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43.告白(2)

 かつて御令嬢エリザベスはお友達と共に誘拐されていた。

 小屋に閉じ込められた彼女たちを待っていたのは人体実験。

 そこにはマルネスの姿もあった。

 お友達は、この世界にはないはずの注射器で何者かの血を注入されて死亡。

 次は御令嬢の番となったとき、謎の少女が助けに来たのだという。


「エリザベス様を助けたその子は、その後どこへ行ったのでしょう」


「それが。あれ以来お会いできていないのです」


 男たちを一撃で倒し、竜の化け物に変貌したマルネスを撃退した謎の少女。

 ルティアさんの問いに御令嬢が答えた。


 事件のあと、御令嬢は街へ出ることはなくなった。

 父親やばあやから、庶民街へ行くことを禁じられたそうだ。

 御令嬢は続ける。


「あの方は、こう仰っていましたわ。自分には助けを求める少女の声が聞こえる。そんな少女を救出するだけの天職と特技を授かった者だと」


「天職と特技!」


「はい。天職は魔法少女。特技は悲鳴受付係。その名は永遠の14歳、ミラクル☆ミサオンと」


 ミラクル☆ミサオン!

 私がいた世界で、私が子供の頃から放送されているテレビアニメだ。子供の頃に見ていた。

 魔法の力で変身した中学二年生の女の子が、パンチやキック、奇跡の力で悪と戦う魔法少女アニメ。

 たしか10年くらい放送していて、私が死んだときも後続のシリーズが放送されていたはず。

 初代主人公であるミサオンは10年間の放送にもかかわらず、ずっと中学二年生のままだった。


「魔法少女。そんな天職は聞いたことがありません」


「ルティアさん。この世界にピンク色……明るすぎる桃色の髪をした人っているの?」


「いえ、それも聞いたことはありません」


「フィリナの黒髪も十分珍しいけどな」


 ピンクの髪はミサオンの髪の色だ。

 どういうことだろう。

 ここはテレビアニメのキャラクターが生きている世界なのだろうか。


 それとも。

 神様はこの世界で夢を叶えるための天職と特技を授けてくれた。

 誰かがミサオンになりたいって願ったのだろうか。

 けれどバスの乗客の中に私より年下の女子なんていなかったはずなのに。


「そういえば。あの方は二の腕まで、はだけた服を着ていましたわ」


 ミサオンの衣装も、まさにそれだ。


「右腕には、まるで竜が天にのぼるような形の紋章が浮かんでいましたわ」


 それはアニメのミサオンとは違う。

 右腕に昇り竜の紋章……どこかで見たような気がする。


「私がマルネスに狙われる理由、お分かり頂けましたか」


 御令嬢の目は悲しげだ。

 マルネスを追いつめることも叶わず、友達の仇も取れないまま伯爵領を去ることになった。

 そしてマルネスは自分の立場にものを言わせ、野盗を装った私兵をぶつけてきた。

 私たちにマルネスを倒すことは難しいだろう。でも。


「ねぇエリザベス様。伯父子爵様はこのことを御存知なんですか」


「え? ええ。恐らくですが、あの事件以来、父は伯父と頻繁に手紙のやり取りをするようになったと、父の従者が言っておりましたわ」


「エリザベス様。オスニエル子爵様は聡明なお方だと兄が申しておりました。きっと事情を知らなくとも、エリザベス様が相談すれば動いてくれるはずです」


「子爵の街まで、あと半分だ。絶対アンタを送り届けてやんよ」


 焚き火のゆらめきに照らされた御令嬢の表情は暗い。

 私たちは立ち上がり、そんな彼女の手を握る。


 冒険者である私たちにできること。

 それは御令嬢を新たな親元という、マルネスと戦える場に無事に送り届けることなんだ。

 ずっと迷路の中でもがいてきた御令嬢は私たちを見上げた。


「エリザベス様。またマルネスの私兵がやって来ても、私たちが戦ってやっつける。だから安心して」


「もう遅れは取りません」


「次来たら騎士より早くやっつけて身ぐるみを剥いでやる。魔石を渡しちまったから臨時収入がなくなっちまったんだよな」


「ありがとう、みなさん」


 御令嬢は立ち上がると、私たちの手を強く握り返してくれた。

 マルネスを裁くにはもっと上級の貴族の力が必要だ。

 そういえばオスニエル子爵領には偉い公爵様がやってくるんだっけ。

 お話できる機会さえあれば良いんだけど。


 ガサガサ……。

 人の気配がした。そちらの方向に視線を向けても、誰もいなかった。



☆☆☆



「うあぇぇん。悲しいのですよぉ」


 翌朝。マリッパさんの泣き声で目が覚めた。

テントの外に出てみると御隠居さんたちの馬車が消えている。どうしたんだろう。


「あの、御隠居様たちはどちらに行かれたのでしょう」


