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5.『天職』と『特技』

 ティラノサウルスのイラストに触れると、画面下に文字が浮かび上がった。


『選び続ける』

『これに決める』

『やめる』


 なにこれ? 手が止まる。

 もし『これに決める』という文字に触れたらどうなるのだろう。ティラノサウルスが出てくるのだろうか。

 出てきたらどうなるのだろう。言うことを聞いてくれるの? そもそも大きさは? 恐竜に詳しくないから分からない。ここに両親がいてくれれば。


「はは……。両親がいてくれればって……そんなこと考えるのは何年振りだろう」


 気を取りなおして恐竜だ。言うことを聞いてくれたとしても、大きな恐竜が村に現れれば騒ぎになる。出したのが私だと知られれば、伯父との確執以前に村を追い出されてしまう。

 恐竜を相棒に世界を旅しようにも、周囲から奇異な目で見られるのは必至。お尋ね者になったっておかしくない。生まれ変わって早々、指名手配犯だ。

 恐竜は何を食べるのだろう。言うことを聞いてくれない場合、真っ先に食べられるのは私だ。


 ここはとりあえず『やめる』を選択しよう。『やめる』という文字に触れると、左右の画面が消えた。

 もう一度ステータスオープンとつぶやく。

先ほどと同じように、私の左右に大きな画面が現れる。右側の画面右にある『→』に三回に触れ、四枚目のイラストにしてみる。

 ティラノサウルスに触れると、先ほどと同じく、三種の選択肢が現れた。

今回は『選び続ける』を選択してみる。画面には変化はない。

 『選び続ける』というからには、ほかにもイラストの恐竜を選べるのだろうか。ほかの恐竜のイラストは薄く陰ったままだ。それでもどんな恐竜かくらいは分かる。

 次に選んだ恐竜は四足歩行で頭に三本の角があり、襟巻をしている……たしか名前はトリケラトプス。

子供の頃、お父さんが図鑑で教えてくれたっけ。ほかにも教えてくれたのだけれど、お父さんゴメン、あとは全部忘れた。


 私に選ばれたトリケラトプスのイラストからは、薄い陰が取り除かれ、『トリケラトプス』とい文字が浮かぶ。

かわりにティラノサウルスからは名称が消えて、薄い陰がかぶさる。

『選び続ける』とはたくさん選べる事ではなく、選びなおすことのようだ。


「トリケラトプスって、たしか草食だったよね。私を食べないよね」


 たとえ、このあとにトリケラトプスが現れたとしても、優しい顔をした恐竜のことだ。きっと言うことを聞いてくれる……と思う。

 そもそも『異竜戦士』という職業が何なのか分からない。もし恐竜を出現させて魔物をやっつけられる職業ならば、私でも村の外で生きていけるかもしれない。

 恐竜が出てきたあと、引っ込め方が分からない場合は……村の外の森に隠そう。村の周囲は森なのだ。


「もし恐竜に食べられたら……ううん、きっと大丈夫。神様がくれた『天職』だもん」


 私がこの世界で生きていくためにも、天職を把握しなければいけない。

神様のおススメの職業だ。きっと良いことがあるんだろう。

 そう考えて、最後の選択肢『これに決める』に触れた。


「……え?」


 左右の画面は消えた。それ以外なにも起きない。振り返っても、森のほうを見つめても、空を見上げてもトリケラトプスは見当たらない。

 畑のほうに目を向けても村の人は仕事を続けていた。村の中にも居ないようだ。


「なんで……」


 そう考えると、ドンドンドンといった音が聞こえてくる。

足音? 違う。これは私の心臓の高鳴りだ。


「う……あああああ!」


 なんだか急に暴れたくなった。急にイライラしてくる。

 衝動を抑えきれなくなって、思わず足下にある丸太を蹴りとばした。さらに殴り付ける。

 丸太は動きも傷つきもしない。痛むのは、罪なき丸太に殴る蹴るの暴行を加えている私の手足だ。

 私が強くなっているワケではない。ワケもなくキレているだけ。それでも殴り続ける。蹴り続ける。衝動が抑えられない。

 このままだと身体を壊してしまう。ダメだ。ヤメ! やめて!

