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46.魔竜襲来(3)

 魔竜襲来。

 なんとか傷を負わせたものの、魔竜はまるで別の視点を持つかのように、巧妙に傷を守りながら私たちと戦っていた。


 どこかに魔竜を操って斬る敵がいると感じた私は、新たに解禁された恐竜×魔法『オフタルモサウルス×視力強化』の力を使って、丘の上に立つ敵を見つけたんだ。


「あそこに誰かいる!」


「フィリナ!」


 叫んだ瞬間、私はウィナミルさんに抱えられ、その場を脱した。

 私が立っていた場所は、魔竜の口から放たれた突風が抉っていった。


「戦闘中にぼんやりするな! それにしても、魔竜は風の魔竜か。厄介だな」


「ウィナミルさん。風の魔竜って?」


「先達から聞いたはなしによれば、魔竜は大きく分けて13種類いたらしい。そのひとつが風を操る魔竜。この魔竜も口から狂風を放っていただろう」


 魔竜にも種類があるんだ。

 私を噛み殺した魔竜は火の魔竜だったのだろうか。


「ウィナミルさん離して下さい。あの魔竜を操っている敵を見つけたんです」

「むぅっ!?」




 エオラプトル×俊敏性強化(小)!

 丘を素早く駆けのぼる。

 丘の上にはフード付きのコートに身を包んだ何者かがいた。

 フードで顔は見えない。


「老衰した魔竜を手なずけてみたが、こんなにも魔力を費やすとは」


 敵が何か言っている。

 そんな敵はこちらに気付いたようだ。


「あなたが魔竜を操っているんだ!」


「オマエは先ほどから妙な動きをする魔法使いだな。いつの間に駆けあがってきた?」


 やっぱりこいつが。

 私は剣を強く握って、コイツに斬りかかる。

 もう、躊躇わない!


