48.VS竜魔人(1)
公爵様の謁見の場には多くに貴族が集まった。
そこにはかつてエリーのお友達を誘拐し、人体実験していたマルネスもいた。
公爵様はマルネスに、誘拐の場にいた男の特徴である、右腕の竜の紋章の有無の確認を迫った。
貴族たちの悲鳴で顔を上げてみれば、マルネスの右腕の一部が光っていた。
長袖を着ていても分かるくらいの光だ。
「投獄なんてされてたまるか。僕はあの人の下で甘い蜜をすすってやるのさぁ!」
そしてマルネスは竜の魔人に変貌した。
魔竜を操っていた魔竜人と意匠がちょっと違う。
身長もマルネスに合わせて低めだ。
「アイツですわ! 私と親友を誘拐し、親友を亡き者にした竜の化け物は!」
エリーが立ち上がり、竜魔人マルネスをにらむ。
「マルネス子爵! それは何なのだ!」
ピアノニッキ伯爵は立ち上がって後ずさりしていた。
この場にいる全ての貴族が立ち上がり竜魔人に釘づけになっている。
「この姿は僕が選ばれた証拠ですよォ。もう田舎の下級貴族なんてやめだ! あの方の下で僕が凄いんだってことをみんなに認めさせて、上級貴族の暮らしをしてやるんだ。そのためには、王国の貴族の首をいくつか持っていこうか」
竜魔人マルネスは腰の剣を抜刀し、ピアノニッキ伯爵に迫る。
この場では武器の携帯は許されていない。
冒険者である私たちも同様だ。
武器を持っているのは騎士くらい。
でも竜魔人に変貌したマルネスの腰には、剣が出現している。
このままじゃ危ない。
エオラプトル×俊敏性強化(小)!
赤いじゅうたんの上は貴族や臣下がいる。
私は、変貌したマルネスに驚いている騎士たちとじゅうたんのあいだを駆けた。
「よくも今まで僕を見下してくれたなピアノニッキ! まずはオマエの首をもらうぞ!」
「伯爵、失礼します!」
私は全速力で伯爵に体当たりした。
伯爵は転がりまわって脇にいる騎士たちにぶつかって止まった。
魔竜人マルネスの剣は空ぶる。
伯爵はひっくり返りながら私を見上げた。
「キミは誰だね!?」
「冒険者です!」
伯爵に答えたそのとき、部屋の中央から新たな悲鳴が上がる。
「マルネスの臣下も竜の化け物に!」
見れば臣下の中からも、白と黒の竜魔人が現れた。
オスニエル子爵が伯爵を守るように立つ。
「マルネス子爵! 公爵様の御前でこの狼藉。これは王国に対する謀反だぞ!」
「勝手に言ってろい! もう王国なんて御免だ。これからは帝国が世界を支配する時代なんだよ!」
帝国! マルネスの背後には隣国のゾルンホーフェン帝国があったんだ。
「やいオスニエルの兄。オマエの首も寄こせ。弟もろとも地獄に送ってやる!」
「やはり弟はオマエに嵌められたのか。騎士よ、マルネスを捕えよ!」
「フンだ。騎士なんて今の僕なら!」
マルネスを中心に竜巻が生まれ、捕えようとした騎士たちが吹き飛ばされる。
臣下が変貌した竜魔人の二体も、同様に騎士たちに竜巻を浴びせていた。
「ここで戦えば多くのケガ人が出てしまいますな」
髭の騎士団長が前に出た。
「オスニエル子爵様。窓、壊してもよろしいですかな」
「え? あ、ああ」
「よし。ウィナミル、行くぞ」
「はっ!」
騎士団長は竜魔人マルネスに向かっていく。
「こしゃくな! って?」
「特技、重力操作!」
騎士団長の足下はメキメキと床に沈み、駆けるたびに足跡が床に生まれていく。
重力で自分を重くして、竜巻に飛ばされないよう近づいていく。
「うるぅぁぁ!」
「そんな!」
騎士団長は竜魔人マルネスに体当たりを続けながら、この部屋の壁に設けられたガラス窓にマルネスを押しこんだ。
この世界では貴重なガラス窓が砕け散って、竜魔人マルネスは外へと押し出される。
ここは二階だ。マルネスは落ちて行った。
「うぉぉぉ!」
ウィナミルさんも同様に特技の肉体強化で、臣下の白い竜魔人を外に締めだした。
「もう一体います。ミック、力を貸して!」
ルティアさんは妖精猫ミックを妖精憑依させると、素早い動きで臣下の黒い竜魔人を翻弄した。
その中でルティアさんが一瞬、私と視線を結ばせる。
「うん! わかった!」
ルティアさんの動きに追われ、隙ができている黒い臣下竜魔人に私は体当たりを仕掛けた。
黒い臣下竜魔人の体はガラス窓を砕いて外へ落ちて行った。
オスニエル子爵は呆然としている。
「謁見の間に風穴が三つもできてしまった」
「子爵様。まだ終わっておりませぬ。私は下りて戦います。ほかの者は魔法士を引き連れて来い」
騎士団長はオスニエル子爵に短く告げると、壊された窓から飛び降りて行った。
ウィナミルさんも飛び降りていく。
二人とも特技のおかげで、二階の高さから飛び降りても平気みたいだ。
ほかの騎士と魔法士長たちは部屋の出口に向かった。
階段から降りるんだろう。
「フィリナさん、私たちも」
「そうだね」
もう一度エオラプトル×俊敏性強化(小)!