 私たちが困惑する中、ルティアさんの質問にウィナミルさんが答えた。


「番をしていたラケロパのはなしでは、ご老公一行は急な用事ができたと言って、日の出前に出立したらしい。連絡先も聞けなかった。不思議な御人だったな」


「ふぅん。じゃあなんでマリッパの姉ちゃんは、ここにまだいるんだ?」


 するとマリッパさんはこちらに顔を向け、すごい勢いで迫ってきた。


「聞いてほしいのですよ。マリッパは夜中に喉が渇いて、この先にある沢までお水を飲みに行ったのですよ」


「たしかに沢がありますね」


私たちもそこで水を汲んだんだ。


「そこで寝るのに丁度いい、上が真っ平らな石があったのです。朝になったら、沢で顔を洗うのだから、石の上で寝てしまおうと考えたワケなのです」


「なるほど」


「朝になって、この場所に戻ってみると御隠居様たちがいなくなっていたのです」


「置いていかれてしまったのですね」


「夜明け前に出立すること、聞いてなかったのかよ」


 ルティアさんの言葉に頷き、キコアの疑問にしばし無言となったマリッパさん。


「そういえば今朝は早起きするよう、言われていたのです」


「じゃあ、どうしているんだよっ」


「うわぁぇぇぉん」


 また泣いてしまった。仕方ないのでマリッパさんを連れていく流れとなった。




「おはよう、みなさん。今日もよろしくお願いしますわ」


「おはようございます。えっと、エリー」


 そう返すと、メイド服姿の御令嬢はニコリと笑って、箱馬車に乗り込む。

 昨晩の告白のあと、御令嬢は私たちに、自分のことをエリーと呼んでほしいと言った。

 エリザベスだからエリー。親しい人間には、そう呼ばせているようだ。


「なんだか、とっつきやすい感じになったな」


「あれが本当のエリーさんなんだと思います。御令嬢でありながら、庶民の子供とお友達になれるのですから」


 そう言うルティアさんは、今日もお嬢様の姿に扮している。

 子爵様の街まであと半分。

 私たちは御令嬢改めエリーの箱馬車に乗りこんだ。



☆☆☆



 エリーの護送の9日目から11日目は何の問題もなく終わった。

 そして12日目の夜。

 この日もいつものように、開けた場所で野宿の準備を進める。


 北側は小高い丘。東西に伸びる道。

 南側の空き地に馬車を停めて、テントを張る。その奥は森だ。

 私はルティアさんとキコアに話しかけた。


「あと3日もあれば子爵様の街に着くね」


「マルネスも諦めてくれたようで、何よりです」


「それにしても魔物が出ねぇと臨時収入が」


 キコアは魔石が欲しいようだ。

 それにしても今晩は風が強いな。

 火をなかなか起こすことができない。


「代わります」


 ルティアさんが代わりに火を起こそうとしてくれる。


「ごめんね。なかなか上手く出来なくて」


「良いんです。それにフィリナさんは私のせいで腕をケガしてしまいましたから」


 ルティアさんがさらわれたとき、私はマルネスの私兵の馬車を追いかけた。

 あのとき馬車から放たれた矢が、私の左腕をかすめ、ケガを負ってしまった。


「でも大丈夫。もう治りかけているから」


 ルティアさんの前で腕をグルグル回してみる。

 もう痛くはない。御隠居さんたちの部下の女性が、しっかりと手当てしてくれたんだ。


 それにしても。

 ファイヤーゴブリンとの戦いで3つの恐竜×魔法の力が解禁された。

 ファイヤーゴブリンの攻撃を受けた直後に、神様のアナウンスのようなものが聞こえたんだ。

 でも、そのあとの戦いではひとつも解禁されなかった。

 黒きG、マルネスの私兵。

 どれも私はケガを負ったというのに。


「強敵じゃないと解禁されないのかな。それとも死ぬような攻撃を受けないとダメなのかな」


 あのとき神様は『魔竜に準ずる者の攻撃』と言っていた。

 どういう意味なんだろう。

 分からないことも多い。

 マルネスが魔竜人に変貌すること。人体実験に使われた何者かの血。

 注射器、馬車に使われているサスペンション、ミラクル☆ミサオン……。


「フィリナ、何ボケっとしてんだ。晩飯の準備してくれ」


「ごめんキコア。ルティアさん、火は?」


「すいません。今晩は風が強くて」


 たしかに風が強い。もうすぐ冬だから?


「おいおい。この風、おかしいぞ」


 キコアが叫ぶ。

そうなの? そう言おうとした矢先。


「なんだ、あれ!」


 ラエリンが空を指して叫んだ。


「あれって……」


 視線を向けた先には、忘れもしない、死ぬ直前に見た巨大なドラゴンが、大きな翼をはばたかせ、こちらに向かって下りてくる姿があった。


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