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50.VS竜魔人(3)

 御隠居さんが自分の仲間にかけた魔法は付与術。

 それは仲間と認めた者に大きな力を与える魔法だった。


 私の魔法の中にも付与術はある。

 エリーにはマルネスを倒し、父親の仇を取ってほしい。

 そう願った私は恐竜と付与術の最適な組み合わせがないものかと探した。


「これで最後だ! ダトウサウルス×付与術!」


『ガオオオン! 解禁された恐竜×魔法を選ばれました!』


 神様のアナウンス!

 残り魔力12の時点で当たりを引けた!


 ダトウサウルスは四足歩行の恐竜だ。

 首と尻尾が長くて、背中は後ろ足の上の部分が一番盛り上がっている。

 どうしてダトウサウルスが付与術と相性がいいのかなんて分からないけれど。


 ルティアさん、エリーを見てみれば、強い光に包まれていた。

 その光は少しずつ消えていく。


「エリー! ルティアさぁぁん! マルネスをやっつけて。私は一分しか持たない!」


「これはフィリナさんの魔法なのですか?」


「力が溢れてきますわ。これなら、お父様の仇を!」


 既に魔法士たちと連携して竜魔人マルネスに攻撃を加えていたフィリナさんに、ナックルを装備したエリーが加わる。


「なんだ? さっきから俺の身体が光っては消えていくけど?」


 キコアだ。

騎士と一緒に執務館の二階から降りてきたのか、執務館の脇で自分の身体を見つめていた。


「キコアも戦って。私、キコアたちに強くなる魔法をかけているから、きっと私は強くない! 1分も持たないよ!」


「強くなる魔法だって? たしかに力が湧いてくるぞ。分かった、任せろ……あっ!」


 キコアは倒れているラエリンに駆け寄った。

 その横にはラエリンが持っていた槍が転がっている。


「槍を借りるぞ。お、この槍は鋼鉄製だ。この槍、もらうぞ!」


 槍を手にしたキコア、ルティアさん、エリーが竜魔人マルネスに向かっていく。


「付与術か! 魔法攻撃やめ! あの三人を巻き込んでしまうぞ」


 魔法士長が魔法士たちに攻撃を止めさせ、エリーたちがマルネスへ攻撃する時間を作ってくれた。

 私も行こう。

 エオラプトル×俊敏性強化(小)のときのような、身体が強化された感覚はない。

 『ダトウサウルス×付与術』

 この力はきっと仲間に力を与える代わりに、私自身には何の恩恵をもたらさない魔法なんだ。


 でも、私が行けばマルネスに少しでも隙を与えられるかもしれない。

 その隙をついてエリーたちが攻撃してくれれば。


「急に動きが良くなった? それに力も?」


「フィリナの魔法をなめんじゃねぇ!」


 驚くマルネスにキコアが鋼鉄の槍を振り回す。


「だが、僕の速さのほうが上だぁ!」


 マルネスの腕から発生する突風がキコアを弾く。


「あとは任せたー」


 キコアが吹き飛ばされた。


「きゃあっ!」


 マルネスが発生させた竜巻にフィリナさんが持ち上がられた。


「すいません。あとはお願いします!」


 遅れてやって来た私をマルネスが睨む。

 今の私はなんの強化もされていない、冒険者ならGランクの初心者だ。

 動きだって素人だ。当然、標的にされる。


「オマエも吹き飛べぇ!」


「吹き飛ぶのはオマエのほうですわ!」


 エリーだ。


「今ならできる。力がみなぎる。お父様と同じ特技が使える!」


 私の剣を振り下ろそうとするマルネスの横。

拳を奥に引いたエリーが万全の態勢で滑りこんできたのだ。


「なっ! オスニエル? いや、娘のほうか!」


「お父様、力を貸して! くらえ! 全力放出!」


「がはぁぁっォォ!?」


 エリーの渾身の拳が竜魔人マルネスの腹にめり込んだ。

 マルネスは矢を越える勢いで地面と水平にブッ飛び、執務館の敷地と道路を隔てる壁をも貫いて、その先に駐車してあった貴族たちの馬車を巻き込んで動かなくなったのだった。



☆☆☆



「ぜいぜい……はぁはぁ……」


 1分経過。ダトウサウルス×付与術の効果は切れた。

 エリーは何とか立っている状態だ。

 天職・闘士の特技である全力放出は、本当に全ての力を敵にぶつける技のようだ。

 白い竜魔人はウィナミルさんと騎士団長、御隠居さんの仲間たちに敗れ、人間の姿に戻って拘束されている。

 最初に倒された黒い竜魔人も同様だ。


「全力放出。わずか10歳にして難儀な技を会得するとはたいしたもんじゃ」


 御隠居さんは感心しながらエリーを眺めている。


「さて、言い訳でも聞くとするかの」


 優しかった目が鋭くなったと同時に、御隠居さんはマルネスが吹き飛んだ方向へ歩いていく。

 エリーと私たちも騎士団長と共に、壊れた馬車の中で伸びているマルネスを捕えにいく。

 マルネスは人間の姿に戻り、騎士に両腕を掴まれ立たされていた。


「生まれた時代が悪かったんだぁ。魔竜大戦の最中だったら無限に金もうけができたはず。賭博なんかチマチマした稼ぎよりも、ずっとずっと莫大な富を得られたのにぃ。せめて治安が悪ければ今よりも儲かったはずなんだぁ」


 よく喋るけれど、マルネスは明らかに疲弊していた。

 そんなマルネスが憎悪の目をエリーに向けた。


「本当にオマエの父親は邪魔だったよ。オスニエルさえいなければ、もう少し武器や違法薬物で稼げたというのに。何が治安だ。金になるのか」


「黙れ。あとは騎士団本部で聞いてやる」


 騎士団長はマルネスを抱える騎士に、本部に連行するよう促した。


「ひひひ。見ていろ。あのお方が、この世界を再び混沌に導いてくれる。そうすれば世界は魔物、魔竜で溢れ返り……僕はいくらでも稼げるんだぁ。金、金……カネこそがぁ!」


「アイツみたいにはなりたくないな」


 キコアが騎士団の馬車に乗せられようとするマルネスを見てつぶやいた。


「な、なんだ。これは!」


 マルネスが悲鳴を上げた。

 その右足はボロリ、崩れ落ちたのだ。

 両脇を抱えていた騎士たちは驚き、マルネスから離れる。

 崩れるマルネスの身体は足だけに留まらない。

 両腕、脇腹、左足と崩れていく。


「これはっ! 僕が与えられた血は欠陥品だったとでもいうのか。それとも僕は選ばれた者ではなかったと。おのれ。アイツさえ魔竜でエリーたちを殺していれば、こんなことには……っ!」


