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52.特訓

 ランクを効率的に上げるにはダンジョンに行ってみてはどうか。

 御隠居さんに勧められた翌日から私たちの訓練が始まった。


 ダンジョン。

 昔、人類と魔竜の戦争において、魔王の配下とされる13体の魔王竜を封印した土地が迷宮に変貌したものだという。

 そこからは魔物が湧いてくるそうで、ダンジョンを抱える街は迷惑しているそうだ。


 冒険者がダンジョンの魔物を倒し、その深遠に眠るとされる魔王竜の魂を討伐することで、ダンジョンは鎮静化され、周辺の街は落ち着きを取り戻す……ハズだという。


 御隠居さんいわく、私たちがダンジョンに眠る魔王竜の魂を倒せば……すなわち、ダンジョンを攻略すれば冒険者ランクの昇格は間違いなしだと教えてくれた。

 

「さすがに公爵様の護衛の方はお強いですね」


「二人がかりで手も足も出ないって。マジかよ」


 ルティアさんとキコアは、御隠居さんの臣下であるミガットさんに稽古をつけてもらっている。

 ミガットさんは寡黙な二刀流の剣士だ。

 二振りの魔法金属マジリルの剣で、ルティアさんとキコアさんを圧倒している。


「エリザベス嬢は天職の力に頼りすぎだ。腕力ではなく、全身を活かして殴りかかってこい。あと攻撃する際の場所取り、相手の隙を見抜く洞察力。何度も言っているが、まるで意識していない。何度も言わせないでほしい」


「意識していますわよ。それなのに一撃も加えられないなんて」


 エリーが相手しているのは、同じく御隠居さんの臣下であるムーアさんだ。

 上着が爆発しそうなくらいの筋骨隆々。

 エリーは闘士であるムーアさんに鍛えられている。


 ここは子爵様のお屋敷のお庭だ。

 ダンジョンを攻略するには、私たちでは力不足なのでは?