「うおおおっ!」


「その構え、素人か!」


 敵は抜刀すると、こちらの動きを読んだかのように斬り返して来る。


「やっぱり。ステクロサウルス×盾!」


 相手の剣を盾で受け止める。

 盾を横に構え、相手の剣を抑え込む。

 竜鱗材でできた、この盾にはトゲが無数についている。

 斬りこんだ剣を抑え込むこともできるんだ。

 こっちだって、敵の動きを予想して踏み込んだんだ。


「今です。ウィナミルさん!」


「よくやったフィリナ!」


 特技、肉体強化で素早く丘を駆け上ってきたウィナミルさんが、コートの敵に一閃を加えた。

 敵は一瞬早く反応し、後退する。

 それでもウィナミルさんの一撃はコートを真っ二つに引き裂さいた。


「盾を収納魔法からではなく、突然出現させたか。何者だ」


 ローブから露わしたその姿は……全身が甲冑に覆われた鎧の剣士だった。

 その甲冑は全てが鱗で覆われている。兜や面は爬虫類そのものだ。

 これは、そもそも甲冑や鎧の類なのだろうか。

 まるで、エリーが言っていた竜人間。竜魔人だ。

 でもマルネスじゃないと思う。

 声からしてもっと若い。青年だ。


「今宵は妙な者たちと遭遇するな」


 ウィナミルさんが竜魔人に斬りかかる。

 竜魔人はこれに応戦する。


「キサマっ! マルネスの手の者か」


「良い腕だ。だが、風の魔竜の血の力を得た僕には、程遠い!」


 肉体強化で挑むウィナミルさんと互角か、それ以上に戦う竜魔人。

 竜魔人がウィナミルさんと距離を取ると同時に、私はクリオロフォサウルス×冷凍の力で、魔竜人に冷気の風を送り込む。


「そんな魔法が効くとでも!」


 それでもウィナミルさんの攻撃が止むたびに、私はクリオロフォサウルス×冷凍の力を魔竜人に放ち続けた。

 キィィンッという金属音。

竜魔人と剣を交えるウィナミルさんの剣が折れてしまっていた。


「僕のマジリルの剣とキミの剣。キミの腕は良いが、剣は下等だったようだ。マジリルと打ち合い続ければ当然こうなる」


 マジリルの剣。マジリルは魔法金属だ。

 敵の剣は月明りに照らされて、怪しく光っていた。

 剣を折られてしまったウィナミルさんは苦悶に表情を歪ませている。


「クリオロフォサウルス×冷凍!」


「そんな魔法!」


 竜魔人の周囲ごと凍らせてはみたものの、竜魔人は胸を張ると、体表を縛る氷を砕いてしまった。


「そんな魔法は僕には効かない。おとなしく、ここで朽ちてもらえると嬉しいよ」


 竜魔人。その剣技は肉体強化したウィナミルさんを圧倒し、その体はこちらの魔法も受け付けない。


「でも、その剣で何ができるの?」


「なんだとっ!」


 竜魔人は冷凍の魔法でも凍らせることはできなかった。

けれど、竜魔人が持つマジリルの剣は凍り、周囲の空気を巻き込んで分厚く凍りついている。

『つらら』までできてしまった剣は、とても切れ味が悪そうだ。


「パンファギア×収納!」


 魔法空間の中から新たな剣を出し、ウィナミルさんに投げ渡す。


「凍てついた剣で俺に挑めるか? 竜の魔人よ」


 剣を構えたウィナミルさんが竜魔人に迫る。

 私は竜魔人に言った。


「もうエリーをつけ狙うことはやめて。エリーは何も悪くない。悪いのはマルネスでしょ。これ以上悪事を続けるというのなら、あなたも倒すことになる」


 それを聞いた魔竜人は、竜の面をこちらに向けた。


「どういうことだ。伯爵の街から逃亡したエリザベスという者は稀代の悪女だと聞いたが」


 そんな事はない。

 私は丘の下で魔竜と戦うエリーを指さした。


「あれがエリザベス? まだ子供ではないか。マルネス、僕を騙したというのか」


 魔竜人が驚きの声を上げる中、さらなる叫びが私の耳に届く。


「魔竜め! 俺の槍を食いちぎりやがった。俺の槍を返せ! 商売道具なんだぞっ!」


 キコアだ。見れば魔竜がキコアの鉄の槍を牙で切断し、キコアがボコボコと魔竜の口元を殴り付けている。


「返せっ! 俺の槍を返せよっ!」


 どうして魔竜の正面に立っているの? キコア!


 魔竜の口が大きく開かれると、狂風が前方を抉っていった。

 地面は穿かれ、その先の木々は切断されていく。


「キコアさんっ!」


 ルティアさんの悲鳴が木霊した。

 エリーは硬直し、その視線は抉られた無残な大地に向いている。

 それは草も花々も、全てが散り散りになった死の光景だった。


「キコアァァァ!」


 魔竜! 魔竜め! 

 私は全ての魔力を右手に集中させる。

 ブルカノドン×火炎。消費魔力は今や2だ。

 残りの魔力を全て魔竜にぶつけてやる!


「フィリナ! 今は目の前の敵に集中しろ!」


「そんなこと知るか! あの魔竜はキコアを殺した。まだ子供なんだぞ。やりたいこと、いっぱいあったはずなんだ! 死んでいい歳じゃないだろ。キコアはまだ12歳だ! 許せるか!」


「そう言うオマエは10歳だろ」


「全部の力で魔竜を殺すっ!」


 残りの魔力37。

 通常の18倍以上のブルカノドン×火炎を魔竜に向けて解き放つ。

 魔竜の背中に直撃。

 その背中は激しく炎上し、巨大な火柱を上げる。


『ギャアアアアっ!』


 魔竜はこの世のものとは思えない絶叫を上げた。


「今ですっ!」


 ルティアさんは魔竜の喉めがけて剣を振り上げる。

 魔竜の喉から滝のような鮮血が溢れ出た。


「いくら改造した魔竜といえども、老衰した体ではここまでが限界か。撤退するぞ」


 魔竜人は背中から翼を展開させると、風を纏って魔竜の背に飛び降りた。

 風の力で、魔法の火柱が拡散して消え失せていく。

 魔竜は魔竜人を乗せ、夜空へ羽ばたくと、北に向かって消え失せて行った。



☆☆☆



「キコアァっ!」


 私は丘を駆けおりると、魔竜の突風が残していった、抉れた地面に駆け寄った。

 キコアはどこにもいない。

 ケガを負った小さな身体も、冷たくなった亡骸ですら、その片鱗を残してはいなかった。


「キコア、ごめん。私がもっと早く敵の存在に気付いていれば。竜魔人を倒していれば、こんなことにはならなかったのに。ごめんなさい……」


 私は削られた地面に突っ伏した。

 キコアはまだ12歳だった。私が12歳の頃、何をしていたっけ。

 目標のひとつ、キコアの冒険者ランクをFに上げること。

 大切な仲間と目標を失ったんだ。


「キコア、Fランクにしてあげられなくて、ごめんね!」


「それは、これからでいいから」


「こんな私が生き残って、まだ幼いキコアが死んでしまうなんてっ!」


「オマエは俺より年下だろ。それに生き残ったんだから良いじゃねぇか」


「キコアがいない世界……そんな世界で生きていても意味がないっ!」


「そこまで言われるなんて俺、照れるななぁ」


 ン……?

 顔を上げればキコアがバツが悪そうに笑っていた。


「キコア、生きているの?」


「間一髪でマリッパの姉ちゃんに助けられたぜ」


「はい。魔竜が口を開けたので、とっても急いでキコアちゃんを担いで逃げたのです。特技の隠ぺいを使ったので、魔竜は気付きもしなかったのですよ」


 特技・隠ぺいは周囲から姿を認識されにくくするものらしい。

 本人以外でも他人に触れれば、その他人の姿も周囲からは認識されにくくなるのだそうだ。


「よかったぁぁぁ!」


 私はキコアに抱きついた。

 泣きながら、それこそルティアさんのように頬と頬をすりすりしながら喜ぶ。

 キコアは「やめろよ」とは言ったものの、観念して私の抱擁を受け入れていた。


「全力放出、できませんでしたわ」


 あちらではエリーが残念そうに口を尖らせている。


「やったぜ! 俺は魔竜を退しりぞかせたんだ!」


 向こうではラエリンが小躍りしている。どうでもいい。

 魔竜に襲われた私たちは奇跡的に死者ゼロ。

 しばらくは魔竜戦の勝利に沸き立つのだった。


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