

 売ったお金で食事やお酒を飲むことができる。

 武器屋や宿屋、薬屋だって儲かるんだ。


「ダンジョンって悪いことばかりじゃないんだね」


「そうですわね。でも、これからおもむくバナバザール侯爵の街のダンジョンは、楽観できない状況ですのよ」


 今度は何だろう。


「侯爵の街のダンジョンから湧く魔物。それらは年々強くなっているそうですわ。聖竜に倒された魔王竜の魂が本来の力を取り戻しつつあるのが原因ではないか……そんな見解もありますの」


 魔竜大戦のとき、魔王竜は魔物を強化してしたという。

魔物が強くなるのは魔王竜の魂が力を取り戻している兆候だというのだろうか。


「魂が本来の力を取り戻したら、どうなるんだ?」


「魔王竜が復活するかもしれませんわ」


キコアの質問にエリーは怖いものでも見たような表情を向けた。


「つまりダンジョン攻略とは、ダンジョンの奥底に眠る魔王竜の魂を、何らかの方法で無力化することを意味しているのでしょうか」


 ルティアさんが考えこんでいる。

 魔王竜の魂の無効化。方法は分からないけれど、現地に行けば何とかなるだろうか。


 魔王竜の魂を無力化すればダンジョンは活性型ダンジョンでなくなるわけだ。

 それでは冒険者もダンジョンの街の住人も、儲けがなくなってしまう。

 でも、このままでは魔物はいつか冒険者の手にあまり、さらに魔王竜まで復活したら大変なことになるだろう。


「そういうことですわね。魔王竜は魔竜とは比べ物にならない強さを誇っていたと言います。本来、人類と魔王竜とは共存できませんし」


 冒険者にとって都合のいい仕事場にありつけると思っていたけれど、何だか複雑そうだ。




☆☆☆



「やっとついた……」


 魔空船で一週間。ついにバナバザール侯爵領の停船場に到着。時刻は昼前だ。

 空の旅路は毎日、途中の貴族領にある停船場で数時間は着陸して食糧や物資の搬入が行われ、さらに二回ほど魔空船を乗り換えた。


 しかも魔空船って夜間は飛ばない。

乗っていただけだけれど、なかなか侯爵領につかないので疲れてしまった。


 船内でのエリーはやたらと商人に話しかけられていた。

商人たちは乗務員からエリーが子爵令嬢であることを聞きつけて挨拶をしていたようだった。


「スゲぇな。たった一週間で王国の東まで来ちまったぜ」


「さすが魔空船ですね」


 ルティアさんたちは感激していた。

 前の世界の飛行機なら一週間もあれば世界一周できそうだけれど。


 さらに停車場から馬車に乗って侯爵の街へ。

 着いた頃には陽は沈みかけていた。


「大きな街だな」


「ええ。人口は子爵の街の二倍以上。ここからさらにダンジョン付近に向かうには馬車に乗りますわ」


「また馬車かよ」


 侯爵の街はとても大きいぶん、馬車道が整備されていている。

 馬車道が幹線道路のように何本もあり、人々の移動を助けてくれている。

 馬車で乗り合わせたオジサンが教えてくれた。


 ダンジョンから最も近い停車場で降りると、もう夜だった。

 宿屋や飲食店が立ち並ぶ区画だ。

 明りも煌々としていて、子爵様の街より活気にあふれている。


「ダンジョン、見当たらないね」


「そうでしょうね。ダンジョンは魔物が湧くので、さすがに近くに商店や停車場は構えられないんだと思います」


 ルティアさんの指摘に納得する。


「今日のところは食事をして宿で休みましょう」


 エリーの提案で美味しそうな飲食店に入ることにした。

 イイ感じのお店を見つけて中に入る。

 テーブルにつき、料理を選ぶ。料理の名前は壁に書いてあった。

 私だって文字の勉強は魔空船の中でもしてきたんだ。メニューくらいわかるもん。


 ……ダメだ。読めても意味が分からないものが多い。

 野菜炒め定食くらい分かりやすい料理名してほしい。


「いよいよ明日からダンジョン攻略か。ちゃんとイイもん食べないとな」


「その前にこの街の冒険者ギルドへ行きましょう。情報が得られるかもしれません」


「それに冒険道具も揃えたいですわね」


 メニュー選びはみんなを頼ろう。


「いらっしゃい。なんにする?」


 元気な女の子の店員がやってきた。

 年齢は今の私より少し上かな。


「もしかしてほかの街から来た人かな? ウチはダンジョン産の魔物の肉を仕入れているから、肉料理がお勧めだよ」


「そうなんだ」


「あとね、二階が宿屋なんだ。もし今晩の宿が決まっていないなら泊まっていってよ」


「ごめんなさい。宿屋はもう決まっているんです」


 ご隠居さんが宿の手配までしてくれたのだ。

 予約は取っていないみたいだけれど、紹介状をもらった。

 ダンジョンからも近くて、最も高級な宿屋だ。上級貴族ご用達なのだろう。

 御隠居さんは紹介状を見せれば何とかなると言っていた。


 ガチャン!

 なんの音かと見てみれば、別の客が食器を落としていた。

 椅子までひっくり返っている。


「ダンジョンをぉ、攻略するのはボクだぁ! オマエらにとやかく言われる筋合いなんてぇ」


「とか何とか言って、もう一年以上も成果を上げてねぇだろ。ガキは故郷にかえんな」


「なんだとぉ……ヒック」


 ボクを名乗る女の子が酔っぱらいながら冒険者風の男たちに絡まれている。

 ん? 絡んでいる?


「あ~、またあの子だよ」


 店員さんは呆れている。酔っ払いの常連なのかな。

 さらに。


「シアンタはいるか!」


 黒服を着た男たちが店に入って来るなり、女の子を取り囲んだのだ。



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