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44.魔竜襲来(1)

 エリーの護送12日目の夜。

 野宿の準備をしていた私たちの頭上にドラゴンが現れた。


「魔竜だとっ! どうしてここに!」


 ウィナミルさんが叫ぶ。

 見渡せば全員、ドラゴンの存在に気付き、身構えていた。


「ドラゴン……じゃなくて魔竜。ルティアさん、人間と魔竜との戦いは終わったんじゃないの」


「たしかに魔竜との戦争は80年前に終結。人類の勝利で終わりました。ただ一部の魔竜が暗黒大陸や魔境で生き残っていると言われています」


 魔竜は絶滅したわけじゃなかったんだ。


「そんで、どうして田舎暮らしの魔竜がここにいるんだよ!」


「そんなこと、知る由もありません!」


 キコアの疑問にルティアさんは混乱した様子で答えている。

 魔竜はこちらを睨みながら、どんどん降下してくる。

 風が強い。魔竜の翼の羽ばたきのせいだ。


「撤退……いや、間にあわんか。全員、戦闘準備だ」


「マジかよウィナミルの兄ちゃん」


「キコア、あれから逃がれる術を知っているのか」


「戦う術も知らねぇよっ」


 ウィナミルさんの言うとおり、エリーを守りながら逃げ切れるとは思えない。

 魔竜は着陸すると、周囲の木々を揺るがした。

 大きい。高さは三階建ての建物、長さは路線バス2台分くらいか。


 イヤなことを思い出す。

 夜行バスが焼かれ、私が食い殺された、あの日のこと。


 鱗がびっしりと生えた太い足は、気味の悪い大樹のようだ。

 ほかの生き物を怯えさせるために造形されたような口からは、鋭い牙が飛び出している。

 私はアレに噛み砕かれたんだっけ。

 長い尻尾は巨大な蛇のようにうねっている。

 そして街まで届くかのような咆哮をあげた。


「さすがにアイツの魔石は、無理だぜ」


 キコアも魔竜の威圧感に呑まれていた。そのときだ。


「魔竜大戦。多くの魔竜が、この王国も蹂躙したという。そのとき戦い、ヤツらを葬ってきたのは我々の先達だ。騎士なら十分に討伐できる。怯むなっ! 日頃の成果を見せろ!」


 ウィナミルさんが剣を構える。


「成果。そうですね。今こそ私の実力をお兄さまに知ってもらえるときです」


「マジか。ちくしょうっ」


 ルティアさんは猫の妖精ミックを呼び出して妖精憑依ポゼッションした。

 キコアは鉄の槍を構える。

 ラエリンやラケロパさんたちも臨戦態勢だ。


 今の私には恐竜と魔法の力がある。それに仲間だっている。

 目標もある。守りたい子だっているんだ。こんなところで負けられない。

 二度と死ねない。

 魔竜の口が大きく開く。

 あれは……火を吐くつもりだ。


「みんな! 魔竜の正面から逃げて! 燃やされる!」


 大きな口から突風が吐かれた。

 その先にあった地面は抉れ、木々や岩はひしゃげ、砕かれ、切断されていった。


「竜巻……かまいたち?」


 みんなは……よかった、無事だ。

 すでに魔竜の左右にまわりこんでいる。


「俺の剣をくらえっ……硬っ! ぐえっ」


 ラエリンが魔竜の足に斬りこんだものの、たいした傷を負わせることはできなかった。

 それどころかラエリンは、迫ってきた魔竜の足に激突して吹っ飛ばされてしまった。

 魔竜は足を動かしただけで、足下にいる人間に蹴散らすことができてしまう。

 身体が大きいと、それだけで脅威だ。


「まずは動きを止めなくちゃ」


 クリオロフォサウルス×冷凍!

 冷気の風を魔竜の前足に浴びせる。

 前足はみるみる凍っていくけれど。


「ダメか……」


 凍りきる前に魔竜はすぐに姿勢を変えてしまう。

 前足はいつまでも同じ位置にはいない。

 それに魔竜の体が大きすぎて全体を凍らせるなんて不可能だ。


 魔竜は頭をこちらに向けてきた。

 また突風を吐かれたら厄介だ。

 あんなものに直撃してしまったら死んでしまう。


 魔竜の正面から移動する。

 それでも魔竜の頭をこちらに向けてくる。標的にされてしまった。


「うおおおっ!」


 ウィナミルさんが魔竜の後ろ脚を攻撃。

 ラケロパさんも私の位置の反対側から魔竜の頭めがけて矢を放つ。

 魔竜の注意が私から逸れ、魔竜はウィナミルさんの方へ顔を向けるものの、ウィナミルさんたちは動きまわり、狙われないよう立ち回っている。

 

「ええいっ!」


 そのときだ。エリーが竜鱗材ドラゴアーマーのナックルを握りしめ、魔竜に向かって走ってきた。

魔竜の前足めがけ、拳を繰り出す。


「くらえっ! くらえっ!」


 エリーは何回も殴りかかるけど、魔竜の太い足は鱗すら剥がれない。

 それどころか魔竜の顔がエリーに向いてしまった。


「危ない!」


 エオラプトル×俊敏性強化(小)!

