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45.魔竜襲来(2)

 魔竜襲来。

 私たちは必死で攻撃を加え続けているものの、致命傷を与えられずにいた。

 ここで新たな恐竜×魔法が解禁。

 相性のいい恐竜と魔法の組み合わせを当ててみたものの、新たな力は、すごく臭かった。


「フィリナさん、恥ずかしがらずにどんどん出して下さい」


「マリッパさん、言い方……」


 私は今、ガソサウルス×可燃性ガスで右手から放たれる謎の気体を麻袋に詰めている。

 詰めるといってもガスだ。

 麻袋が膨らむと、ガスが漏れないように、マリッパさんが素早く麻袋の口を縄で縛っていく。

 これを何度も繰り返していく。


「この麻袋、どこから?」


「荷馬車の中にあったのです。中身の食糧や水は全部ひっくり返して、放り出してきたのです。緊急だから仕方ないのです」


 荷馬車のほうを見れば、魔竜との戦いで既にひっくり返っている。

 荷馬車の前には食糧や傷薬が散乱していた。


 ガスは屋外だと拡散しやすい。

 だから箱や袋に詰めたほうが良いとマリッパさんは言った。

 だから良い袋がないかと探していたら、マリッパさんが都合よく持って来たのだ。


「みなさん、こちらの作戦が悟られないよう、攻撃を続けて下さいなのです」


「そんなこと言ったって、魔竜が硬すぎてろくな攻撃が……あ、エリーのヤツ、また無茶しやがって」


 キコアの言うとおり、エリーは魔竜の足下に立つたびに「全力放出!」と連呼しながら殴りかかっている。

 それでも魔竜に決定的な損傷を与えることはできない。


「エリーさん!」


 魔竜がエリーに敵意を向けるたびに、妖精憑依したルティアさんが救出に向かう。

 妖精の力を得たルティアさんは十分速いのだ。

 ルティアさんの素早さを活かし、戦闘中のウィナミルさんたちに作戦を伝えに行ってもらった。


「それでも、攻撃が通らなくちゃ、こっちに勝ち目はないよね」


「そのためにもフィリナさんの魔法が必要なのですよ。ん、これで最後なのです」


 最後の麻袋を魔法のガスで満たす。

 麻袋は全部で8つだ。

それぞれにガソサウルス×可燃性ガスの魔法のガスが入っている。


「では、みなさん。上手く立ち回って下さいなのです!」


 魔法のガス。マリッパさんが作戦をルティアさんに教えているあいだ、試してみた。

 恐竜×魔法を意図的に終了させた場合や、発動から1分が経過するとガスは消えてしまう。

 せっかく麻袋に入れたガスもなくなってしまうのだ。


 これは火炎や冷凍の魔法も同じだ。

 魔法の火炎は『ブルカノドン×火炎』を連続使用しないと消えてしまう。

 魔法の冷気は『クリオロフォサウルス×冷凍』を連続使用しないと消えてしまう。

 一回の使用時間は一分だ。


 けれど魔法の冷気で凍らせたものは、魔法の効果が切れても凍ったままだ。自然解凍されるか熱を加えるまで凍ったままだった。

 魔法の火炎で焼いた雑草は、魔法の効果が切れても、元の青々とした雑草に戻るワケではない。


 魔法という『原因』がなくなったとしても、そこに残された『結果』はそのままなんだ。

 可燃性ガスの魔法。まだ『結果』を残していないので魔法の効果は持続させたままでいないといけない。

一分経つ前に連続使用を続ければ、一度作り出した可燃性ガスは消えずに残ってくれる。


 この魔法を使っているあいだは、私は無防備だ。

 エオラプトル×俊敏性強化(小)のときのように身体が強化されているワケではない。


 魔竜の周囲を動きまわってもらうのは仲間の役割となった。

 ルティアさんが麻の袋を幾つも持ち、魔竜の足下に配置していく。


「今です!」


 配置し終えたルティアさんの合図で、魔竜に斬りかかっていたウィナミルさんやキコアたちが魔竜から離れた。

 同時にラケロパさんたち兵士が火矢で麻袋を撃ち抜いていく。


 ドゴォォン!