 そんなギルド支部長の意見に、御隠居さんは鍛えれば問題ないと言ってくれた。


 そこで臣下であるミガットさんとムーアさんをルティアさんたちの訓練に当ててくれた。

 御隠居さん本人は仕事があるといって、日中は子爵様と共に執務館に行っている。

 ところで私は。


「はいはい。その意気ですよ。お馬さんとお友だちになって、好きですよっていう気持ちを全開にしながら手綱を握ってトコトコするのですよ」


 マリッパさんから乗馬の手ほどきを受けている。

 ルティアさんをBランクにするためにダンジョンを攻略する。

 攻略するために訓練を受けさせてもらう。ありがたいことだ。


 でも、私には強くなる前に課題がある。

 冒険者として知識不足なこともあるけれど、それ以前にこの世界の文字がろくに読めない。馬にも乗れない。


 そこで御隠居さんの臣下であるマリッパさんが教師を引き受けてくれた。

 午前中はこの世界の国語の授業。

 午後は乗馬の授業なのだ。



☆☆☆



「みなさん。お茶の準備が整いましたよ~」


 子爵家の長女であり、エリーの従兄姉であるお姉さんがメイドさんと共にお茶を用意してくれる。

 ルティアさんやエリーが疲労困憊といった風体で、庭に用意された円卓についた。

 キコアは鋼鉄の槍を杖のようにしながら、ヨロヨロとこちらにやってくる。

 あの槍、ラエリンから奪ってからというもの、今では完全にキコアの物になっている。


「午前中の疲れが、もうやってきたぞ。厳しすぎだって」


 12歳にして午前の筋肉痛が午後に現れたようだ。

 キコアは被害届けといった視線をミガットさんに送るが、当人は立ちながらメイドさんから差し出されたお茶を飲んでいた。


 私は午前中は座学。午後は乗馬。

 それだけでも大変なのだから、朝から模擬戦をしているルティアさんたちは疲れているだろう。

 今日で三日目なのだ。


「みんな、訓練は順調かの?」


 今日は御隠居さん、子爵様、執務館で働いている子爵様の御子息が、様子を見に戻って来ている。

 みんなで円卓を囲んでいる状況だ。


「順調ですわ!」


 エリーは民を守るためにも、闘士としての天職を磨きたいということで、子爵様の淡い反対をよそに、私たちの訓練に参加している。

 かつてエリーは誘拐された際、お友だちを失った。

 そんな危機をミラクル☆ミサオンに救われた。

 エリーは強さへの願望があるようだ。


「まだまだです」


 そんなエリーの稽古をつけているムーアさんは強烈な一言を放った。


「いずれにせよ、魔空船がやって来るのは4日後じゃ。それまでにできるだけ鍛えておこうかの」


 御隠居さんが言う魔空船とは、この世界の飛行船のようなものらしい。

 魔石の力で空を飛ぶから魔空船。

 話を聞く限りでは、唯一の航空機とのことなので飛行機のようなポジションなんだろう。


 御隠居さんが勧めてくれたダンジョン攻略。

 場所は王国東部にあるバナバザール侯爵領。

 とても遠く、普通の馬で移動するとなれば、何ヶ月もかかるらしい。

 この辺りの商人でも、まず行かない。


 でも魔空船ならば数日程度で移動できるそうだ。

 そんな魔空船のチケットを御隠居さんは私たちのために取ってくれた。


「旅客券は四人分で良いんじゃな」


「はいっ! ありがとうございます。おじいちゃま」


「おじいちゃま……ふふぅっ」


 エリーからおじいちゃまと言われた御隠居さんは嬉しそうだ。

 それにしてもエリー、私たちのダンジョン攻略についてくる気なんだな。


「エリー、キミは貴族の女性だ。そんな危険な所に行くものじゃない」


 オスニエル子爵様は姪であるエリーのダンジョン行きに反対のようだ。


「何をおっしゃいますの伯父さま。魔空船の停船所を設ける貴族領の者同士として、バナバザール侯爵に挨拶したのはいつのことでして?」


「え? ああ、三年前? いや、五年ほど前か」


「そんなに御無沙汰なさっては先方にご無礼ですわ。ここはオスニエル家を代表し、このエリーがご挨拶に伺います」


 王国の一部の貴族領には魔空船が停泊する停船所がある。

 ここオスニエル子爵領にも、ダンジョンのあるバナバザール侯爵領にも停船所がある。

 エリーは貴族として、上級貴族であるバナバザール侯爵に挨拶しに行きたいようだ。


 でも、その真意は私たちと一緒にダンジョンに行くことくらいは察しがつく。

 オスニエル子爵は口をつぐんでしまった。


「フィリナちゃんたちがダンジョンへ向かえば、アルバレッツのじゃじゃ馬ムスメにも変化が起こるじゃろうて」


 御隠居さんは楽しそうに笑った。




 夕方。訓練は解散。続きはまた明日だ。

 訓練は二日後まで続く。


「何だかゴメンね。ダンジョンに行く流れになってしまって」


 私は庶民街へ向かうルティアさんとキコアに謝罪した。


「ルティアさんは『短い首の羊飼い』の手伝いもあるし、キコアは稼ぎたいのに、訓練に参加することになって」


 すると二人はフフッと微笑んだ。


「騎士になれるまたとない機会です。それに女将さんにダンジョン攻略の件を伝えたところ、喜んでくれました」


「ダンジョン攻略は冒険者ギルドの管轄だぜ。それにミガットの兄ちゃんのシゴキに耐えれば、そのぶん強くなれる。エリーの護送でたんまり報酬貰ったし、気にすんなよ」


 よかった。ふたりともダンジョン行きには好意的のようだ。

 こうして私たちの訓練の日々は過ぎていくのだった。




 訓練の日々が過ぎ、出立の朝になった。

 御隠居さん一行は前日の朝にピアノニッキ伯爵領の北にある貴族領に向けて出発している。

 逃走した魔竜と竜魔人の消息を追うためだ。


 陽の昇らない早朝に子爵様の屋敷に集合した私たちは、魔剛馬を借り受けて、ここから北に位置する魔空船の停船場に向かう。

 当然のようにエリーも魔剛馬に乗って待ち構えていた。

 オスニエル子爵はもちろん、エリーたちの従兄姉、ウィナミルさん、ギルド支部長も駆けつけてくれた。

 みんなに別れを告げ、四人で停車場を目指す。


 ここ一週間の乗馬の訓練が幸いしてか、魔剛魔はそれなりに走ってくれた。

 停船場は子爵様の街にあるわけではない。

 ()()()のことを考え、どこの貴族領の停船場も街から離れた場所に造られているとのことだ。


「それにしても子爵様って、よくエリーの旅立ちを許してくれたよね」


 子爵様にとってエリーは、亡くなった弟の忘れ形見だ。

 ダンジョンという危険な場所に送りたくないのは分かっていた。


「お姉さまが説得してくださいましたの。12歳の春になれば貴族学校へ行く。その前に自由にさせてやってくれと。お兄様は反対気味でしたが」


 エリーの従兄姉の三人のことだ。

 この数日間で従兄姉がずいぶんエリーを可愛がっていることは分かった。


 貴族学校とは貴族の御子息、御令嬢が通う学校のことだ。

ここで貴族としての在り方や、王国の歴史、世界情勢などを学び、貴族社会の生き方を教育されるんだそうだ。


「魔空船の離陸は正午でしたね。魔剛馬なら間にあうはずです」


 ルティアさんの先導で、魔剛馬に乗った私たちは魔空船の停船場を目指した。


いつもお読みいただきありがとうございます。

今回で第3章は終了です。

皆さんにはエリザベス護送にお付き合いいただき、冒険者ギルドに代わり感謝致します。


さて、本日はこのあと、第4章の冒頭をお届けします。

投稿時刻は12時を予定しております。

第4章も引き続き今作のご愛顧、宜しくお願いします。

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