 魔竜の口が大きく開き、突風がエリーに直撃する寸前で、私はエリーを抱えて魔竜の死角に滑りこんだ。


「エリーは、ばあやさんたちと逃げて」


「相手は魔竜ですのよ。ここであなた方が全滅しては、たとえ逃げたとしてもやがて追いつかれる。だったら私もここで戦いますわ。戦える人間が一人でも多いほうが勝機を掴めるんではなくて」


「でもエリーは護衛される側だし。貴族でしょ」


「なおのことですわ。臣下を助けるのも貴族の宿命。それに私の天職は闘士でしてよ。お父様なら、たとえ相手が魔竜でも逃げたりしませんわ」


 私の腕から離れたエリーはナックルを構える。


「この状況では守る側も守られる側も関係ないかもしれませんね」


 魔竜の足に何度も剣を浴びせていたルティアさんが、息を切らしながら言う。

 魔竜は硬い。

 ウィナミルさんやルティアさんら天職持ち、騎士や兵士が攻撃を加えているというのに致命傷を与えられないでいる。

 それどころか魔竜のほうも私たちの攻撃を立て続けに受けまいと、上手く立ち回りはじめる。

 この魔竜は戦い慣れしているようだ。


「だったら!」


 まだエオラプトル×俊敏性強化(小)の効果は持続中だ。

 私は魔竜の背後にまわりこむ。

 完全な死角だ。この位置で攻撃を加えられれば状況は変わる。

 私は剣を握りしめ、魔竜のお尻めがけて一撃を加えようとした。


「くらえ! ぎゃふっ!」


 魔竜の大きな尻尾が急に動きだし、死角から飛びかかった私を殴りとばしたのだ。

 まるでクルマに跳ねられたかのように、打ちのめされ、ゴロゴロと地面を転がる。

 エオラプトル×俊敏性強化(小)による身体の強化がなされていなかったら死んでいたかもしれない。


『キンコンカンコン! 魔竜の攻撃を受けました。これより5種の恐竜×魔法を解禁します。さらに既存の恐竜×魔法の消費魔力を低減させます』


 神様のアナウンス! このタイミングで?


「生きてるかフィリナ。生きていたらボケっとすんな!」


 鉄の槍で魔竜の足を斬りつけていたキコアが言葉を向けてくる。


「キコア、さっき神様の声がしたよね」


「死にかけたって言いたいのか。騎士の荷物の中にポーションがあったから飲んでろ」


 ルティアさんやエリーたちを見ると、必死に魔竜に挑んでいる。

 みんなには聞こえなかったのか。


 それにしても5種の恐竜×魔法を解禁って……。

 前回は3種類だったのに。

 それでも新しい恐竜×魔法の力は嬉しい。もしかしたら魔竜に勝てるかもしれない。

 いや、勝たなくちゃ死んでしまう。勝つんだ。


 私はファイヤーゴブリンの戦い以来、暇なときは相性のいい恐竜と魔法の組み合わせを考えてきた。

 ステータスオープンさせて、恐竜の姿と魔法の名称を眺めてきた。


 恐竜と魔法はそれぞれ80種類。

 それらの中でも気になる恐竜と魔法の目星は付けている。

 ふたつだけだけれど。


 まずはひとつめ。

 恐竜のガソサウルス。後ろ足で立つ二足歩行の恐竜だ。

 続いて魔法は可燃性ガス。

 このふたつなら相性が良い気がする。

 だってガソサウルスのガソって、可燃性ガスのガスっぽいから。


「ガソサウルス×可燃性ガス! お願い!」


『ガオオオン! 解禁された恐竜×魔法を選ばれました!』


 やった。右手を魔竜へ向ける。くらえっ!


「……何も出ない?」


 そんな。いや、何か出ている気がする。

 魔力だって減っていくのがわかる。消費魔力は4だ。

 手の平からシュウゥっという音と共に、何かが出ている。


「なぁ、何か臭くないか?」

「そういえば、そうですわね」

「たしかにすごく臭いですね。魔竜の呼気でしょうか」


 たしかに臭い。

 キコアとエリー、ルティアさんが魔竜をジッと見、首を傾げると、一斉にこちらに視線を向けた。

 ルティアさん以外は怪訝な感じでこちらを見ている。

 わかった。ニオイのもとは私の手だ。

 私の手から出ている魔法がくさいんだ。


「ち、ちがうよ、みんな。これはきっと魔法のニオイだから!」


「魔法のニオイってなんだよ?」


 キコアが完全に疑った目で私を見ている。

 なんなんだ、この魔法は。手が臭くなる魔法?

 可燃性ガス。言葉からしてスゴイ火が出てくるかの思ったのに。


「クンクンクン。フィリナさんの近くは変わったニオイがするのですよ?」


「マリッパさん? 今までどこに」


 マリッパさんは鼻をひくひくさせながら、私の周囲を嗅いでいる。


「ばあやさんと従者さんたちを離れた場所にかくまっていました。御令嬢はばあやさんを振り切って、こちらに向かってしまったので、慌てて追いかけてきたのですよ」


 そうなんだ。


「それにしてもフィリナさんのニオイって」


「これは私のニオイではありません。私の魔法のニオイなんです!」


 私は右手を見せつける。

 マリッパさんは私の手をクンクンと嗅いだ。


「あ! 思い出したのです。これと同じニオイを王都の錬金術師の工房で嗅いだことがあるのですよ。その錬金術師はスゴイ爆弾を作ろうとしていたので、御隠居様と私は見学しに行ったことがあるのです。はい」


「つまり、どういうことですか」


「このニオイはスゴイ爆弾のもととなる気体と同じニオイがするのですよ。フィリナさんは魔法でこのニオイを出したということは、スゴイ爆弾が作れるというワケなんです」



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