 そう念じると衝動は収まった。


「はぁ、はぁ……あぁ」


 手には血が滲んでいる。足も痛い。なんなの、この天職って。

 私が超人になることもない。まるで獣のように暴れているだけだ。


「家の外で試してよかった。よくはないか」


 なんなんだ。この役に立たない天職は。

 丸太に座って落ちついてみる。もう一度立ち上がってステータスオープン。

 今度は左側の画面を見てみる。

画面上には『特技・魔法』とあった。さらに画面には黒い背景に、たくさんの文字が白で書かれている。


『冷凍』

『火炎』

『俊敏性強化(小)』


 そんな文字が画面に20種類ある。この画面にも右側に『→』のマークがあった。

 『→』に触れれば画面が切り替わり、別の文字が20種類出てくる。

 二番目の画面には左に『←』、右に『→』。

『→』のマークに触れれば三番目の画面。こちらも左に『←』、右に『→』。

『→』のマークに触れれば四番目の画面。こちらは左のみに『←』があった。

 どの画面にも20種類の文字が浮かんでいる。


「これ、全部が特技の魔法なの?」


 私は神様に言った。


「『特技』のほうは、皆さんが選んだあとの、余ったもので構いません」


 もしかして、皆が選ばなかった『特技』を全部くれたっていうこと? ざっと見ただけでも『飛翔』や『腕力強化』、『魔法障壁』なんてものもある。

 これだけの魔法が使えるのなら、職業は魔法使いでよくない?


 とりあえず試してみよう。『冷凍』の文字に触れてみると、ほかの文字に薄い陰がかかった。さらに画面下には選択肢が現れた。


『選び続ける』

『これに決める』

『やめる』


 『やめる』は想像がつく。

 『選び続ける』に触れてみた。変化なし。陰がかかった『火炎』の文字に触れると、『火炎』からは陰が消え、『冷凍』の文字に薄い陰がかかった。

 ここまでは恐竜の選択と同じだ。次は『これに決める』に触れてみよう。


「私が火だるまになるってことはないよね」


 そう信じて『これに決める』に触れる。

 左右の画面が消える。ほかには何も起きない。

 試しに、両手を水を掬うような形にしてみた。

 火よ、出てきて。

 するとポウっと火が浮かんだのだ。まるでロウソクの火のような小さな火が。すごい。そして消えた。


「これだけ?」


 感動も束の間、消えてしまったのだ。今度は右手を丸太にかざしてみる。


「出てこい! 火!」


 すると右手から、ポウっといった感じの小さな火が生まれて、消えた。当然丸太は無傷のままだ。


「これじゃあ火炎じゃなくてライターの火じゃん」


 しかも一瞬。これではライターのほうが優秀。文明乏しい世界で生きていくだけの特技とはいえない。ただの隠し芸だ。


 ほかの魔法も試してみた。『飛翔』の魔法は三秒間だけ、地面からほんの少し浮くだけ。

 『腕力強化』。一瞬だけ重い石を持ち上げられた。三秒後、魔法が終わって石を落した。

 『盾』。文庫本サイズの盾が出現。三秒で消えた。


 呆然としながら左側の画面を睨む。ほかにもたくさんの魔法が表示されているのだけれど、呆れてしまってほかの魔法を試す気も起きない。なんだよ『魔竜討滅斬』って。

 消えろと念じると、左右の画面は消え去った。

 どうして一瞬しか使えないのだろう。しかも威力はないし。


「『特技』のほうは、皆さんが選んだあとの、余ったもので構いません」


 神様、もしかして私が欲張ったと勘違いして怒ったのかな。

 そのあと、右側の画面、職業・異竜戦士の画面からトリケラトプスではない、出来るだけ小さな恐竜を選んでみた。

結果はトリケラトプスと同じ。ただただ暴れたい衝動が私を支配するだけだった。

 特技だけじゃない。天職だって役に立ちそうにない。


「『天職』は神様のおススメでお願いします。『特技』のほうは、皆さんが選んだあとの、余ったもので構いません」


 これって、神様に意思のないヤツだと思われたんだろうな。だから、与えられた天職と特技は、私への罰なんだ。


「これが私の夢だ。だからこそ天職は○○で、特技は△▼でお願いしまぁす!」


 神様はそんなことをしっかりと表明できる人間を救いたかったに違いない。

 でもね神様、ときには人間って遠慮することも必要なんです。そんじゃないと、誰かを敵にまわすこともあるんだから。

 ああ、丸太を殴った手が痛い。足も痛い。なんだか疲れた。


「この先どうすればいいんだろう……」


 うしろに倒れて空を見上げてつぶやいたのだった。


第5話終了です。

本日はお読みいただきありがとうございました。

明日から第6話以降を投稿します。

よろしくお願い致します。

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