 足を失い、地面に落ちたマルネスの身体は崩壊していき、最後は首がもげて絶命してしまった。




 マルネスは死んだ。

 白と黒の竜魔人に変貌したマルネスの臣下も同様の死を遂げていた。


「あとは騎士団に任せろ」


 ウィナミルさんの言葉に従い、エリーと別れを告げ、私たちの公爵様との謁見の時間は終わりとなった。



☆☆☆



 その日は昼前に庶民街に戻り、冒険者ギルドで依頼を受けるにも半端な時間なので、ルティアさんが働いている『短い首の羊飼い』のお手伝いをしながら過ごした。


 エリーや公爵様は今ごろパーティに出席しているのだろうか。

 夜になり、私とキコアは冒険者御用達の安宿で眠りにつく。


「あのあと、どうなったんだろうね」


 マルネスは死んだ。帝国の名を語っていた。

 魔竜は。魔竜人とは。

 エリーは父親の仇を取ったものの、その背後で蠢く正体を暴くには至らなかったのだ。


「さぁな。御隠居さんが何とかしてくれるんじゃねぇか」


 薄い布切れにくるまったキコアが眠そうに答える。

 この世界も冬だ。薄い布では温かくない。


「それでも外よりはマシかな」


 私も眠りについた。




 翌朝のこと。

 冒険者ギルドへ行ってみると、受付のお姉さんが私たちの姿を見るなり、駆けてきた。


「今日も子爵令嬢の護衛を務めた御三人に、公爵様から招待状が届いています!」




 『首の短い羊飼い』で働く予定だったルティアさんを連れ、今日も私は貴族街に来ている。

 今回の目的地はオスニエル子爵様の屋敷だ。

 現在はエリーの自宅でもある。


「エリーのお屋敷で公爵様とお茶会ですか」


「茶飲み友だちとして招かれたってワケか」


 招待状の中身はお茶会へのお誘いだった。

 きっと昨日の詳細を聞かせてくれるんだろうなと、私は考えている。


「やっと来ましたわ」


 エリーが屋敷の前で待ち構えていた。

 貴族を待たせてはいけないと、こちらは約束の時間より前にやってきたんだけどな。


「こちらですわ」


 門を抜けると、屋敷の中には入らず庭に出る。

 そこには大きな円卓があった。

 すでに席についている人たちがいる。


 公爵様とオスニエル子爵、ウィナミルさん、冒険者ギルドの支部長がいたのだ。

 支部長、今日は上着を着ている。


「さぁ、お座りになって」


 ちょうど四人分の空席がある。

 エリーに促されて、円卓につく。

 メイドさんがやって来て私たちのお茶を用意してくれた。

 卓上にはこの世界では見たことのない、可愛いお菓子が並んでいる。


「お待たせしてしまい、申し訳ありません」


「約束の時間より早いんじゃ。謝ることはない。ワシらはワケあって事前に話しこむことがあっての」


 ルティアさんが謝罪を入れると、公爵様は私たちが遅刻していないことを言葉にしてくれた。


「本日はお招きいただきありがとうございます」


「堅苦しい挨拶はなしじゃ。くつろいで行ってくれ」


「ありがとうございます」


 ルティアさん、偉い人とお茶するのに慣れているのかな。

 キコアは席に着くなりお茶に手を伸ばし、ルティアさんが御隠居さんに挨拶した途端、驚いて手を引っ込めていた。

 エリーがお茶を飲んだので、合わせて飲んでみる。

 あ、紅茶だ。久しぶりすぎて物凄く美味しく感じる。


「エリーの護衛、魔竜の撃退、そして昨日のマルネスの件。冒険者諸君の働きには十分感謝している」