 とんでもない音と共に爆炎が立ち上がった。

ブルカノドン×火炎の数倍の熱気があたりを支配し、大きな爆発が魔竜を飲み込む。


 可燃性ガスの魔法。

 よく考えたら最初から燃えているはずはないんだ。

 引火されて初めて真価を発揮する魔法だったんだ。


「すっげぇな」


 キコアはもちろん、みんな唖然としている。


「やっぱりフィリナちゃんはスゴイ魔法使いなのですよ」


 マリッパさんは、してやったり、という顔をして、叫び狂う魔竜を眺めていた。

 爆炎の中から這い出してきた魔竜は、ところどころ鱗が剥がれ落ち、赤い筋肉を露出させていた。


「よし。傷口を狙って攻撃を仕掛けろ!」


 ウィナミルさんの号令でみんなが魔竜に向かっていく。

 魔竜は傷口に剣撃や矢が命中するたびに悲鳴を上げはじめた。

 攻撃が通る。

 でも、もう麻袋がないので、私は同じ攻撃ができない。


「だったら。エオラプトル×俊敏性強化(小)!」


 新たな恐竜×魔法が解禁されたのと同時に、既存の恐竜×魔法の魔力の消費魔力は低減された。

 今のエオラプトル×俊敏性強化(小)の消費魔力は2から1だ。

 素早く魔竜のお尻にまわりこんで一太刀浴びせてやる。

 剣を握りしめ、お尻に斬りかかろうとした、そのとき。


「くらえ! ……きゃうんっ!」


 またしても大きな尻尾でなぎ倒されてしまった。

 さすがに二度目の恐竜×魔法の解禁はない。

 でも、どうして死角からの攻撃が分かったんだろう。


「魔竜はお尻にも目があるの?」


「そんな生き物いるワケないだろ!」


 キコアが私に応えながら魔竜を攻撃している。

 だったら、どうして?


 魔竜を観察すれば、みんなの攻撃から傷口を守るように動いている。

 顔はウィナミルさんへ向けているときも、ほかの人の攻撃から上手く傷口を守りつつ、反撃に転じている。


 魔竜は戦い慣れている? 

 それにしたって立ち振る舞いが上手すぎる。

 お尻からの攻撃にしたってそうだ。

私は魔竜が、仲間に気を取られていると考えて攻撃を仕掛けたっていうのに。 


 キコアの言うとおり、お尻や全身に目がないのだとしたら。

 仲間たちの気配を読んでいるとでも?

 まるで空に目があるみたいだ。


「空に目……それとも誰かから教えてもらっているとでも言うの?」


 そういえば、この魔竜は喋らない。

 以前の世界で私を噛み殺し、三条さんやバスの乗客を襲った魔竜は言葉を発していた。

 たいして、この魔竜からは意思というものを感じない。

 なんだか物のように感じる。

 まるでラジコン、もしくはドローン?


 ……あっ! ハッとして見回す。

 この魔竜、誰かが操作しているのなら。

 第三者の目線で、この戦場を俯瞰している者がいるとするのなら、魔竜の死角からの攻撃にも対応できるはずなんだ。


 どこだ。

 魔竜を操っている人がいるとするのなら、どこに。

 私は北側にある小高い丘、東西に伸びる道の向こう、南側の森の奥に視線を這わせた。


 ダメだ。暗くてよく見えない。

対してこちらは開けた場所。月明りが照らしているおかげで、よく見えるのだ。

それは、どこかに潜んでいる敵にも。


「恐竜と魔法。力を貸して」


 解禁された力は、あと4種類。

その中に私が目星をつけていた恐竜×魔法がありますように。


「目星のふたつめ! オフタルモサウルス×視力強化!」


 オフタルモサウルスはまるでイルカのような外見をした生き物だ。

 中生代と呼ばれる時代には爬虫類の祖先はもちろん、恐竜のほかにも空を飛ぶ翼竜や、海で生きる魚竜と呼ばれる爬虫類がいた。お父さんが言っていたっけ。


 オフタルモサウルスは魚竜の一種だ。目がとても大きい。

 見た目、この魚竜なら視力強化の魔法と相性が良いかもしれないと思った。


『ガオオオン! 解禁された恐竜×魔法を選ばれました!』


 やった! 神様ありがとう。

 視界が一瞬で昼間のような明るい世界に変貌した。

 意識すれば、カメラのズームみたいに遠くまで見れる。

 ルティアさんの肌、すごくきめ細かい。ウィナミルさんも同様だ。やっぱり兄妹なんだな。


 南の森へ目を向ける。誰もいない。

 魔竜が最初の突風を森に向けて放っていたことを考えれば、森の中にいることは考えにくい。

 東西へ伸びる道。

 私たちが撤退を考えた場合、道の先でかち合う可能性がある。


 すると……北にある小高い丘に目を向ける。

 丘の上にも木々が生い茂っている。

 でも、今の私の視力ならっ!


「……、いたっ!」


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