私はルティアさんと共に飛び降りた。
「おいおい、誰か降ってきたぞ。ッて、化け物じゃねえか。しかも三体?」
執務館の二階から飛び降りると、マルネスたち魔竜人が体勢を立て直しているところだった。
高所から転落したというのに歯牙にもかけていないようだ。
外で警護していたらしいラエリンは驚きながら、この光景を眺めていた。
「警護の騎士らよ。この化け物は王国に反旗をひるがえした者の成れの果て。捕えるのだ!」
「そう言うことなら、魔竜を退けた、この俺が!」
ラエリンは槍を構えると竜魔人マルネスに突撃していく。
「さっきは油断したけど、僕に勝てると思うなよ。くらえ竜巻!」
竜魔人マルネスがラエリンに右手を向けると、横方向の竜巻が生まれて、ラエリンに直撃した。
直径が30センチに満たない竜巻だけれど、ラエリンはクルクル回りながら執務館の外壁にぶち当たっていた。
騎士団長とウィナミルさんが竜魔人マルネスに向かっていく。
「オマエら、仕事だよ」
白と黒の臣下竜魔人が二人の前に立ち塞がった。
この二体も剣を握り、ウィナミルさんたちと交戦しはじめる。
「さてと、今のうちに」
「逃がしはしません!」
うしろにステップを踏む竜魔人マルネスにルティアさんが立ちはだかる。
パンファギア×収納で剣を二振り、そのうちの一振りをルティアさんに投げ渡す。
ルティアさんが剣で挑むも、竜魔人マルネスの剣技の前では攻めきれずにいる。
どうして。マルネスの剣は私から見ても素人剣術なのに。
「どうだぁ小娘。風の魔竜の血に選ばれた僕の高速剣法は!」
「そんなもの剣術では……きゃぁっ」
ルティアさんが蹴りとばされた。
そうか。マルネスの剣は無駄な動きが多いけれど、その動きは速いんだ。
「フィリナさん! ルティアさん!」
エリーだ。
ほかにも続々と騎士や魔法士たちが集まって来る。
「マルネス! 覚悟なさい!」
既に竜鱗材のナックルを握りしめたエリーが竜魔人マルネスに飛びかかった。
竜魔人マルネスが剣でナックルを受け止めるも、エリーは何度も殴りかかる。
「力は父親譲りのようだが実戦慣れしていない様子。ならば父親同様、この僕が葬ってくれる」
「やはりオマエが父上を! どうして!」
「気に入らなかったんだよ!」
竜魔人マルネスは素早く左腕でエリーのお腹を殴って転倒させた。
続いてマルネスの左腕が風を帯びる。
私はエオラプトル×俊敏性強化(小)で滑りこみ、転倒したままのエリーを抱いて地面を転がった。
頬と頬がくっつくほど抱きしめて、マルネスの足下から脱する。
ドォン!
音がしたほうへ目を向けると、エリーが倒れていた場所はマルネスの放った突風によって、無残に抉れていた。
まだ一分経ってない。恐竜と魔法の力は健在だ。
速さには速さだ。剣を握って敵へ駆ける。
「速いねぇ。でも、その太刀筋、ろくに剣術知らないでしょ。風の魔竜の血を得た僕の敵なのかなぁ」
私と剣を交えるマルネスは余裕だ。
表情は魔竜の顔を人間サイズに小さくした仮面なので、余裕の表情なのかは分からないけれど。
それにしても風の魔竜の血?
先日戦った魔竜を操る魔竜人も同じことを言っていた。
エリーの友だちは注射器から何者かの血を投与されて死んでしまった。
その血も魔竜の血だったのだろうか。
魔竜の血を人間に投与して、魔竜人を作ろうとしているの? 何を企んでいるんだ。
マルネスの剣は速い。
エオラプトル×俊敏性強化(小)の力で、全速で剣を振るっているけれど、防戦一方だ。
だけど……私は魔竜と戦った。
その戦いで5つの恐竜×魔法が解禁された。
あれから数日。
いろんな恐竜と多くの魔法の組み合わせを探っては失敗し、それでも適切な組み合わせを探り続けてひとつの答えを導き出した。
ひとつだけなら、すでに実証済みだ。
「屋内では速すぎて使うのは危ないと思った。でも、ずっと使ってみたかったんだ!」
アギリサウルス×俊敏性強化(中)!