 オスニエル子爵様が労ってくれる。


「もったいないお言葉です」


 ルティアさんがすかさず返す。


「マルネスとその臣下のことだが、キミたちも見たとおり、あの場で死んでしまった。なぜあのような姿になり、あのような行動に出たのか、真相は闇の中だ」


 子爵様は溜息をついた。


「ピアノニッキ伯爵は今朝、自分の街に戻った。マルネスの亡きあとは賭博場を縮小し、さらなる治安向上に努めるそうだ。騎士団長にこれまで以上の権限を与え、街の収益よりも治安最優先で取り組むと約束してくれた」


 これで伯爵の街で誘拐を企てる悪者が減ってくれればいい。

 だけど、エリーの友だちは帰って来ない。

 これまで誘拐された人たちもエリーだけじゃない。


「まずは謝罪じゃな」


 御隠居さんは言う。


「エリザベスちゃんの告白、うちのマリッパに盗み聞きさせていたのはワシなんじゃ」


 護送中に起きたルティアさん誘拐事件。

 これを解決させたあと、エリーは自らが生命を狙われる理由を告白してきた。

 焚き火を囲んでいる夜更けのことだった。

 そのとき私は何者かの気配を感じたんだ。

 それはマリッパさん。特技の『隠ぺい』を使って、姿が見えない状態で聴き耳をたてていたんだな。


「ルティアちゃんの誘拐事件、ただ事ではないと感じ、裏で操っている者を知りたかったんじゃよ」


 謁見の場で御隠居さんはマルネスを追及していた。

 エリーが公爵様に誘拐事件のことを相談もしていないのに。

 御隠居さん=公爵様が事情を知っていたからなんだな。


「マルネスは帝国の名を口にしていたのぅ」


 話を続ける御隠居さんに私たちは頷いた。

 帝国が国境を越えて、王国の伯爵の街で誘拐、人体実験を繰り返していたんだろうか。

 すると人を竜魔人に変貌させる技術、それに私たちを襲った魔竜は帝国の仕業なのかな。


「これから王都にある帝国の大使館経由で調べさせるが、おそらく帝国側は知らぬ存ぜぬで通すじゃろうな」


 たとえ帝国がマルネスのことを知っていたって、今回の件に関与しているなんて認めないと思う。

 けど、これじゃあエリーは。


「フィリナ。私はお父様と親友の仇を取ることができた。心は晴れていますわ。私にマルネスを倒す機会を与えてくれた貴女が、そんな顔をすることはなくてよ」


 エリーが微笑みかけてくる。

 私、気持ちが表情に出ていたみたいだ。


「次に魔竜なんじゃが。たしかマリッパのはなしでは、別の魔竜人を乗せて北の空へと逃亡したそうじゃの」


 そのとおりだ。


「ふぅむ。伯爵領の北側に面する貴族領に行けば、何か情報が得られるかもしれん。これは新たな旅の目的地が決まったわい」


 逃走した魔竜と竜魔人の正体が分かれば、真相が見えてくるかもしれない。


「今回は貴重な情報を提供して下さり、ありがとうございました」


「礼には及ばん。当事者になってしまったおぬしたちなら、気になっていると思ってな。それに今回呼んだのは、マルネスのはなしだけではないぞ」


 え? ルティアさんにお礼された御隠居さんには、まだ何かあるようだ。


「次は明るい話じゃ。ほれ、支部長」


「はっ!」


 ギルド支部長は私とキコアに視線を向けた。


「キコア、フィリナ。両名のランクを昇格させる!」


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